初めて会った時に、女神様かと思った 07 









「大丈夫だったか?」

「………ああ」

 このくらいの怪我は日常茶飯事だ。顔に傷をつけると幼馴染をはじめ部下や周囲が煩いから、顔はなるべく庇うようにしているが、それ以外ではやはり攘夷などをしていれば、お前達の追跡をかわしながら、それなりに生傷の絶えない日常をドウモアリガトウ。

「怖かっただろ?」
「………」

 まさか、あんなことされるなどと思わなかったから、怖かったのは確かだ。うっかり殺してしまいそうだった。怖かった……確かに、怖かったと言えば怖かった。
 悔しいが、事実だったので、頷いた。

「大丈夫だからな。もう、怖くねえから」

「……………?」
 いや、確かに、だが恐怖というか……殺してしまったかもしれない、その事に恐怖を感じた。が。


「酷いことされたんだろ? あいつらに」

 酷いこと……された、な。確かに。男の俺相手にあんな事をされるとは思いもよらず。

 女物の服を着ていたせいだろうかか。いつも通り、袈裟を着て行けば良かっただろうか。
 だが坊主の割合より女の人口の方が多いのだから、女に化けた方が目立たないとの判断したのだが。やはり坊主の方が笠を借り顔を隠せる分、変装には適しているのだろうか。
 女装も似合っているとは思うのだが。やはり男の俺が女に化けるなど無理があって、自分で思うよりも似合っていなかったのだろうか。髭などもあまり濃くないから、銀時と一緒に働いたことがあるカマっ娘さん達よりも存在感も違和感も無いつもりだったので女に変装をするチョイスをしてみたが……間違いだったのだろうか。

 服が女ならば男でも構わないなどと、人間の基本的欲求にすら拘りのない奴がこれほど多く居るとは思わなかった。あそこに居た十五人は同じ性癖を持っているのだろうか。やはり天人が入り込んで、世の中が堕落している。早急に天人を我が国から排除し建て直さなくては。

 あんな奴等……。

 口に、指を入れられたのを思い出し、その感触を消すために、茶を一気に飲み干した。できることなら湯飲みを噛み砕いてしまいたかった。

 堅くなった男の竿を押し付けられた尻も気持ち悪い。触られた脚は思い出すだけで、鳥肌が立つ。


 それに……尻の穴に、指を入れられ……そのままだったら、俺は……つまりあんな奴等にカマを掘られていたと言うことか?




 思い出して、身震いをした。

 全身に鳥肌が立ったようだ。二の腕辺りが寒くなり、自らの身体を抱く。

 あんな、気色の悪い事……



 それで、キレた。

 殺して、しまったかと……もし、俺が刀を手にしていたら……きっと全員を殺してしまっていた……。




「怖かっただろ? あいつらはもう大丈夫だから」

 怖かった。殺すことに、躊躇いを覚えるようになるとは、昔は考えたこともなかったが……俺の道をもう血で汚したくはない。

「もう、大丈夫だ」

 だが、大丈夫だと、土方が保証してくれた。ならば、それでいい。殺してないならば、安心した。


「……そうか」

 殺したわけではないなら、良かった。死んでいないのであれば、捕らえられ、もう悪さは出来ないだろう。悔い改める機会も与えられた。


「……良かった」

 素直に、良かったと、そう思った。


「もう、ブタ箱行きだからな」
「……ああ」

 ……仕方ない。今はこちらは丸腰だ。お前等に捕まるとは非常に不本意ではあるが。

 捕まってやるか。

 脱出にはそれなりに苦労は伴うが……土方にはこうして、借りがある。捕まってやるか。



「落ち着いたら、屯所に来てくれるか?」

「………」



 嫌です。

 って、選択肢が有効な質問だが?
 どうせ連れてくつもりなのだろう?




「アンタが大丈夫になってからでいいから」

「…………」

 それは、つまり俺が攘夷を完遂してからでも、言いと言うわけか?

 大丈夫とは何だ?





「大変だったな。巻き込まれたんだろ?」

「…………?」



 いや、巻き込まれたというよりも、どちらかと言えば、当事者だが。


「男が俺にひでえ形相で駆け寄ってきて、殺されるとか喚いてたから、何があったのかと行ってみりゃ、アンタが十五人もの倒れた男達の中に一人で立ってるし」

「……十五人だったのか」


 十五人も、殺さずにすんだ。刀を抜いていたら……と考えるとやはりその重さがのし掛かる。銀時のように、俺も木刀に持ち変えるべきか。

 あの場にいた一人は逃げたらしい。
 それで歩いていた土方に助けを求めたわけか。

 攘夷志士とも名乗る輩が、真選組に泣きつくなど、情けない。やはりあそこの頭目には部下の指導を徹底するように言うべきか。とは思うのだが……そんなことより……。




 手当てを終えた土方が、俺に向き直り、俺の手を両手で包むように握った。



 痛いほどではないが、土方の手に、妙に力が込められていた。








20120924