【SchoolLife 2】 02







 放課後、黒崎と織姫が二人きりってのを発見した。

 何、その危険な状態はっ! 織姫は可愛いのに自分の可愛さを自覚してないのが困るけど、そこがまた可愛いから許しちゃうの自分も困る。

 私の知ってる限り、織姫によからぬ事をしでかそうとする男とは違って黒崎は誰より安全圏に居る奴なの解ってるけど……でも。


 危ないのよ、黒崎は!
 黒崎はホモなのよ!
 伝染したらどうするの?!

 同性愛好家なんか千鶴一人でキャパオーバなんだから。
 同じ性別を好きになって少子化に励むって流行ってるのかしら。私は絶対にそんな病気にはかからないから!


「織姫」

 呼びかけると織姫が私を見つけて微笑んだ。

「あ、鈴ちゃん。あのね、お付き合いしてる人の誕生日プレゼントって何がいいか解る?」




 絶句……しそうになった。していいわよね? ここ絶句するところで合ってるわよね? 黒崎、アンタまさか織姫に相談とかしてんじゃないわよねっ!?

 何故か理解負のなことに、織姫はアンタが好きなのよっ!?

 って、黒崎の胸ぐら掴んで、殴るところだった。デリカシー無いにも程がある!


 黒崎を憎しみを込めて睨み付けると、私の眼力は効かずに、黒崎は黒崎らしくもなく顔を赤くした。



「いや、付き合ってる相手が……来週誕生日だから」

「……へえ。そうなの?」


 石田って蠍座なんだ。すごく、石田らしいわね。確かに何考えてるのか良くわからないような所なんかは蠍座ぽいような気がする。それほど星座占いなんかには詳しい方でもないけど、なんとなく石田とさそり座のイメージは相性が良かった。


「んで、付き合ったりすんの初めてだし……何やって良いのかわかんねえから」


 黒崎が顔を赤らめて……これ、気持ち悪いっ! 似合わないにもほどがあると思うの!
 しかも相手って石田でしょう?

 うわあ……やっぱり、引く。




「プレゼントなんて人によって喜ぶ物違うでしょ? 黒崎の付き合ってる相手知らないし、わからないわ」

 いや、知ってるけど、知りたくないわ。知ってるけど、せめて知らないふりをさせて!
 黒崎が何となく、私を見た。




「んー…、国枝に雰囲気、少し似てるかな」






 あたしがっ!

 あのモヤシとっ!



 ど こ が っ !?



 再び黒崎の首を締め上げたくなる気持ちをひたすらこらえて、わざとらしく咳払いなんかしてみた。
 知らないふりをしてしまった手前、やっぱり会話の流れとして訊くべき所かしら。



「へえ、どんな人なの?」

 私って、最近気苦労多い気がする。何も知らないままでいたかった。




「ん、落ち着いてるけど、可愛いかな」

 かわ……………どこがよ、どこが!
 だから、黒崎の付き合ってる相手って石田でしょっ? あのモヤシのどこに可愛げがあるっていうのよっ? 可愛さ、一ミリもなくて嫌味だけ溢れてるじゃない! 惚れた欲目差し引いたってアレのどこにそんなもんがあるのよ!




「守ってやりたくなるっていうか」

 いや、アイツ喧嘩してる所見たことあるけど、強いから。確かに見た目だけじゃ、吹けば倒れそうな細さだけど!
 それとも、黒崎の前じゃ猫かぶってんのかしら、石田の奴。


「頭は良いくせに意外と天然だし」

 そんな事言ったら普通殴られるわよ。へえ、アイツ、天然なの?
 それとも黒崎にはそう見えるのかしら。打算的で狡猾そうな感じがするけど。やっぱり猫かぶってんのかしら。

 というか、そもそも何であたしが黒崎の付き合ってる相手、つまり石田の誕生日プレゼントを悩まなきゃいけないわけ!?



「そうね、定番だとペアリングとか? 貰った事あるけど……」

 ペアとかって、恥ずかしくて、付けたことも無いまま別れたけどね。とりあえず適当に言ってみた。



「……ペアリングか」
 マジに考えるんじゃないわよ。アンタと石田のペアリングとかって寒すぎるわ!

 それに、どんな顔して選ぶつもりよ!
 黒崎がアクセ屋に行って選んでる所を想像して、吹き出したい気持ちになった。
 それに石田が指輪とかつけるかしら?




 私は優しいから、訊いてあげようかな、とかお節介にも思ったり。
















「石田は誕生日は、何が欲しい?」

 学級日誌を置きに職員室に行った時に、石田も職員室に居て、二人で教室に戻る時に訊いてみた。私は優しすぎるんじゃないかしら。


「は?」

 凄く微妙そうな顔をされた。ブリッジを中指で押し上げて怪訝な顔で私をレンズ越しに睨まれるような目付きで見られた。
 いや、勘違いしないでよ。あたしがアンタに何かあげるつもりなんか無いわよっ!

