ヅラが俺の隣に居なかった時間もあるけど。
去年はなんとなく来て、なんとなくケーキ買ってきて、おめでとうって形式通りの誕生日を祝われて、いつも通りにちょっと茶を飲んだあとにすぐに帰った。
別に期待してたわけじゃないけど、いや、そんなんでも嬉しかったんだけど。
今年も俺の誕生日っての覚えててくれたんだとか思うと、何やら自分の顔の筋肉が緩むのは解っている。
暇つぶしがてらにうちに茶を飲みに来るぐらいのつもりなんだろうけども、情けねえなあ、こんなことでって思うけど、やっぱ嬉しいもんは嬉しい。
「桂さんは、今日どうしますか? 夕飯までいますか?」
「いや、すぐに帰るが。夕飯とは? 今日は何かあるのか?」
「………は?」
いや、もしかして、覚えてなかった?
コイツのことだからありえる……確かにこんなヅラでも、ロクでもないバイトとかしながら、この江戸一番の売れっ子攘夷志士ではある。どっかの会合だの、どっかの組織との話し合いだの、どっかのパトロンとの話し合いだの、暇そうに見えて一応それなりに党首としてやる事はやってるのは、知りたくもない程度に知ってる。
それなりに忙しいのは知ってる。だから、別に今日が一日過ぎるの速さは昨日も一昨日もきっと明後日でも変わんねえ程度かも知んねえけど……
が、もしかして……
「なあ、ヅラ。ちょっといい? でかけるぞ」
「ん? 夜から用があるからそれまでなら構わんぞ」
「よし。じゃ新八、ヅラにプレゼント買ってもらいに行ってくる」
「は? 何だそれは?」
「行ってらっしゃい。あとケーキも買ってきてくださいね。神楽ちゃん楽しみにしているんですから」
「おー、神楽に楽しみにしとけっつっとけ」
ヅラの手引っ張って表出た。
ヅラは俺に引きずられながら、歩く。
「銀時? どうしたんだ?」
「るせ」
「銀時、今日何かあるのか……………あ」
あ、じゃねえよ!
「もしかして忘れてた?」
「いや、忘れてないぞ! ちゃんと知っているぞ!」
覚えてると知ってるってまた別の言葉なの知ってるか?
「そうだ、銀時。プレゼントが欲しいんだろう? ステファンを知っているか?」
「はあ?」
「とても愛らしいマスコットなのだが、この前限定のぬいぐるみが発売されたんだ。お前に買ってやろう。今は持ち合わせがないから、月末までには……」
「要らねえよ!」
それはただの、てめえが欲しいもんだろうが! 自分のために自分で買えばいいだろうが。
それに月末ってなんの冗談だっての?
今だ。
今すぐだっての。俺にとっての特別な日ってのは、もう昼過ぎてんだから、あと半日もねえんだぞ。
「おい、銀時! 一体どこに行くんだ?」
「お前んち」
モノがなけりゃ、それなりに俺を喜ばせてくれるんだろうな! って意味は、俺がヅラの手首握ってる強さからも当然伝わってるはずだ。
「いや、今日は駄目だ。今日はマズイ!」
「何でだよ!」
「エリザベスが友達を連れてくるらしいから、邪魔しないでくれと言われている。きっと恋人に違いない。俺は江戸の夜明けを見るまでは馬に蹴られて死ぬ気はないぞ!」
「…………あそ」
そう。あの白いの、家に居るんだ……そっか。友達云々はどうでもいいが、ヅラんちに行っていい雰囲気になるタイミング見計らって茶を出してきたりするのは、襖の向こう側で見張ってんじゃねえかと思うほどだ。
あの白いのがいるのかと思うと、流石に行く気をなくす。
からといって、俺も別に裕福なわけじゃねえから、どっか二人きりになれる密室のような場所を借りるための金はねえ。ヅラには期待してない。
「ああ、ほら見ろ、銀時団子屋だ。そうだ銀時。団子、食うだろ?」
わざとらしいのが、死ぬほど腹が立ってたけど……いや、最初から期待してた俺がバカだったわけですが……何だろう、この無駄などこにもぶつけらんねえ遣る瀬無い憤りは。
いや、別に祝ってくれって強請るもんじゃねえのは解ってんだけどさ。
俺が馬鹿だから期待しただけだけどさ……こいつにそんなもんしちゃいけなかった事、忘れてた俺が行けなかったんだけどさ!
「……食う」
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20131010
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