「しけてんなー。今年の俺の誕生日プレゼント、団子三本」
川の方を向いた、茶屋で、ヅラが団子二皿を頼んで、それを食ってた。
俺達が昔遊んだ川と違って、江戸の川はあんま綺麗じゃない水が流れてた。川原じゃなくて土手だし。
でも、陽射しは暖かかった。風は冷たいほどじゃないけど、もうあの猛暑中に吹いてた風の温度は冷めた。
晴れてる日だったし、川の水面が反射した光はキラキラしてるのは……ほんのちょっとだけ似てるかもしんない。なんて、センチメンタルな気分に浸りたくなる程度には、今ちょっとそれなりに不貞腐れてる。
「仕方がない。俺のを一本と一つやろう」
「や、食いかけは要らねえ」
食いかけを口元に差し出されたのをヅラに押し返した。皿のは貰う。
「そもそも、お前に何かを送りたくとも、俺に金がない事ぐらい知っているだろう?」
「んじゃ、リボンでもくっつけて、俺がプレゼントとか可愛いこと言ってみろよ」
「銀時……俺がか?」
………自分で言っといて、そんな事言っちゃうヅラが一ミリも想像出来なかった。
「……悪い」
いや、無理ですね。
お前にそんなの要求しようとした俺が間違えましたね、悪かったな。
見た目だけはそんじょそこらの女よりも美女に見える外見のくせに、未だに外見に騙されそうになることもあるけど、こいつの性別が雄だってことぐらいは俺も解ってんだけどさ。
別に期待した俺が悪かったんだけど、お前が今でも変わんないままで、こうやって今、今日、俺の隣にいてくれるってのが、冷静に考えりゃ、嬉しい事なんだけどさ。
まだ、あの時の約束、守ってくれてるんだって……仕方ねえから、そのくらいで今年は妥協してやるか。きっと来年も、妥協してやることになるんだろうけど……そう思うと、ヅラがあの時の俺の誕生日にくれた『約束』がずっと先のことも含めてだった事を、何となく思う。
だから、気分が少し回復した俺は、何となく懐から『綺麗な石』を出した。
いつも持ち歩いてるわけでもねえし、お守りのつもりもねえけど、今まで捨てらんなかった。捨てるつもりもねえけど。
俺が、生まれて初めて、俺が生きてることを喜んでもらえた証明だから、いつも机の引き出しに何となく入ってるけど、誕生日くらいは何となく持ち歩く。
その『綺麗な石』を太陽の光に翳してみた。別に、綺麗でもなんでもねえけど。
別に、今見たって、綺麗なのかどうかも解んねえ。一度落としちまったら他の石と見分けがつく自信もねえけど、俺にとっては唯一の『綺麗な石』。
その価値は、俺の存在の肯定。
ヅラが俺を見てたのは解った。俺が見てる石もちゃんとヅラの視界に入ってる。
顔色を変えた気配もなかったけど、覚えてんのかな。見せつけるような真似して、我ながら情けねえけどさ。
ずっと同じもん見て同じ空気吸って、同じ時間の中で生きてきた。今も隣にいる。
まあ、けっこうそれだけでも満足なんだけどさ。
具体的には何やってんのか知んないけど、知りたくねえけど、今だってそれなりに危ないことしてて、会えなくなったら半年近く音沙汰ないし、心配なんかしてやんねえけど。
今は、今日はお前は隣にいる。
俺の誕生日に、隣にいるって約束してくれた。祝ってくれるって、わざわざ言わねえけど、お前が昔言ってくれた言葉、ちゃんと俺は覚えてんだよ。言葉にわざわざしなくても、俺が変わんない限り、お前も変わんない限り、同じ気持ちで居てくれてるってことだろ?
今更、何年の付き合いなのか具体的に数えんのも面倒なくらいの長い時間の付き合いなんだ。いちいち言わなくてもいいって。
「銀時……」
隣で水面を眺めながらのんびりと茶をすすっていたヅラが俺を呼んだ。
「ん?」
最後一本の誕生日プレゼントを口に含んだ。やわっこい団子を口の中で転がしながらヅラを見たら、ヅラは済ました顔しながらやっぱ茶を一口飲んだ。
「銀時。俺はお前に出会えて良かった」
「ぶっ!」
団子、吹いた。
「は? なななななに言っちゃってんの、いきなり! ふざけんな団子返せ!」
「銀時。今日はお前の誕生日だ。お前が生まれて、生きていくれている事を俺が喜ぶ日だろう?」
「ちょ、な、いや、ってか、いきなり、お前、なに」
「モノを送ることはできなかったが、また同じ日に、今と同じように、俺が横にいてお前が生まれてきたこととお前が生きていることを喜んでやる事を約束してやる」
ヅラは、いつもみたいな上から目線のすかした態度の笑顔じゃなくて、もっと純粋に、むかつくけど無邪気って感じで笑ったから、その言葉が本当だって無条件に信じなきゃなんない顔だったから……。
「…………」
不意打ちすぎる。
不意打ちは、卑怯だろうが!
「銀時、俺はお前の……んっ!」
「ちょ、タンマ!」
俺は全力でヅラの口塞いだ。
やべえ、無理。
顔中に血が昇って、耳まで熱くなってるのが解る。
それ以上聞くの無理だわ。恥ずかしいやら嬉しいやらで、心臓爆発させる気かよ!
そんな事になったら、こんな所で涙腺が決壊したらどうしてくれんだ。
「……」
「………」
しばらくヅラと睨み合って膠着状態が続いたけど、俺が折れた。ヅラの口から手を離したら、ヅラは何事もなかったように、茶をすすり始める。
うん。
「ほら、お前は直球に弱いから、俺の気持ちなど素直に言わない方が良いだろう?」
………なんだ。
ちゃんと、覚えてたのかよ。下手な演技しやがって。
いや、俺がわざとらしい真似して悪かった。
「………てめえの時は覚悟しとけ」
「ああ。お手柔らかにな」
直球に弱いのは、てめえだって同じこと知ってんだからな!
了
20131010
9000
今年も銀さんお誕生日おめでとう! 毎年誕生日が来るから、毎年スルーすることも多いけど、いい加減にもうネタがないよ!
一応、10月10日に間に合いましたのです! 10月10日27時だったけど! ピクシブの方にアップしましたが→■、こっちに載せたからあっちの消してもいいかなあ。
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