 って言おうかと思ったけど、黒崎に相談されたなんて言いたくないし、その事で言及なんかされたくないし、石田の誕生日が近いなんて事は知らない方が無難。
 無難だけど、別に石田に誕生日祝いなんてあげたくないけど、だからといってそんなに嫌そうな顔されると、なんか気分悪いわ。


「彼氏が誕生日なのよ」
 あと半年後にね。
 言い訳までして、私、何訊いてるのかしらね。別に、石田と黒崎がどうなろうと知ったことじゃないのに。こじれて喧嘩して別れたって、ホモって変態の人口が減った事に喜ぶかもしれないけど、私には痛くも痒くもない。


「へえ。おめでとう」
「アリガトウ。で、何あげたら良いかしら」
「……さあ。その人の事知らないから」

 アンタの事だから! だなんて、言えない。黒崎が悩んでたなんてもっと言えない。だから、遠回しに訊いてやってんじゃない。

「男の人って何が欲しいものなのかしら。石田だったら何が欲しい?」
 我ながら良くできた言い訳ね。

「いきなり、誕生日の話をされたから、びっくりしたよ。そうだね……」

 石田は、少し考えて……ぽつりと言った。







「……生活費」




 ………ああ、そう。

 石田が独り暮らしってのは、本人からこの前聞いた。スーパーで見掛けたけど、裁縫だけじゃなくて、料理も趣味なのかと訊いたら、独り暮らししてるからって解答だったけど。どんな理由で独り暮らししてるのかなんかいちいち詮索しないけど、本当に謎な奴だと思ったけど。
 独り暮らしならやっぱり生活費とか大変だろうけど!



 それでも、なんて夢も希望もない解答するの。少しは考えなさいよ。私の彼氏の誕生日プレゼントのつもりの相談してるんじゃない今!

 今日も黒板から席までのルートの途中で石田の古文のノートの端に、光熱費の落書きを見つけてしまった。今月、切迫してんのかしら。と思うと、つい憐れんだ目をしてしまう。苦労なんかした事なさそうなお坊っちゃんぽい外見の割りには意外と苦労してんのね。

 そんな意味合いのその視線に気付いたようで、石田がまた眼鏡を押し上げていた。



「別に……どんなつまらない物でも、好きな人が自分を想って選んでくれたなら、なんでもいいよ」

 とか、模範解答をくれた……けど、今視線泳いだ? まさか、今一瞬でも黒崎の事考えた?
 訊いといてなんだけど、そんなノロケ聞きたくないんだけど……。


「何でもって、要らない物貰ったら困らない?」

 本当にペアリングとか、困った。リングはそこそこ可愛かったけど、別れたから今更付けられないし、誰かにあげようかと思ったのに、日付と名前入りで、あげることもできず、棄てるのも惜しくて未だにしまってある。まだ未練があるようで嫌なのに、物に罪はないから棄てられない私は貧乏性なのかもしれない。


「誕生日プレゼントなんて自分の事を考えて選んでくれたって所が嬉しいんじゃないかな」

「……そうね」

 これは……のろけられてるのかしら……。
 で、石田は結局何が欲しいのか、解らないまま。


「今僕が欲しい物は生活費だから。お役に立てなくて申し訳ないね」

 そんな事を付け加えた石田は少し溜め息をついた。
 ……そんなに厳しいのかしら、今月。私に愚痴りたくなるほどって、かなり切迫つまってるって事よね?




 それにしても、本当に。




「どこがいいの?」

 全然タイプが違うからやっぱり本格的に謎だわ。目に見えるものしか信じないタイプだけど、見てしまった今でも信じたくないと言うか、信じられないと言うか、やっぱり見なかったことにしたい。

「……いきなりだね」
 石田がまたブリッジを押し上げてた……眼鏡サイズあってないんじゃないの?


「さすがに気になるわ」
 さすがに、男同士差し引いたって、クラスでも逆の意味で浮いた存在の二人が、どこをどうやって仲良くなったのか、気になる。仲良くなるまではいいとしても、男同士っていう高いハードル飛び越えて、それ以上の仲になるなんて、やっぱり私には信じられない。

 黒崎は石田をよりにもよって、可愛いなどと形容しやがったけど……石田は黒崎なんかのどこが良いのかしら。

 そんな単純な疑問だったけど。

 黒崎の時みたいに、うっかり訊いて後悔するかとも思ったけど。



「何だろう。タイプが違うから、僕の想像を超える所かな」





「……へえ」



 私には、あんたら付き合ってる事がまず想像を絶したわ。










20111122