駄目って? 何が駄目?
黒崎じゃ駄目って? 君が駄目なんだろう?
動揺して、日本語おかしくなっているぞ?
いや違う、今、動揺してるのは僕の方だ。
「石田!」
黒崎は、僕の両肩を掴んで、顔が見える距離まで離した。
黒崎が、何を言っているのか、理解できていないけど、とりあえず、黒崎の顔がまるでユデダコのように真っ赤になっていたのはよくわかった。
「石田……俺じゃ、ルキアの代わりにならないか?」
「え? 朽木さん?」
朽木さんが、何? 黒崎は、何を……?
って言うか、何で今、僕達の話題に朽木さんが登場するんだ?
「そりゃ、俺とルキアじゃ、全然違うけど……俺じゃ、駄目か?」
「へ?」
うん、違うね。身長も性別も性格も何もかも違うね。でもなんで朽木さん?
「最近お前、溜め息多いから……気になってて井上に相談したんだ」
溜息、は、確かにちょっと多くなったかもしれない。それに気づかれていたのは、僕の落ち度だけど、何で朽木さん?
「井上と、お前がルキア好きだったんじゃって、話、して……」
「………?」
え? 朽木さん? いや、好きだけどさ。可愛いと思うけどさ。あの竹を割ったような真っ直ぐな性格は、かっこいいと思うしさ。
でも、何で朽木さん?
「お前、よくルキアの事見てただろ?」
見ていたって……いや、君を見ていたんだよ。
「いつも、お前の視線、ルキア追っかけてただろ」
いや、君を見てたんだけど。……近い場所にいつも朽木さんも居たから……だからかな、朽木さんの事が好きだなんて勘違いされてるのは……。
「……ああっ! そう、見てたよ。朽木さんのこと」
そうだ。僕は、朽木さんを見ていた! うっかり忘れていた。
かなりよく見ていた。じっくり見ていた。確かに見てた。気付かれていたのか……。
でも、それは……僕が生活費の足しにするために、インターネットで、自分の作った子供服のブランド立ち上げて、その対象が小学生の高学年ぐらいだから、なんとなくイメージモデルが朽木さんだったから……体型とか……目測で。
意外と、人気あるんだ。仕送りの他に月々3〜5万の副収入がある。最近は忙しいから作ってないけど。やっぱり女の子の服はディテールにも凝れて楽しいし、普通の女の人のサイズの服は競争率高いから、子供服の方が売れるし……。
女の子用のサイズは解らないから、朽木さんの身長で……だいたいイメージして、作ったりしてたから……。
見ていた。のは事実。生活費の為に。
「やっぱりルキアか」
「黒崎……」
えっと……どうやって、言い訳するんだ? 別にそれほど恥ずかしい事じゃないよな、これは。とりあえず、僕が朽木さんを好きだって言う誤解を解くことが始めなんだろうか。どうすればいい?
「そりゃさ、ルキアと俺じゃ、全然違うけど。でも俺なら、お前の事大事にしてやれる」
「ちょ、黒崎」
何を勘違いしているんだ。
僕が好きなのは、もともと黒崎であって………。
何が、食い違っているんだ?
あれ?
「だから、絶対お前の事幸せにするから、ルキアは忘れて、俺の事好きになれ!」
あれ??
「黒崎? 君、自分で何言っているのか解っているのか?」
解っているなら、まず僕が理解できるように話してくれ。
「悪い……無茶苦茶な事、言ってるよな、俺」
……どうやら、僕が君を好きなんだって、バレていたわけじゃないようだ。
黒崎は、僕が朽木さんを好きなんだって勘違いしていたようだ。
それで………?
「だから、俺、お前の事好きなんだ。俺もお前も男だし、仲良くなって、友達だって思ってた奴にそんな事言われたら、気持ち悪いかもしんねえけど」
「は?」
「ずっとさ、だいぶ前から……友達として仲良くなってすぐ、お前のこと好きになった」
「………はあ…」
とすると、僕は最近気づいて、僕よりも先に? あれ?
「お前最近、元気ねえし。お前がルキアが好きだって、何となく気付いたし、そう思ったら、なんか……お前の事、絶対誰にも渡したくなくなった」
「…………?」
「本当は、言うつもりなんか無かったんだけど……」
うん、僕も言うつもりなんか無いよ? 言うつもりなんて無いけど、あれ?
「でも、我慢できなくなったから。お前が俺以外の奴好きなの、我慢できない」
……えっと…、どうすればいいんだ?
「だから、石田が俺の事好きになってくれたら、絶対お前に悲しい想いなんかさせねえから。約束するから、ルキア諦めて、俺の事好きになれ」
つまり?
「君は僕が好きなのか?」
「……ああ」
不貞腐れた顔で、黒崎は言ったけど。
「変だよ」
それは、おかしいんだ。気付いているのか?
「るっせえ。俺だって悩んだんだ」
「だって、僕が、君を好きなんだよ?」
だって、それってさ……。
「石田?」
「だって、僕が君を好きなんだ。だったら……」
つまり、両想いって事じゃないか?
「やっぱり。変だよ」
だって……僕の気持ちは叶わない事がまず前提だったんだ。
「………石田っ!」
黒崎は、なんだか、僕を抱き締めた。
いや、ちょっと待ってよ。
僕はアドリブには弱い方なんだ。想定外の出来事には混乱するんだ。
だから、余計に混乱させるような事、しないでくれないか?
「石田、好きだ」
「……」
…………好きだって、言われた。
これは、どういうリアクションを取れば良いのか?
「石田、俺、絶対お前の事幸せにするから!」
……いや、そんなプロポーズみたいな台詞言われたって。
とりあえず、苦しいから、黒崎。
「石田……俺、お前の事、好きになれて幸せだ」
ああ、そう。ちょっと待って欲しいんだけど。僕は……。
「黒崎………」
「ん?」
「僕は、君の事が好きなんだ」
返事の代わりに、黒崎が僕を抱き締める力が強くなった……本気で潰される。
「黒崎も僕が好きなのか?」
「ばーか」
「何だよ、それ」
「俺の方が、お前の事もっと好きだぜ」
何に対抗してるんだよ。
とか。言おうと思ったけど………そっか。両想いか。
ようやく、黒崎の言葉が僕の心に染み込んだ。
そっか……。
両想いって、事は、僕が黒崎に向けていた感情を、僕に向けていたって事で。
僕が、黒崎の事を考えて、苦しくて、眠れなくて、視線で追いかけて、触れる度にドキドキして……ずっと同じ事を考えていてくれていたんだ。
ようやく、理解できた。
ら、恥ずかしくなった。急激に、頭に血が上ってきた。
ちょっと待って、両想いって、一体……それって。
僕が、黒崎を好きだって、僕は口を滑らせた。だから、僕がどんな気持ちを彼に向けていたのかバレてしまったわけで。
「石田……好きだ」
なんて、耳元で呟かれて、恥ずかしくて、身体が熱くなる。
心拍数が上がる。
きっと今、顔が赤くなってて、みっともないから、絶対見られたくないから………。
僕は、黒崎の身体に腕を回して、彼の肩に顔を押し付けた。
了
090718
ねたは面白いと思ったのにオチが弱いっすね。まあ、ラブラブになればいいやー。
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