20091106 -03








「なんだ、5日だって勘違いしてたんじゃなかったんだ」
「するかよ、馬鹿。今日になった瞬間、お前に言いたかったんだって」

「日にち、勘違いしてるんだと思った」
「覚えてるよ。じゃなきゃ学校帰りに来たりしないって」

「でも、今日が誕生日だったんだ、明日になれば土曜で休みだし……明日、って言うか、もう今日だけど。今日来てくれるなら、もっとゆっくりできたのに」
「俺が一番最初に、今日お前に言いたかったんだよ。16歳になった石田に俺を一番初めに見てもらいたかったんだ」

「距離、近すぎて見れなかったよ」
「じゃあ、今からでも遅くないからもっと俺を見ろよ」

「……」
「なんで勘違いしてるだなんて思ったんだよ。俺がお前の誕生日間違えるわけねえだろ? ずっと楽しみにしてたんだ」

「さっき誕生日だって言ってお金払ってくれただろ?」
「飯作ってもらうの毎回だろ? これから俺の分ぐらいは俺が払うから。それにあんなんプレゼントだとか思うなよ。俺がそんなつまんないことすると思うか」

「…………」

「だから、こっちがメインのプレゼント」


 そう言って黒崎が握った手を僕に突き出したから、それを受け取る。しゃら、と軽い音がして、僕の手に落ちたそれは、ただの何の変哲も無い、シルバーのネックレス。

 本当に、ただのチェーンだ。50センチぐらいの、チェーン。


「これ?」


 黒崎にしては……つまらない、と言うか……いや、なんか、本当にただのチェーンだから。ペンダントヘッドもついていない。


「ずっと身に着けてて欲しいから、これにした」



 そう、言われたら……。
 嬉しいけど。黒崎が僕のこと考えて選んでくれたなら……、それが嬉しいけど。いや、嬉しいんだ。黒崎が、ちゃんと僕の誕生日を覚えていてくれた事とか、一番に僕におめでとうって言ってくれた事とか、僕の事を考えて、何かを選んでくれたこととか。何をくれたか、じゃない。もともと貰うつもりだって無かったんだ。出来たら一緒にいられたら良いなって思っただけで。





 だから、やっぱり、すごく嬉しい。

 けど……うん。センスが云々じゃなくて、黒崎が僕の事を考えて選んでくれたって言う事が、嬉しい。



「石田?」


「ありがとう、黒崎」

 ありがとう。その気持ちは、素直に言葉に乗せられた。僕の誕生日を一番大事な人に祝われた事が、こんなに嬉しいとは思わなかった。
 だって、おめでとう、じゃなくて、僕が生まれてきた事に感謝するって、言われた。すごい事だと思った。僕はただ生まれただけなのに、16年前のその日僕が生まれた事が、黒崎に感謝されたんだ。

 そう思うと、なんか、すごい日だ。今まで誕生日は、ただの365分の1日だったのに。忘れていた年だってあった。
 黒崎におめでとうって言われただけで、今日は特別な日に変わった。







「じゃあ、明日学校だし、寝るか?」

「目が覚めちゃったよ」

 責任取ってくれるよね? 声には出さなかったけど。

 今日、君ずっと僕に触れなかっただろ? いつもは、僕が邪魔だって言っても触ってくるくせに。

「………石田」




「どうしてくれるんだよ」
 責任、取ってくれるんだよね?



「明日どうなっても知らねえぞ」
「手加減はしてよ」

「ったく……必死に触らねえようにしてたのに……明日学校だから」
 必死だったらしい。
 確かに、いつも僕が邪魔だって言ってもじゃれついてくるのに、日にちが変わるまで、指一本触ってない……我慢してたんだ。
 らしくないよって思うと、おかしくなった。

「今日ぐらいはいいよ。しよ」
 普通に考えたら、まずいけど。休みの前の日以外はしないって暗黙に了解させてたけど。
 今日は……今日くらいは甘えたい気分なんだ。








「ったく……知らねえぞ」
「今日は僕の誕生日なんだから、僕の我が儘きいてくれるよね?」


 今日ぐらいは、僕の欲しいものくれるよね? ねだってみても良いよね。
 僕は、君が欲しいんだよ、黒崎。

「石田……好きだ。すげえ好き」

 吐息に混じった黒崎の言葉は、まるで呼吸をするようで、その気持ちは身体の中から聞こえてくるようだと、いつも思う。
 勿体無くて、吐き出す呼気にすら僕への気持ちが込められているように感じて、黒崎と唇を合わせる。
 もっと、欲しくて、黒崎が僕の事好きだって気持ちをもっと欲しくなって僕は黒崎と唇を合わせる。黒崎と、こんな関係になって、僕は初めて自分が欲張りだと知った。
 好きだって言われたって足りない。
 抱き締められても、足りない。
 繋がっても、もっと深い所まで繋がりたくなる。

