当然、僕は見逃してあげる気なんかない。
今、反応した! 僕の言葉に反応したって事は、黒崎は僕に何かを隠しているという事だ。
何か……何だろう。
もし、どころかで僕が黒崎を好きだってバレたりしてたら、それで黒崎が気に病んでいて、今の言葉で動揺を誘ってしまったのだったら、完膚無きまで否定しないと落ち着かない。
いや、好きだけどさ。
でもこの気持ちは墓まで持って行くって決めたんだ。
寝言で僕の心がバレてしまった訳では無いとしたら……一体、何だろう。僕には問題は無いはずだけど……でも、明らかに友情という信頼を置いてくれている黒崎に、僕は恋心を抱いているわけだから、それがやっぱり気にかかる。どうか、僕の事じゃありませんようにって、どこに居るのか解らない神様に手を合わせる。
……気になって仕方ないんだ。
もし、僕の事じゃなくても、やっぱり黒崎の態度は気になってしまう。
絶対、何か変なんだ。
「やっぱり、何かあるんだ」
「………石田、いや、隠し事って言うか……」
「何だよ。気持ち悪い」
「隠し事……なのかなあ」
黒崎の癖に、口ごもるとか、似合わない。
黒崎がシャーペンを投げ出して、黒崎は少し僕の顔を見て、またすぐに下を向いた。
言いにくそうに、口を開きかけて、また閉じる。
「言いたい事があるなら言ってよ」
気持ち悪い。
一体、どんな隠し事をされているんだろう、僕は。黒崎に何を秘密にされてるんだろう。
……気になる。
黒崎の事、何でも知りたいけど、それを無理矢理聞き出すほど押し付けがましい友情を展開したいわけじゃないけど、でも……僕に対しての態度がおかしいんだ。他は相変わらずなのに、僕に対してだけなんか挙動不審で……。
だから、きっと、僕の事だよな?
もし黒崎がどうしても秘密にしておきたい事があるなら、知りたいけど、やっぱり友達でも他人なんだから、そう言う部分は尊重しないといけないと思うけど……僕だって君に隠し事してるわけだし。
隠しているし、告白する気もないけど、やっぱり、好きな相手にどう思われているかって事は、とても気になってしまうんだ。
だって、僕に対して、何か変だよね?
「……石田、あのさ」
「何だよ」
「お前、好きな奴、居るだろ?」
……………。
やっぱり……バレてたのか?
どこでバレたんだろう? ちゃんと隠してたのに。
絶対に勘付かれるはず無いって、思ってたのに!!!
どこでばれたんだろう!?
黒崎が時々泊まりに来る日は、黒崎の好きな煮物系を多くしていたからだろうか。
僕のワンルームに、予備の布団なんか置いておく場所なんかないから、床で何もかけないで寝るって言う黒崎に、風邪ひかれたくないからって無理矢理同じ布団で寝たからだろうか。
前から仲良い相手には、肩組んだりするスキンシップを求めて来る黒崎を突き放さなくなったからだろうか。
だって仕方ないだろう。僕は君が好きなんだから。
好きになって貰いたいだなんて、思って無いから、良いだろう? 勝手に好きなんだし、告白だってしないから。
「その相手、死神か?」
「……………」
バレてたのか……やっぱり。
どうやって、バレてた?
どうしてばれたんだ? だって、僕は隠してた。
「で、結局、想いが叶わない相手だろ?」
まるで、尋問されているように感じた。咎められている気分だ。
黒崎が、じっと僕を見ていた。
僕は、ここが自分の家なのに、とても居心地が悪くなってしまった。自分から吹っ掛けた話題なのに、逃げ出したくなった。
僕は隠していたんだ。ちゃんと隠していたんだ。気付いたのは君だ。君のせいだ。
別に、君に迷惑かけてないだろ?
君に笑顔向けるのも、君に優しくしたいって思うのだって、僕の勝手なんだから放って置いてくれよ!
