ここ最近、黒崎が何か気持ち悪い……気持ち悪いというと御幣があるけれど、何か様子がおかしい……と、思う。
何か……必要以上に優しいと言うか、気を使われると言うか……しかも、その気の使われ方が黒崎らしくないというか。
死神は相変わらず憎しみを持って嫌いだと言えるけど、今更黒崎の事を嫌いだとか思っているわけじゃない。
いくら黒崎が死神だって、もう今更になった。
黒崎が虚退治の為に飛ばした授業の内容について教えたり、その事で一緒に参考書を買いに行ったり、ついでに僕の家で勉強したり、そのまま黒崎が泊まって行ったり……とかやってるうちに、無駄口たたいて、性格とか見た目とか趣味とか何から何まで違うのに、意外にもそれなりに気が合うことが解って、友人としての位置付けが出来る仲にはなったんだ。
最低限しか気を使わなくていい、近くに居ても気にならない、一緒に居ても楽しかったり、気を使わなかったり、落ち着いたり、安心したり、して……。
仲良くなったけど……。
ここ、最近……何だろう?
食材の買い出しで荷物を持って貰ったり……は今までもあったけど、並んで歩いていて、後ろから車が来ると、肩を抱き寄せられたり、とか、やたらと車道側を歩きたがったり、変な気の使われ方をするし……。別に、僕の歩き方がそんなにフラフラしているわけはないと思うんだけど。
それに、最近は、僕の家でテレビを見ていると、恋愛ドラマなんかを、避けるし……いや、興味ないからどうせ、ニュースとかを見たいんだけど。僕が台所に居て、黒崎がTV見てて、ふと戻ると「ずっと貴方の事が好きだったの!」とか液晶の中では盛り上がってても、僕の姿を確認すると、黒崎は慌ててチャンネルを回したりする。
昨日とかは、目の前を仲良さそうなカップル……あまり他人には興味がない僕であっても、必要以上にベタベタしていたので、少しげんなりするほどだった……が通った時に、急に、変な話題……確か、前の日の授業中、教師が躓いたとか、本当にどうでもいい話を吹っ掛けられたりして……。
そんな黒崎の不審な態度に、僕は冷や汗を止められなかった。
もしかして、気付かれてしまったのだろうか……!
気を付けて、細心の注意を払って居たというのに、気付かれてしまったのだろうか。
――僕が、黒崎を好きだと言うことを!!
どこで、バレた?
ちゃんと隠せていたはずだ!
だって、黒崎が好きだなんて、自分で気が付いたのだって最近だし、気付いてからだって、今までと何も変わらない態度だったはずだし、本当に注意を払っていたから。それまでだって、今まで友達なんか居なかったから、一般的な友人がどういう対応するのか知らないけど、でも常識で考えられる程度の友情の範囲でのお付き合いをしているはずだ! 決して、僕が黒崎を熱の篭った目で見つめていたり、黒崎が僕を好きになるようにあれこれと根回ししたりとか、そんな事は一切なかった! そう断言できる!
だから、気付かれるはずなんかないんだ!
絶対に、気付かれるはずがないんだ!
まさか……。
黒崎が泊まった時に、寝言で何か言ってしまっただろうか……。
もし、万が一黒崎が僕の気持ちに気付いたとするならば、それ以外、考えられない!
「そう言えば、黒崎、この前寝言言ってたよ」
黒崎が僕のノート写してる横で、僕がこの前借りた本を読みながら、黒崎の頭に話しかける。
「マジで? 何つってた?」
「いや、なんかオジサンと喧嘩してたみたい」
これは本当だ。
このクソオヤジとか何とか言っていた。僕はびっくりして目が覚めた。
「マジで? 俺、寝言なんか言うんだ?」
「それ以外聞いたこと無いけど、僕も寝てたからちゃんと聞いてなかったけどさ」
あとは、口の中でモゴモゴと何かを言っていた。言っていたけど、日本語として聞き取れなかったし、僕も実際眠かったし、その後の事は知らない。
「うわー、なんか、恥ずかしいな。寝てる自分なんか見た事ねえし」
そうだ。寝てる自分なんか、見た事がない。責任が持てない。
だから……うっかり僕が寝言で何かを言っていたら……。
「僕は?」
ちょっと、カマをかけてみる。
すぐ黒崎は態度に出すから……。黒崎は、仏頂面を鉄面皮としているわけじゃなくて、素の顔が仏頂面なだけで、嬉しかったり楽しかったりすると、よく笑うし、怒るとすぐ眉間のシワが深くなるし、感情と表情は直結してるタイプだと、仲良くなってから知った。
だから……もし、僕が何かを寝言で言ってしまっていたとしたら!?
「僕、寝相悪かったり、イビキうるさかったり……寝言とか……」
もし万が一、うっかり寝言で、黒崎が何かに感付いたとすれば、これで絶対に態度に出るはずだ!
……もし何か、言ったりしてたら……どうしよう……。最近の黒崎の態度は、やっぱりちょっと変なんだ。
でも、僕の「黒崎の事が好きになってしまった」という僕の最高機密が漏洩したとすれば、寝ている時以外あり得ない。普段は本当に気をつけている。別に黒崎ばかり見ないようにしているし、黒崎が話しかけてきた時に必要以上に顔が緩むのも、我慢して堪えてるし。
だから……寝言で何か言ってしまったかと、思ったけど。
もし、言ってしまったとしたら、黒崎のリアクションに多少の変化があるだろう。
「んー、強いて言えば、時々歯軋りしてんな。イビキどころか、寝息もほとんど聞こえねえし」
「……そう。歯軋りするんだ、僕は」
黒崎の態度はいつも通り。
寝言で何か言ったわけじゃ、なさそうだ。黒崎の態度、普通だったし。
……それは、良かったけど……僕は、歯軋りするんだ……恥ずかしい。
でも、最近のこの黒崎の挙動不審は、やっぱり何かおかしい。絶対に何かある。
僕は、こうゆうの、嫌いなんだ。言いたい事があるなら言えば良いのに。
僕は、僕が黒崎が好きだなんて、絶対に言いたくないから隠し通すって決めてるから言わないけど。だから態度にだって出さないようにするって決めてる。
気付かれているはずないんだ!
それなのに……。
「ねえ、黒崎……あのさ」
「ん?」
黒崎は、ノートを写す手を泊めずに、返事だけ返した。
「最近、何か僕に隠し事してる?」
ぴくり、と黒崎の肩が震えた。
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090716
あ、別にランキング15位の続きではないです。別の話です。