「んっ……ぁ」
 合わせた口付けは、段々深くなり、息苦しくなってくる。頭が朦朧としてくる。世界が揺れるから、黒崎の首に腕を回して、僕がどこかへ持っていかれないように、必死でしがみついた。
 黒崎の唇が、僕の頬にキスをする。
 そのまま耳朶を齧りながら、首筋を舐めている。唇を塞がれなくなって呼吸ができるようになっても、僕は荒い呼吸を繰り返した。
 黒崎の唇が、ちゅ、と音を立てて僕の首筋にキスをする。ちりちりとした痛みも皮膚の中の入っていって、身体の熱が上がる。
 痕、残さないでよ。明日体育の授業あるだろう? そんないつも通りの台詞が白けてしまいそうで、僕は言う気を無くした。いいや。痕が残ってたら、明日怒れば。

 今は、気持ちいいから。それでいい。黒崎が僕に与えてくれる快感を追うことで精一杯だ。
 キスが降ってくる……熱さを感じるほどの暖かさで、黒崎が僕に口付ける。

「……っあ」
 服の中に手が差し込まれた。直に触れた黒崎の手が、熱かった。
 お風呂から上がってだいぶ経つのに、まだちっとも湯冷めしてないみたいな暖かい手が、僕の肌を滑る。

 脇腹を撫で上げられて、身を捩らせた。ぞくぞくした。

 何でだろう。
 何でこうやって感じるんだろう。
 黒崎じゃなくて別の誰かに触られるのなら、きっとただくすぐったいだけの場所なのに。黒崎の手が触れた皮膚に熱が残る。

 黒崎の手の平はすぐに胸を触る。よく僕の胸を触ってる。触ってもつまらないだろうけど、別に女の子じゃないから柔らかいわけじゃないのに。そんな所触って面白いのか不思議だ。
「んっ……」
「ここ、美味しそう」
 キスが胸に落ちてきた。そして、突起した部分を唇で摘まれると、そこから全身が痺れていくような気がする。
「あ…っ、ん」
 舌先で転がされるように舐められると、堪らなくなって、僕は黒崎の頭を抱きしめた。オレンジ色の頭は、見た目よりも柔らかくてふわふわと、くすぐったい。その感触すらも今は気持ちがいい。


「ひゃっ……あっ」
 突然、下着の中に手が滑り込んできて、僕は変な声を上げてしまった。
 突然、そこを、握られた。
「あっ…あぁっ、あ」
「石田、もう大きくなってる」
 うるさいよ、君が触るんだから仕方ないだろ。そう、言いたかったけど、言葉に出来なかった。口から出てくるのは、恥ずかしいくらいの僕の感じている声。

 握られたまま、ゆるゆると動かされると、それだけで、そこに熱が凝縮していくのがわかる。固まっていく。
「ああ……んっ」
「すげえ、もう垂れて来たぞ」
 敏感な場所だからだ。仕方ないんだ。君が触るから、仕方ないんだ。こんなになるのは僕のせいじゃない。君が原因だ。君が触るからだ。君の手が気持ちいいからいけないんだ。自分じゃ、こんなに気持ちよくなることなんてない。全部君のせいだ。

「っん……!」
 先端の割れ目に爪先を押し込むように触られると……駄目だ。駄目になってしまう。
 気持ちいい。
 気持ちよくて、良すぎて、変になる。
 部屋中から破片が集まってきて、僕が濃縮する。
 集まってきて、固まる。
 擦られると圧縮される。
 ぎゅうぎゅうに意識が潰れていって。
 昇る。
 急上昇する。

「あ……ぁ」

 弾け、た。
 身体が跳ねて、全身がびくびくと痙攣した。

 黒崎の手の中に、僕は全部吐き出していた……。


 弾けて溢れた僕に、ようやく重力がのし掛かって来た。ズブズブとこのままベッドに沈み込んでしまいそうだ。
「いっぱい出たな」
 ……そんな報告なんか聞きたくないよ。
「………」
 それだって、結局、全部君のせいだ。睨み付ける僕の視線に効力など無いことは解っている。だって、現に黒崎は僕に微笑を向けてるじゃないか。とろけてしまいそうなほどに優しい笑顔向けてる。僕は睨んでるのに。

「なあ……いい?」
「いちいち、聞くなよ」
 僕は気持ち良くなりたいわけじゃなくて、ただ君が欲しいんだ。
 君が僕を好きだって、その証拠が欲しいんだ。君を感じたい。


 黒崎がベッドサイドの棚に手を伸ばす。
 いつも使ってるハンドクリームが入ってる。手が荒れた時用じゃなくて……する時用。
 黒崎が準備するの、見て……いるのが恥ずかしくて、目を閉じる。

 黒崎が、僕の膝裏を持ち上げる。
 視線が僕の中心に注がれているのがわかる……熱くなってるから。黒崎の視線には質量でもあるのだろうか。見られてる、それだけで、じんじんと痺れてくる気がするんだ。