下心があって悪かったね。
そう、思ったけど……。
そうだ、否定しないと。
僕は、君なんか好きじゃないって、否定しないと。
まだ僕は君の隣に居たい。友達で良いから、側に居たい。
だから、否定して……君なんか好きじゃないって言ってしまわないと……。
「なんか、勘違いして居ないか? 僕は……」
「誤魔化すなよ!」
僕の、言葉を黒崎は遮った。
違うって、君が好きなんかじゃないって、せめて言わせてほしかった。
否定しないと、嘘を吐かないと、君のそばにいられなくなってしまうのに。
だって、友達だと思っていた奴が、好きだなんて、気持ちが悪いだろう? 嫌われたくない。だから、好きじゃないって言わせてよ。
「誤魔化してない。別に、好きじゃ……」
って、そこまで言った途端、胸が苦しくなった。
苦しくなって、好きじゃない、って、最後まで言えなかった。
自己保身の為に嘘を吐く事に抵抗なんかないのに、そのはずなのに。
僕は、君が好きじゃないって、言えなかった。
その代わりに、涙が滲んできた。
「……ごめん」
君を好きで、ごめん。僕なんかが君を好きでごめん。
気持ち悪い、よね?
黒崎が言わなかったのは、それでもこうやって僕の家に遊びに来たりしてたのは、僕の事を友達として好きでいてくれたからなんだろう。
それを、裏切って、ごめん。
「俺……嫌なんだよ……」
黒崎の、言葉が、心を刺した。
心臓が、破けてしまったような痛みが、胸に走った。
迷惑だよね。
解ってた。
気持ち悪いよ。
解ってるけど。
嫌なんだって………ごめん。
「……ごめん」
ようやく、僕は、それだけ言えた。
胸がつまってしまって、言葉が出なくなる。
心が、潰れてしまいそう。
心臓が、潰れてしまいそうに痛い。
違うよ、好きじゃないよ。だから、せめて友達でいてよ。
君が好きなんだ。本当に好きなんだ。だから、友達以上を望んでるわけじゃないんだ。近い場所に居られれば良いんだ。他に望んでないんだ。
だから……。
込み上げてくる涙の堪え方を、僕は知らない。
「……っ…」
失敗した。
黒崎の態度が、気になってたけど……やっぱり放っておくべきだったんだ。
言っちゃいけなかった。気付かないふりをしておけば、もう少し長く続いたんだ。いつかこの気持ちが風化するまで、放って置けば良かったんだ。
僕は、自分で思っていたよりも、重症だったようだ。
君を好きじゃないって、やっぱり冗談でも言いたくなかった。
「……泣くなよ」
「………」
誰のせいだと思ってるんだよ。
泣きたいわけじゃないんだ。
泣いたら、君が僕の事好きになってくれるなら、いくらでも泣くけどさ。こんなみっともない僕を、君に見せたいわけじゃないんだ。
恥ずかしい。
こんな………。
「……石田…」
黒崎が、手を伸ばしてきた。
僕の頬に、そっと手のひらを当てて……親指で僕の流した涙を拭った。
そうやって……優しくしないでほしい。
期待なんかしてないけど、初めから期待なんかできる恋じゃなかったけど……でも、君を好きだって気持ちすら保持できなくなった今、君のその行為は残酷だ。
黒崎は、僕を引き寄せた。
僕は、黒崎の胸に顔を埋める。
……黒崎の匂いがする。
僕は、涙を黒崎のシャツで拭う。涙の止め方なんて知らないから、僕は黒崎の服を涙で濡らす。
君にフラれた僕を、君が慰めるなんて、ナンセンスだよ。
期待なんかしてないけど。
大丈夫だよ、こんな事しなくても、ちゃんと自分で気持ちに終止符を打つから。
でも、やっぱり悔しいから、僕は黒崎の身体に腕を回した。
君を想うのは、最後なんだし。諦めるから、今ぐらいは、こうしたって良いだろう? 今日ぐらいは、優しくしてくれる?
黒崎は、落ち込んでる奴には優しいから……付け入ってもいいかな。諦めるからキスして欲しいって言ったら、してくれる?
黒崎が僕の頭を撫でた………。
それが、切なくて……嗚咽を漏らして、僕は泣き出した。
優しくするなよ。
何でそんなことするんだよ。
僕の事好きじゃないくせに、何でそんなことするの?
「なあ………俺じゃ、だめか?」
黒崎が……僕の頭を撫でながら、僕の耳に、優しくそう言った。
「は?」
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090717