白亜の闇 07








 ふと、指が抜かれた。

「……あ」



 強張った身体が急激な喪失に、支えを失い崩れそうになった所を……彼は僕の腰を掴んで引き寄せた。
 必然的に、僕は腰を突き出すような格好をとらされてしまい……教室で、僕は……

「……ひっ」

 入り口に、当たる。熱い。感触に、身体が強張った。

 指よりも、熱い……これは……自分も男だから、これが何だかわかる。火傷するような温度じゃないはずなのに、熱くてヒリヒリと痛むような気がした。


 何を、されるのか、解っていた。

 ただ彼は自分の優位を示す為に、これから僕を犯すんだ。
 そのくらいの事は、解っていた。


 殺されるわけじゃない。

 僕のプライドをへし折るだけだ。僕が屈服して彼の前に情けなくも平伏すのを見たいんだろう。

 僕を存立させるための、唯一のモノを、彼はただ壊したいだけなんだ。自分が優位に立つという事で、ただ少し自尊心に対して満足が得られるのだろう。僕の存在なんてきっとそれ以上じゃない。



「……ぐっ」


 捻り込まれた軛は、熱くて……。



 内臓が、圧迫される。身体中が押し出されてしまうような気がした。


 入り口がビリビリと裂けるように痛い。

 苦しい。

 少しずつ押し込まれる度に、臓腑が潰されてしまうような気がした。

 痛みと、圧迫感。

 苦しい。

 息が……呼吸がうまく出来なくなる。


「っは……あッ……」

「きつ……力抜けよ。入んねえ」


 やめてくれ。
 これ以上、苦しい。

 抜いて。


 苦しくて、喋るために息を上手く取り込めない。やめてくれって、そう言いたい。抜いてくれって。何でもするから。

 全身が圧迫される。助けて。



 腰を掴んだ彼の手に力が入った。


「ぐっ……」

 無理矢理、中に押し込まれた。


 目の前にチラチラ星が飛ぶように見えた。ハンマーで殴られたような、そんな衝撃……。


「全部入ったぜ」


 全部……僕は、今、黒崎の身体と繋がっている。


 中に、黒崎が在る。


 彼は、黒崎じゃない。

 でも、黒崎以外の誰でもない。

 黒崎、なんかに……僕が、誰よりも憎んでいる相手。負けたくないと、思っていた相手に、僕は……。


「やっ……ぃや、だ……」


「動くぞ」

「やだっ……やめ……あっ…あ」

 引き抜いて、押し込まれる。

 腰を掴まれて、ぎりぎりまで抜かれて、一気に貫かれる。


 痛みは、とうに越した。





 何で、僕なんだ?

 何で彼は僕をこうしたんだ?

 何で、こうされるのが僕だったんだろう。

 彼が居た時にたまたま僕が居たから? もしかしたらそんな程度の問題なのかもしれない。ただ、僕の運が悪かっただけ。何で僕じゃなきゃ駄目だったんだろう。



 痛みよりも、熱い……火傷する。身体の中から火傷する。血液が沸騰して、身体に流れる血に僕が火傷を負う。



「っ……あ、ぁっ!」


 急に、前を握られて、僕は、悲鳴を上げた。



「すげ。ガチガチじゃねえか」


 耳の奥に彼の温い声が吹き込まれ、それにすら、僕は反応だしてしまう。
 嫌だと、悔しいと、屈辱だと、思う意識に反比例して、僕は反応していた。言われても、気付く余裕がないくらい、僕は反応していた。彼が僕の中に在る事に、僕は興奮していた。



「あ、……やっ!」


 いやだ。

 痛みよりも苦しさよりも屈辱よりも……それで反応している、僕の浅ましさを暴かれる恐怖にすら……僕は。


 接続部から、ぐちゃぐちゃと粘り気のある音がする。
 肉同士がぶつかる音がする。


「痛いっ……いたっ、あ」

「悪ィ。切れちまったみたいだ」

「っ……あ……あ」

「血で、滑り、良くなるかもな」



 絶望に、目の前が、暗くなる。

 それでも、繋がっている場所は、熱くて、本当に熱くて……そこだけがやけに生々しい意識を持ち、僕が在る現実を忘れる事も出来ない。





「雨竜……」


 名前を、呼ばれた。

 そんな気がした。

 僕の、名前。



「あっ……あ、あ」

 動きが激しくなる。
 中に在る黒崎が、より堅くなった。



 滅茶苦茶に突かれて、刺されて。


「……くっ」

 一瞬、黒崎の呻き声が聞こえて……。




 中で、破裂するように……




 熱い………!




「……あぁっ!」













 熱が。僕の、意識を拐った。









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