「あ………」
 ぬるりとした感触を伴う黒崎の指が、僕の中に沈んだ。

「………っん」
 僕の中に黒崎の指が入ってる……中にハンドクリームを馴染ませるように、ゆっくり出し入れする。

「大丈夫か? 辛くねえ?」
「………大丈夫」
 まだ、身体の中に異物がある事の違和感を覚えるけど……でも、こんな事普通じゃないと思うのに……僕は知ってる。黒崎と繋がると、気持ちがいいことを知っている。身体じゃなくて、心まで満たされるような、そんな気がする。それが例えようも無く僕は嬉しいんだ。

 だから、黒崎とするのは好き。









 黒崎の指が、中の僕が感じる場所に触れた。
「あっ……や」
 黒崎が、僕のいい場所を探してくれたから、この行為だけでも、気持ち良くなる事、覚えた。
 早く繋がりたいのに、僕はどうしたって男だから、簡単に繋がれるわけじゃない。こんな面倒な手順を踏まないと出来ないのに、それでも僕達はもう何回ぐらいしたんだろう。

「あ、あぁ……あ」
 そこを触られると、どうしようも無くなる。中のその場所を触られる度に感じて、身体の奥から熱が生まれる……すごく感じて、恥ずかしいくらい、自分のが勃ち上がっているのが解る。達したばかりなのに、僕はもう大きくなってきている。

「石田、大丈夫か?」
「…………」
 こんな時にいちいち、訊かなくて良いと思う。毎回だけど……僕が気持ちよくなってるの、解ってるだろ? 解っててわざと訊いているのか?
「んっ……あ、……ぁ」
 わざと、意地悪してるのだろうか。いっぱいハンドクリームをつけたみたいで、体温で溶けて、黒崎の指が入っている場所から濡れた音が聞こえる。
 気持ち良いだなんて……恥ずかしくて言えないのに。気持ち良くて……でもそこだけじゃ、刺激が全然足りなくて。

「黒崎……も、やだ」
「ん、辛い?」

 わざと、くちゃくちゃと音を立てて、黒崎が僕の中に入れた指で掻き回している。僕の息遣いと濡れた音が聞こえる。それだけしか聞こえないのに、部屋中がその音の震動でいっぱいになってる気がする。

「も……指やだ」
「何が欲しい? お前が欲しいの、何でも、全部あげる」

 優しく、僕にしか見せないような笑顔で……やっぱり、わざと言ってるんだ。
 言わせたい、とか、趣味悪いよ、黒崎。

「黒崎が……欲し……」

 君が、欲しいんだよ。
 君が全部欲しい。

 そのくらい、解ってるだろ?
 どうせ知ってるだろ?

 僕がどれだけいつも君を求めているかなんて、理解してるくせに。


「……あ」

 指が、抜かれた。

 その場所に、押し付けられる、黒崎の熱い………。

「あ……あっ……」

 ゆっくりと、黒崎が僕の中に沈んでくる。
 僕の中に、黒崎が入って来る。

 身体の中に、黒崎が溢れて来る。


 もっと、もっと黒崎で埋まれば良いのに。僕の中、全部君で満たされたい。




「………石田、悪い……すぐイきそ……」


 痛みが、伴わないわけじゃない。
 やっぱり黒崎のは大きくて、繋がってる部分はビリビリするし、内蔵が圧迫される苦しさはあるけど……それ以上に……。


 こんなに熱く、大きくなってるのは、僕を感じてくれたからだろう?
 僕は女性みたいに柔らかい身体でもないし、黒崎みたいに、男の僕でも見惚れそうになるようなバランスの取れた身体でもない。
 それでも、こうやって君は僕で感じてくれているのが……嬉しくて。


 だから、こうやって繋がる時、やっぱり一番僕は実感できる。

 黒崎が僕の事好きだって、言われるより、もっと感じる。

「いいよ……全部僕に出して」

 君の気持ちの全部を僕に下さい。

 君の最後の一滴まで僕のものにしたい。


「石田……解る? 俺、けっこう限界」

「………うん」

 すごく、大きくなってる。


 君の気持ち、そう思っていい?

 でも、僕だって負けないんだ。それを伝えたくて、黒崎の手をとって、僕の心臓に押し付けた。



「黒崎……解る?」

 暗がりでも解るほどの黒崎の柔らかい色をした瞳にしっかり映るように、僕は微笑んだ。

 ドキドキしてる。心臓が耳の側にあるみたいに聞こえる。
 これが僕の気持ちだ。

「石田の心臓の音がする……」

 聞こえる?
 君が好きだって言ってるように、聞こえる? 今一秒に何回も、君が好きだって言ってる。

「黒崎………」


「止まんねえぞ」


「いいよ」


 止めないでよ。
 全力でぶつかってきて欲しい。

 君なら、全部受け止めてあげるよ。