看病しながら 03










 脱衣場からタオル見付けて、湯で絞って戻ると、石田はボタンと格闘してた。
 熱のせいで、指先がもたついてる。器用そうに見える細い指は、日常生活で当たり前にできるはずの、ボタンを滑らせていた。


「ったく」

 仕方ねえ。って思ったから、石田の変わりにボタンを外す。

「……黒崎! いいよ、自分でやる」
「いいから貸せ」

 無理矢理石田の手を押しのけて、俺が変わりにボタンをはずす。見てらんねえんだって。
 石田の手は必死に俺の手を止めようとしてたけど、その手が熱くて、こいつが病人だって思い知る。俺の手をとめようとして掴んだ力も、俺の手に添えられてる程度のものだったし……。そりゃ普段の石田に優しくしてやる義理なんざねえけど、病人なら仕方ねえ。一応仮にも、死神以前に医者の息子だし。


 一つ一つ、ボタンを外していく。


 外す度に、だんだんと、白い肌が出てくる。


 胸とか、腹とか……。

 白すぎる。

 それなりに鍛えてるだろうから、石田だって細いなりに引き締まった身体してんだけど……。

 凹凸のない、身体なのに……。


 なんだ、このイケナイ事してる気分は。

 触りてえとか………。


 ……ナイナイ。思ってねえ。


 どうせ男同士なんだし、体育の授業でジャージに着替える事だってあんだ。別にわざわざ石田を見たってほど見たわけじゃねえけど、コイツだって普通に着替えてんだ。そんくらい確認してある!
 水泳の授業だってあったし! 見てねえけど、居たはずだし!
 男の半裸なんか、見たことあんだって! 風呂場の鏡とおんなじもんしかこの服の中には入ってねえんだから!


 ……って腹ん中でほぼ絶叫に近いくらい強く、誰に言い訳してんだ、俺は。




 スルリと上着が肩から落ちる時に、聞こえるぐらい音を立てて生唾飲み込む俺は、一体何なの? 俺、何してんの? 看病だよな?

 だって、石田、白いし、細い……いや、それなりに鍛えてある身体つきだけど。


 石田の顔をチラリと見ると、赤く頬を上気させて、目元も潤んでたりして………いや、ただ風邪ひいて発熱してるだけだから、こいつ。

 慌てて、目を逸らした。目の毒だ。




 とりあえず、タオルで、背中拭いてやってから………。


 前を、どうやって拭こうか考える。

 いや、これは看病であって、決してセクハラじゃない!
 当たり前だ!
 年頃の男子なんだから、これが女にだったら疚しい気持ちの一つも沸き起こるもんだが、石田相手にそんなん起こしてたまるか。

 大丈夫だ。これは看病だ!




「あとは、自分でできるよ」

 って………そりゃ、そうだな。背中は届きにくいけど、前ぐらい自分で拭けるよな。そうだよな。

「あ、ああ」

 何、ガッカリしてんだ、俺は。何、タオル握り締めて意気込んでたんだ?


 石田にタオル渡して………。

 石田が、自分の身体拭いてるの、見てて………。


「黒崎」
「あ?」
「ズボンも、履き替えるから、あっち向いててよ。男の生着替えなんか、別に見たくないだろ?」


 ………そんなこと、ねえよ。



 って、言いそうだったっ! ガン見してた。

 やべえ。
 言ったら、ドン引きだろ? 良かった言わなくて。

 ってか、見たいのか? 俺は石田の生着替えを見たいのか? まさか、見たいとか思ってねえよな!?
 同じモンぶら下げてるだけじゃねえか、どうせ。

 萎えるだけだって! 萎える以前に、男に変な気起こすはずねえし!

「ああ」

 とか……思いながら、俺は後ろを向く。
 後ろを向きながら、石田が、モゾモゾと後ろで動いてんのを意識しながら、石田の裸なんか、想像してみたり、して……今、後ろで……。


「黒崎、こっち向くなって」


 結局見てた。


 のが、バレた。



「いや、またふらついてんじゃねえかって……」

 って言い訳は、妥当性があっただろうか不安だ。

「でも、恥ずかしいから、こっち見るなよ」
「んな事言ったって、男同士なんだし、修学旅行とかで温泉入った事ぐらいあんだろ?」
「じゃあ、君も全裸になるのか?」
「………は?」

 ちょっと待て。
 温泉とかそういう特殊場面でない限り、部屋で二人で全裸って……する事って、看病じゃねえよな? 何か他のこと想像する俺は思春期真っ只中の自覚あるけど、なんでその相手が石田なんだよ!
 今、俺の頭の中で再現された映像、リピートすんな! 顔を赤く染めて、ちょっと苦しそうな呼吸をする全裸の石田のヴィジョンとか、再生しなくて良いから!

「何で俺がっ!」
「僕だって人前で肌を見せたいわけじゃないよ」


 そう言われたから、まあ、そりゃそうだ。って、軽く思って……うっかり振り返った。





 ら、石田の、下着から伸びる、白い足が、目に入った……………。





「…………悪い」

「……そう思うなら、あっち向いててよ」





 白い足。

 付け根の方は、生まれてこの方紫外線浴びた事ねえだろうって思うくらい、白くて。


 細く、伸びた足、と………。


 両足が繋がる付け根の、部分………と、その中心とか……目に入った。


 …………俺は……俺は。

 石田の裸、と、潤んだ目と、少し苦し気な表情とか。









 想像して、勃てた。








090703