俺は土方と唇を合わせ、舌を絡め合っていた。
唾液を混ぜるように、互いの唇を合わせ、深く吸う。
……くらくらする。
不思議と心地の良い酩酊感に意識が漂う。
口の端に伝う唾液すら厭わず、より深く口を合わせるために、土方の首に腕を回した。
土方の腕が俺の背を支え、被さるようにして、噛みつかれる。
何を……している?
俺は今何をしているんだろうか。
自分が自分であるという自覚すらなくなってしまうような、覚束無い心地よさは、理性を少しずつ溶かしていく。
ゆっくりと離れた土方の唇は赤く充血し、濡れて艶めいていた。呼吸が整わない。息が上がる。
俺は、ぼんやりと土方の顔を、見た。
土方が、俺だけを見ていた……土方の瞳に、俺が、俺だけが写っているこんな近い距離で、この男の視界に俺がいる。
妙な気分だ。でも、悪くない。
「脚、触られたんだっけ?」
土方が着物の上から俺の脚を触った。
ぞくりと、した。
「っ……土方?」
「直に触られたの?」
思い出したくも無いが……着物を捲られ、男の手が俺の肌を撫でた……ごつごつとした男の荒い手が、俺の足に触れた。
「……ああ」
「どこを、どうやって?」
土方が着物の併せから、手を滑り込ませた。土方の手が俺の肌に直に触れる……不思議と、厭ではなかった。この男の手の平の温度が、気に入っているからだろうか、だから嫌悪感が出ないのだろうか。刀を握る手は、ごつごつとしているのに。
触られた部分に熱を残すような、そんな触り方で、土方は俺の脚を撫でる……あの時の感覚が上書きされるような……払拭される、ような……そんな感じがした。
「……ぁ……くすぐったい……土方」
止めようと、土方の手を押さえようとしたが、もう片方の手で手首を押さえられた。
「俺に捕まってろよ」
背を抱き寄せられ、仕方なく、俺は言われた通りに再び土方の首に腕を回す。
土方の手で脚を、撫でられる度に、触られた部分の皮膚が緩くなるような気がした。
唇が降ってくる。
唇だけでなく、頬や首筋に、土方の唇が落とされ、その部分から熱が芯に伝わって行く……。
「……あ……ぁ、ん」
内股を撫でられ、その手がくすぐったいような、それでいて不思議と離されたくなく、知らずうちに座りを崩している。土方の手が触れやすいように……。
何を、している? 俺は……俺は、俺だというの自覚が無くなっているのだろうか。俺は誰だ? そしてこの男は誰だ?
背を支えられながら、俺は畳に倒される。
その上に覆い被さるように、土方が鎖骨からその下の方へと舌を這わせている……。
着物を、帯を解かず、そのまま袷を開かれ、胸を口に含まれた。ぬるりとした、感触が皮膚の上を這う。それなのに……。
「やっ……はっ……あ」
先を舌で転がすように舐められ、じくじくと身体中に疼きが広がる。
撫でられていた内股も、徐々に、上の方へと上がり……
触って、欲しくて……
知らず、腰が動いていた。
「………土方……っ」
身体に熱がこもる。熱くなって膨張しているのに、放出できるまでの刺激が与えられず、もどかしい。
自分が何を求めているかだなんて、自覚したくない。どうして欲しいかだなんて、言いたくない……。
「土方……触って」
それでも、我慢などできず、土方の手を取り、自分のに導く。
もう、そこが固くなっていることは、わかっていた。熱を持って、上を向いてしまっている。男に、触られたというのに……俺は、気持ちいいと、感じてしまっている。
自分が、みっともない事をしている事の自覚は、もう薄くしか残っていない。熱に浮かされ、苦しく……もっと、その手が熱を与えてくれるのを望む気持ちの方が強くなっていた。
「触って欲しいの?」
下着の上から、俺の形を確かめるようにして、触る。
「あ……あっ…」
「なあ、触っていいの、アンタの」
意地の悪い言い方が気に入らなかったが、それ以上に……気になった。俺は俺を誰かわかっているつもりで、そしてこの男も誰か知っている。
土方も?
ちゃんと俺だと自覚して、それでこんなことをしているのだろうか。
「……アンタじゃない」
「触って欲しい、桂?」
そうか。知っているのか。
お前は、俺がちゃんと見えていて、それでも俺に触れたいと、そう思っているんだ。
それが……苦しいと、思った。苦しくて……でも、満ち足りた気持ちを覚えていた。
だから、俺は与えられる熱を望んだ。もっと、この男に熱を与えられたいと、願った。
「……触って、欲しい」
お前に……土方に。
俺は、口に、出した。
こんな、事を……俺は……自ら、望んだ。
土方に触れて欲しいと、俺は望んだ。
→
20121201
|