【Full Moon 2】 10
「てめ、何で居んだよっ!」 石田が通行人に紛れて、影から虚を狙っていた。 場所は、駅前。 帰宅ラッシュ時につき、駅前は人でごった返してる。つまり、でかい攻撃ができねえ。虚はすぐに見つかったけど……どうする? 石田に駆け寄ると、石田はジロリと俺に一瞥を加えた。 石田は飛廉脚で人波を上手く避けながら、人に当たらないように動く。 「石田!」 駅前で、帰宅ラッシュ時に、これだけ人が居て、誰も石田に気が付かない。石田は生身なのに、人が気が付く以上のスピードで動くから、駅前の街並みはいつもと変わらねえ。 霊圧を上げて虚の注意を自分に引き付けながら、時々人目につかないようにしながら弧雀まで放ち、人気の無い方におびき寄せようとしていた。 「俺の事待ってりゃ良かっただろうが! 今日ぐらい家で大人しくしてろ」 具合、悪いんだろ? 今日満月だろうが。 もし石田が虚に気づいても、出てこれないと思ってたのに。 戦ってる場合じゃないくらい、具合悪そうだったのに。歩くのだって、ふらついてた。だから、戦える状況なんかじゃなかったんだ。それなのに…… 隣を走りながら、でかい声で言っても、睨み付けられたけど、石田は無視を決め込んだように、何も言わない。 「てめ、無視かよ!」 横で怒鳴ってんのに、石田は俺の方を何度か見ただけで、やっぱりなにも言わない。 もしかして、今日のこと怒ってたりすんのか? いや、さすがにこんな状況で俺達が喧嘩してる場合でもないだろう。俺よか石田の方がその辺の打算は効いてるから、もし怒ってたとしても、俺と協力しないって事はないと思う。 石田だって、なるべくなら魂を滅却せずに返した方がいいって考えてるんだ。そのくらい知ってる。いつも、俺が来るのを待ってるから。 虚が攻撃を放つ。攻撃は衝撃波となり、俺達に向かって来たから、相殺できるだけの攻撃で威力を潰した。 が、相殺した衝撃で街路樹の太い枝が折れて人混みの中に落下し、悲鳴が上がった……が、怪我人は、居ないようだな。 高く跳び、駅のアーケードの上に着地した石田を追って、俺もそこに行く。 騒然としてる駅前の広場が一望できる。虚は、逆に人込みから俺達を観察していた……こっからじゃ、手が出せない。 「てめえ、無視してんなよ」 「うるさい! 僕の方が近かったから先に来た! 待ってたから滅却しなかった! 君は霊体だからいいが、僕は生身なんだ」 あ、そっか。 石田は生身だから喋ったら人に聞こえんのか。 今は、街路樹が折れた事で、駅前は混乱しているから、こんな場所に石田がいるなんて誰も気付かねえだろうけど、さっきまでだったら、俺の声は誰も聞こえないだろうが、石田の声は丸聞こえだ。 そっか。 無視されてたわけじゃないんだ。 良かった。 とか、こんな場合で安心してる余裕もねえけど……ちょっと安心した。 「……誘き寄せる」 石田はそれだけ言うと、弓を構えた。 ぴんと背筋の伸びた姿勢。石田が一つの武器になったように、石田ごと霊圧が白く光ってる気がした。 放たれた矢は、真っ直ぐに上手いこと人を避け、虚の足元に被弾する。 駅前の石畳が少し壊れる程度の、軽い攻撃だったけど……。 「っぶねえ。人に当たったらどうする気だ」 「当てるわけ無いだろ。君と違って僕は自分の矢の命中率には自信があるんでね」 「万が一って事もあるだろ?」 「僕に限ってあるわけない」 「んな事言ったって……」 「……黒崎」 続きの文句を言おうとしたら、石田は静かに俺を呼んだ。 虚が、俺達を見てた。 「……ああ」 石田が軽い身のこなしで、駅に向かい、線路に降り立つ。俺はそれに続いた。 線路を走る俺達の後ろから、虚が俺達の後をつけてくる。 俺達の脇を電車が通りすぎて行く。俺は誰にも見えないけど、石田のスピードも、きっと誰にも気づかれないはずだ。 でも、ここじゃ、まずい。 「高架下、川原で」 隣を走る石田はそれだけ、端的に伝えた。 俺も目指してんのは高架下。 確かに、あそこなら誰も居ないはずだ。 中学生の頃、ケンカで良くあの場所使った。陽も完全に沈んだこんな時間に、先客も居ないだろう。ちょうどいい場所があった。 「先に降りてろ、黒崎」 「ああ」 ひらりと着てたジャケット翻しながら、石田は振り返って俺たちの後を追ってきた虚に一撃を放つ。 虚が攻撃を避けようと後ろに飛び退いた。 その隙に、俺は線路から高架下に飛び降りる。 降り立った高架下は暗く湿っていた。 さらさらと流れる川音。 静か。 斬月を握り締めて、気配を伺う。 降りた先で待ち構える。 石田が、虚を誘導するから。 線路から逃げて、降りて来た瞬間を狙って…… 放つ。 攻撃が虚にぶつかった…… 断末魔の叫びを上げながら虚が消えた。 → 20111214 |