【Full Moon 2】 09







 やっぱり、今日、アイツんちに行った方がいいのかもしんない。そんな、気がした。

 今日行かないって言ったけど……別に予定があるわけでも無かった。自分の気持ちに整理がつかないだけで、断る理由なんてどこにもなかったんだ。今は、勉強する気も起こんなくて、ただベッドに転がって天井見てるだけだけ・

 行けない、んじゃなくて、ただ行かないだけ。俺がこんなんだから、行けない。行かない方がいい。



 石田が辛いのは、解る。
 吸血鬼だなんてのがどんなものかは解んないし、血を飲まないとどのくらい辛いのかなんて俺には解んねえけど。
 本当に具合悪そうだった。

 好きになってもらいたいから、優しくしたいし、あいつが望んでんなら、どんなことだって叶えてやりたいけど。そうやって少しでもポイント稼ぎたいし、俺の血、石田が飲む分ぐらい貧血になるほどの量でもないし、大した事でもない。噛まれた時は少し痛いけど、次の日には傷口はほとんど治ってる。




 でも、俺も我慢すんの辛い。

 無茶苦茶にしたら、壊しちまいそう。あの細くて折れそうな身体もだけど、関係も全部壊しそうで……怖くなった。嫌われたくない。

 血を飲んでる石田がエロすぎて、交換条件だって言って石田の弱味につけ込んで、セックスして……



 ただ、好きになって欲しいだけなのに。

 俺、何やってんだ?


 石田が血を飲みたがってんのくらいは解ってるけど、今、俺が石田んちに行ってどうなる?

  また我慢出来なくなって……多分手を出すのは目に見えてる。石田は血を飲める代価としてそのくらいいいって思ってるのかもしれない。そのくらい、血が飲みたいだけなんだと思うけど。

 だから……明日になれば、また月が欠けてくる。明日になれば、石田は大丈夫になってるはずなんだ。今日を乗り切れば、きっと明日は今日よりマシで、明後日には吸血鬼が治るんだろう。よく解んねえけど。


 だから、俺が今日石田を我慢すりゃ……。



「一護、うるせえぞ!」
「はあ? なんも喋ってねえだろ!」

 床で雑誌読んでたコンがいちゃもん付けて来やがったから、枕投げてコンを潰そうとしたら、避けやがったのも気に食わねえ。

「お前が何かイライラしてんのがうるさいっつってんだ」
「………うるせえ」

 悪かったな。
 俺だって好きでイライラしてるわけじゃねえよ。

「少しナンパでもして発散してきたらどうだ? せっかくエロ本読んでるのにイライラが伝染してうるせえ」
「エロ本って……お前それドコから出してきた? 部屋ん中、遊子が掃除に入ったりすんだぞ!」
「大丈夫だって、ちゃんとバレないベッド下にしまってあるから」
「てめ……」


 今度は目覚まし時計投げようとした時、机の上の代行証が鳴った。




 虚……。





「ちょうど良かったじゃねえか。少しは身体動かして来いよ」

 慌ててコンの足掴んで持ち上げて後ろから叩くと、擬魂丸が床に転がった。
 それを飲み込むと、身体から霊体が引き剥がされる。

 コンのいい様は癪に触るが、でも、本当にちょうど良かった。
 戦ってりゃ、少しは気が紛れる。命やりとりすんだから、さすがに石田の事は頭から離れる。


「一護、てめえも少し優しく扱えよ!」
「ぬいぐるみなんだから文句言うな!」
「あーっ! 足の付け根の縫い目緩くなって来てんじゃねえか!」
「ガタガタ文句つけんな」

 俺の身体が不気味な可愛くもないぬいぐるみ抱き締めて泣き崩れる姿を見たくなくて、窓を開けて身を乗り出す。

「なあ、一護。石田が来てたら、今度ほつれた部分、足の付け根なんだけど、治してくれるように頼んどいてくれないか?」





「……来ねえよ」

「へ?」
「るせえ! 大人しくしてろ! 部屋から出んなよ!」




 あんなに具合悪そうだった。石田が来るはずねえ。来れるはずねえ。

 って思ったが……場所は、石田んちのすぐそば……!






 俺は、窓枠を蹴った。












20111214