【Full Moon 2】 08







 解ったって言ったきり、石田は下を向いてた。ただでさえ薄い身体が、折れそうだって思った。
 顔色が、悪い。呼吸も浅く荒い。肩が小さく動いてた。

 せめて……保健室に行けば。
 教室より人も少ないだろうし、誰もいなけりゃ、少し血をやるくらいなら……学校なら俺だって理性飛ばして石田を襲うまではしないだろうし……だったら……


「石田……大丈夫か?」

 せめて……学校なら。
 俺も耐えられると思う。正気飛ばすような真似はしないと思うし、石田だって血を飲んだ後の酩酊感は、石田の鉄壁の理性で押さえ込むだろう。

 だから、少しくらいなら。

 俺が少し石田に血をやるくらいなら……。





「黒崎……」



 石田は、ふと顔を上げて俺を見た。

 赤い……血の色を映したような目の色が……俺を見た。



 ぞくり、と身体の奥に、火が付いたような気がした。
 ここが、どこかも忘れて、石田の目の色の中に吸い込まれそうになった。

 休憩時間、ざわついた教室なのに、何も聞こえなくなった。今、この空間の中に俺と石田しかいないくなったような、意識には石田以外認識できなくなった。



 石田が、俺を見る。
 石田の視線が俺の中まで入ってきて、俺の暗い部分見透かされるような気がした。


 赤い、目。


 人間とは、やっぱり違う。


 ここは、教室だ。みんないる教室だって、解ってんのに……

 石田に伸ばしそうになった手を握りしめた。


 ここがこんな場所じゃなくて、誰もいなかったら、どこだって、石田の事抱いてたに違いない。意識、持ってかれそうになった。





 石田のせいだ。






「黒崎?」

 石田の声に我に返る。

「……何でもない。お前こそ大丈夫か?」

 大丈夫じゃないって、知ってて。俺は石田が今辛いの知ってて……。

 保健室に、もし誰も居なかったらだなんて安易に考えたけど、多分、そんな事、無理だ。
 石田に血を吸われて、俺が正気で居られる自信なんかない。学校だとか、場所とか時間とか考えずに、石田を無理矢理襲いそうだ。


「石田、辛かったら帰った方が……」

「ほっといてくれ!」



 ばん、と強い音がした。
 石田は、両手を机に叩きつけて立ち上がった。引いた椅子が倒れそうになって、後ろの席にぶつかった。
 強い口調で……ほとんど怒鳴り声だったそれは、教室に響いて、クラスに居た奴らが全員こっちを向いた。

 手を机に叩き付けて立ち上がった石田は、机を見ていて、肩は少し震えていたような気がした。


「石田……おい」
 声をかける間も無く、石田は俺の脇をすり抜けて、走って教室から飛び出した。



 教室中の視線は俺に刺さった。



 追いかけようとして、廊下に出た時には、石田はもう居なかった……階段までクラス二つも挟んでんのに……学校で飛廉脚使ったのかよ、あいつ……。

 霊圧とか感じるの苦手だし、だから俺は追いかける事も出来なくて。







 次の授業、教師が来る前には、石田は自分の席に着いていたけど、次の授業には居なかった。
 隣の席の奴に具合悪いから帰るって伝言残して行ったらしい。授業の出欠確認の時に、隣が教師と石田の隣の席の奴がそう話してた。
 確かに、荷物も無かった。休み時間になったら謝ろうって思ってたのに。

 石田が優等生で学年首位でなのはいつもだし、健康かどうかは置いといても、生身でアイツ以上に強い奴なんかそうそう居ねえってのに、実際あまり健康なふりしてないから、休むことに石田自身も抵抗がないようだし、周りも大して気にしてない。





 でも、マジで具合悪そうだった。


 大丈夫かな。









20111213