【Full Moon 2】 03







 そっと石田の身体をベッドに横たえる。

 石田の瞳は、ぼんやりと俺の目を見てた。ちゃんと俺のこと見てくれてんのは解るけど、俺のこと考えてくれてるのかはわからない。
 俺を見る、石田の赤い、目。いつもは真っ黒な目が、この時だけは赤く見えるのは、光の加減でも錯覚でもない。
 唇には、真っ赤な血糊がこびりついてて、さすがに自分の血を口にしたくなかったから、石田の目蓋に唇をそっと落とした。

 ズボンは脱がしたから、シャツから細い白い足が伸びてるのが、エロい。
 でかくなって、シャツを押し上げて膨らんでる場所が、濡れたシミを作ってる。

 普段だったら、服に着くのとか気にしそうだけど……今は、くたりと力が抜けて、そんな事に意識を回す余裕も無さそうだ。

 だから……抱ける。こんな時……こんな石田じゃないと、きっと触る事も出来なかった。




 シャツのボタンを下から外しながら、見えてきた肌に口付ける。
 いい臭いがするって毎度思う。


 白い色。色素の薄い、白い肌。
 電気消してカーテン閉めて、隙間から漏れる街灯の光だけでも、俺の肌とこんなに違う色。クラスの女子より一段明るい肌色してる。


 俺より断然不健康そうに見えて、生身じゃ敵わないって、本当に卑怯な奴。この前の体育で柔道の時、他の奴の時は目立たないように上手く受け身取ってたくせに、俺の時だけ軽々と俺を投げ飛ばしやがって。嫌味にもほどがあると思う。

 こんな奴を好きになるなんて、本当に人生において予定外で想定外もいいとこだ。



 予想外だけど……惚れたもんは仕方ない。
 そんで、石田が滅却師だったのも想定外で、吸血鬼だったのはさらに想定外で……でも、気持ちは結局何も変わらずに石田が好きだ。


 石田の肌を唇で撫でる。すべすべしてて気持ちいい。綺麗な肌してる。きめ細かくて、男らしいって言い難い肌が、石田らしくて、惚れ直す。

 そりゃ、俺と違ってガキの頃から修行してて、ガキの頃から虚と戦ってたしたらしいから、歴戦の後の傷痕がうっすら残ってるけど。
 唇に触れる皮膚が、白くてさらさらしてて、気持ちいい。石田の肌にキスしながら、時々、味も気になって舐めると、石田の口から吐息の混じった甘い声が出てくる。すげえ、美味い。


 胸を口に含んで舌先でつつくと、少しづつ硬く勃ち上がって来るから、そこを舐めたり唇で挟んだりしてたら、俺が夢中になってきた。


「っ……あ、あ…やっ」

 味なんかしないのに、なんかすげえ旨いもん口に入れてるような気になって、石田の声に煽られて、唇で、舌先で弄って、もう片方を指先で触る。
 味なんてしないのに、すげえ美味いもん口に入れてるような気になる。


 突然、俺の髪が掴まれた。
 掴まれたっても、頭に手が置かれた程度だけど。


「ん?」
「も……そこ、嫌」

「何で、気持ち良くない?」
「もう……や」


 石田の顔は赤く上気して、涙目になってた。
 俺の事を睨みつけようとしてんのは解るけど、そんな溶けたような目で睨まれても、逆効果だって解ってんのかなこいつ。余計、煽られる。

 こんな顔、俺以外に見せんじゃねえぞ。
 こんなエロい顔、他の奴に絶対見せんなよ。

 だから、俺だけにしとけよ。
 血を吸うだなんて相手、俺以外に許容できねえって。
 だから、頼むから俺以外の血を飲むんじゃねえ。



「悪ぃ」

 まだ、加減わかんねえから。石田がただ、気持ち良くなってくれりゃ、それがいい。
 俺が石田の事を気持ち良くしてやってるってのが、なにより嬉しい。その事が何より俺を興奮させた。俺で気持ち良くなって、俺の事、感じてくれてんのが嬉しい。

 だから、石田の身体中舐めながら、こんなことしてて嫌われねえかって不安はある。比率としちゃそんな不安ばっかがほとんど全部。

 暴走しないように理性抑えて、壊さないようにして、石田が壊れないように。


 そう簡単に壊れるような作り方してる身体じゃないのは解ってる。こいつの強さはちゃんと解ってる。
 だから、生身じゃ俺なんかよりずっと作り上げられてるんだって事は解ってる。



 だけど、俺がそのままがっついて欲望のままに抱いたら、こんな細くて華奢な身体をしてる石田の事を壊しそうだって思った。
 壊れないにしても、恐がらせるかもしんない。恐がらせなくても、痛い思いさせてんのは事実だ。理性吹っ飛ばして好きだって気持ちばっかり押し付けないように、限界まで我慢して、堪えて、出来るかぎり優しくしたい。



 ただ、好きになって欲しいんだ、俺は、石田に。


 交換条件なんて言葉に置き換えて、好きだってその単語がどうしても言えないから、せめてこんな事でしか示せないから。

 好きになって欲しいんだ。


 好きな奴の身体なんだから、大事に扱いたい。
 優しくして、気持ち良くしてやりたいって思う気持ちと、限界まで我慢して焦れてる欲望がせめぎあって、毎回石田が次の日機嫌悪そうに腰をさすってる。



 今日は、今日こそは石田に気持ちいいって、そう思ってもらえるように努力します。



 だからさ……






 シャツのボタン、ようやく最後の一つを外した。













20111208