【SchoolLife 2】 03







 せっかくなら、黒崎に石田が言ってたこと伝えてあげた方がいいのかとも思ったけど……私、黒崎と全然仲が良くないから話かけるタイミングも無いまま過ぎた。そういえば正確な誕生日の日付は訊いてなかったけど、もう過ぎたのかしら?

 部活の顧問が出張で居なかったから部活が休みの日の帰りがけ、織姫がちょうど帰る所だったみたいで、下駄箱で呼び止めようとしたら、織姫の方が先に私に気付いて、満開の花を散らしたような満面の笑顔で私に手を振った。


「あ、鈴ちゃん。帰るなら一緒に帰ろ」
「いいけど、たつきは部活?」
「うん。試合が近いんだって。今日はだから黒崎君も一緒なんだ」


 何がだから? って言おうと思ったら……オレンジ色の派手な頭が影からひょこっと出てきた。
 なんだ、黒崎も一緒なの。

 別に黒崎と一緒じゃなくて良いんだけど……私と黒崎は仲が悪いわけじゃないけど、クラスに存在している顔は知っている程度の仲でしかないのに。


「よぉ」
「……別にかまわないけど……」

 かまわないけど……ちょっと黒崎とじゃ話題がなさそう。気まずい。

 でも、まあ、黒崎には、せっかくだから石田が言ってたこと伝えてあげた方が良いいのだろうとは……思うけど。


「黒崎、この前プレゼントがとか言ってたわよね、何買ったの?」
「いや……まだ。悩んでる」

 ってことは、まだ誕生日じゃないって事? 先週黒崎から聞いた時は、来週って言ってたから、今週中なのは解ってたけど……今日が火曜日だから明日か明後日か明々後日ってとこかしら。

「プレゼントなんて、好きな人が選んでくれたなら、馬鹿らしいものでも意外と嬉しいものじゃないの?」

 って模範解答は自分で言ってて背中が痒くなった。
 その言葉をきっと本心から言った石田の言葉の最後には、生活費を切望する言葉が含まれていたから、お節介かと思ったけど……石田のノロケはちゃんと伝えたから、これ以上はただのお節介になると思うんだけど。




「そう言えば、クラスの石田って独り暮らしなの知ってた?」

 ちょっとカマをかけるように石田の名前を出した途端に、黒崎の顔が強張った……と思ったのも束の間、急速に黒崎の顔面が赤くなった……って、何?


 本当に真っ赤。
 耳まで真っ赤。

 なにコレ……。



「あ、まあ……一応……それなりに、仲いいし」


 妥当性のある友達って単語は使わないのかしら。嘘でも言っておけば良いのに……。
 黒崎の声は、なんか上擦ってた。

 ああああ、見てるこっちが恥ずかしい。石田と何かあるのバレバレじゃない。


 とか、思うけど。それでもやっぱり石田と黒崎だから、現場を目撃してしまわない限り、付き合っているって単語とは結び付かない。私が知らなかったら、この態度の黒崎を見て妙な違和感を覚えることはあっても、絶対何があっても石田と黒崎が友情以上の関係だって思いつきもしない。
 さすがにホモがこんなに近くに潜んでるなんて誰も思わないでしょうし。
 もし同性愛が世間で一般化されても、石田と黒崎を結びつけるのは、かなり至難だし。



「アイツ授業中、ノートに家計簿つけてんのよ。今月生活費、苦しいのかしらね」

「………」


 黒崎の様子を見るために、私は黒崎の顔を見た。
 ら、何やら難しい顔で考え込んでた。

 やっぱり心当たりでもあるの?



「家事もやって、私よりこの前のテストの点数が良かったなんて、嫌になるわ」

 誕生日プレゼントと石田の話題は無関係で、今の私の本題はそれだって言うように、間髪を入れずに言ったけど、黒崎の表情の変化はちゃんと確認済み。一瞬やたらと考え込んでた。


「いや、ほら石田って、頭は良いから」

 黒崎が言ったのは……フォローな? それでもフォローしてるつもり?
 知ってるわよ! 私だって石田が居ない人生なら、負けるはずない! 石田のおかげで、私が負ける羽目になったのよ。石田が一年年上だったり年下だったりすれば、私だってそんなに石田を嫌うことも無かったと思う。
 石田が頭が良いだなんて、黒崎以上に私が認めざるえないんだから、石田が頭いいなんて私に言う必要なんてないと思うんだけど……。

 黒崎は馬鹿正直で出世しないタイプね……。



 黒崎の百面相見ているのも馬鹿らしくなって、ふと上を見た。



 ちょうど、二階の渡り廊下。



 石田がいた。







 石田と……女の子が一緒。

 誰かな?

 女の子が石田に頭を下げて、石田が困惑気に笑ってた。





 何やってんのかしら?
 それにしても、石田と女の子ってどんな組み合わせ?
 石田の交遊関係なんか何も知らないけど、クラスメイトじゃないのは解る。

 確か石田って男のくせに手芸部だったはずだから、部活の人かしら。


 それともアレかしら、告白タイム。

 場所は、確かに放課後、渡り廊下はあまり人が通らないし。






 私の視線に気が付いたのか、黒崎も上を見た気配がした。





 あ、これ、まずい……かしら?








 と思った時に、ぞわりと背中の毛が逆立つような錯覚が………。








 な、に。今の……。







 黒崎が二階の渡り廊下睨み付けてるだけなんだけど……何かしら。肌寒いような気すらした。寒い日じゃなくて、陽も出てて今日はマフラーも必要ないくらいには暖かくて……でも、急に背筋がぞくりとした。


 もう一度、二階の渡り廊下を見ると、石田が窓越しに、じっとこっちを見ていた。

 見ていた方向はこっちだけど……私が居ることぐらいは見えてると思うけど……明らかに、石田と黒崎の視線は絡んでいた。


 女の子がぺこりと頭を下げて走り去った。石田は軽く何かを言ったようだったけど……。



 ざわざわと、私の皮膚が粟立つ。
 何故かはわからないけど、黒崎が原因だってのは、直感的なものだったけど、何故か確信した。直感だなんて、統計で測れないような事を信じるつもりないけど、でも……この寒さは黒崎のせいだ……絶対。




「悪い、忘れもん。やっぱ先に帰ってくれ」

「え? 黒崎君何忘れたの? 待ってる? それとも一緒に行こうか?」


 ちょ、織姫っ!
 空気読んでっ!
 待ってる必要無いからっ!
 一緒にだなんてもっての他だからっ!

 明らかに、今から修羅場だからっ!


「織姫っ! 本。この前貸すって言ってた本。うちにあるから、取りに来てよ。美味しいクッキーもあるから」
「本当?」

 わあい、と花を散らすような笑顔で私の方に寄って来てくれたから、扱いやすくて、いつも悪い大人に騙されないか心配だけど、今日だけは貴女の素直さと可愛らしさに心から感謝する。


「井上、またな」
「うん。じゃあ明日ね、黒崎君」

 黒崎は、織姫には辛うじて笑顔を向けてたけど………空気が痛い。空気が全部針になったような気分だわ。





「そういえばこの前ね………」

 織姫が先日のテレビの話題を始めた………馬鹿らしいお笑い番組の話題だったけど、織姫の感想はちょっとずれてるから、私が見てた番組と同じかどうかちょっと判断つきにくいけど、今はとにかく織姫の天使みたいな笑顔に癒された。













20111124