ふと、指が抜かれた。
「……あ」
強張った身体が急激な喪失に、支えを失い崩れそうになった所を……彼は僕の腰を掴んで引き寄せた。
必然的に、僕は腰を突き出すような格好をとらされてしまい……教室で、僕は……
「……ひっ」
入り口に、当たる。熱い。感触に、身体が強張った。
指よりも、熱い……これは……自分も男だから、これが何だかわかる。火傷するような温度じゃないはずなのに、熱くてヒリヒリと痛むような気がした。
何を、されるのか、解っていた。
ただ彼は自分の優位を示す為に、これから僕を犯すんだ。
そのくらいの事は、解っていた。
殺されるわけじゃない。
僕のプライドをへし折るだけだ。僕が屈服して彼の前に情けなくも平伏すのを見たいんだろう。
僕を存立させるための、唯一のモノを、彼はただ壊したいだけなんだ。自分が優位に立つという事で、ただ少し自尊心に対して満足が得られるのだろう。僕の存在なんてきっとそれ以上じゃない。
「……ぐっ」
捻り込まれた軛は、熱くて……。
内臓が、圧迫される。身体中が押し出されてしまうような気がした。
入り口がビリビリと裂けるように痛い。
苦しい。
少しずつ押し込まれる度に、臓腑が潰されてしまうような気がした。
痛みと、圧迫感。
苦しい。
息が……呼吸がうまく出来なくなる。
「っは……あッ……」
「きつ……力抜けよ。入んねえ」
やめてくれ。
これ以上、苦しい。
抜いて。
苦しくて、喋るために息を上手く取り込めない。やめてくれって、そう言いたい。抜いてくれって。何でもするから。
全身が圧迫される。助けて。
腰を掴んだ彼の手に力が入った。
「ぐっ……」
無理矢理、中に押し込まれた。
目の前にチラチラ星が飛ぶように見えた。ハンマーで殴られたような、そんな衝撃……。
「全部入ったぜ」
全部……僕は、今、黒崎の身体と繋がっている。
中に、黒崎が在る。
彼は、黒崎じゃない。
でも、黒崎以外の誰でもない。
黒崎、なんかに……僕が、誰よりも憎んでいる相手。負けたくないと、思っていた相手に、僕は……。
「やっ……ぃや、だ……」
「動くぞ」
「やだっ……やめ……あっ…あ」
引き抜いて、押し込まれる。
腰を掴まれて、ぎりぎりまで抜かれて、一気に貫かれる。
痛みは、とうに越した。
何で、僕なんだ?
何で彼は僕をこうしたんだ?
何で、こうされるのが僕だったんだろう。
彼が居た時にたまたま僕が居たから? もしかしたらそんな程度の問題なのかもしれない。ただ、僕の運が悪かっただけ。何で僕じゃなきゃ駄目だったんだろう。
痛みよりも、熱い……火傷する。身体の中から火傷する。血液が沸騰して、身体に流れる血に僕が火傷を負う。
「っ……あ、ぁっ!」
急に、前を握られて、僕は、悲鳴を上げた。
「すげ。ガチガチじゃねえか」
耳の奥に彼の温い声が吹き込まれ、それにすら、僕は反応だしてしまう。
嫌だと、悔しいと、屈辱だと、思う意識に反比例して、僕は反応していた。言われても、気付く余裕がないくらい、僕は反応していた。彼が僕の中に在る事に、僕は興奮していた。
「あ、……やっ!」
いやだ。
痛みよりも苦しさよりも屈辱よりも……それで反応している、僕の浅ましさを暴かれる恐怖にすら……僕は。
接続部から、ぐちゃぐちゃと粘り気のある音がする。
肉同士がぶつかる音がする。
「痛いっ……いたっ、あ」
「悪ィ。切れちまったみたいだ」
「っ……あ……あ」
「血で、滑り、良くなるかもな」
絶望に、目の前が、暗くなる。
それでも、繋がっている場所は、熱くて、本当に熱くて……そこだけがやけに生々しい意識を持ち、僕が在る現実を忘れる事も出来ない。
「雨竜……」
名前を、呼ばれた。
そんな気がした。
僕の、名前。
「あっ……あ、あ」
動きが激しくなる。
中に在る黒崎が、より堅くなった。
滅茶苦茶に突かれて、刺されて。
「……くっ」
一瞬、黒崎の呻き声が聞こえて……。
中で、破裂するように……
熱い………!
「……あぁっ!」
熱が。僕の、意識を拐った。
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110126