僕の瞳にはもう君しか映らない 02



 





 両想いっていいもんだけどな。想いが通じ合うかどうかは努力と相手次第なのはひとまず置いといて、頭の中だけでも色々新婚生活から始まり、オッサンになって、そっからジジイになった時の無駄な人生設計してんの楽しいけどな。その時に隣にいてくれる事考えたりしたいもんだけど。

 まあ、いつもの事だし。
 今回に限ってって事もなく、今回もいつもと同じなんだろう、どうせ。

 長く続いて半年。最長で八ヶ月。俺が知る限りじゃ最短一回……ってのが五人は居たはずだ。俺が知ってる限りでしかねえが、それでもヅラの相手まで、いちいち覚えてらんねえし、覚えられる量でもない。

 別にお前が誰と付き合ってたって俺には関係ねえけどさ。
 今更お前の交遊関係に口出そうとも思わないし、俺が口出しして変わる奴だとも思ってない。





 ずっと横で見てきた。
 一番、俺がヅラを見てた。

 見れない時期もあったけど。ヅラが俺の視線の質量程度で言動変えるような奴じゃない事くらい十分承知してますって。


「別に、困っていない」
「左様で御座いますか」

 お前が良いなら良いけどさ。


 お前がそれでいいって思って、お前が幸せならいいや……だなんて、そろそろ達観の域。
 いい加減、嫉妬もだいぶ乾いてきた。




「それに俺はなかなかの幸せ者だと思うぞ」

 そうですか?
 そんなら何も言わねえよ。お前がそれでいいって満足してんなら、俺はそれが一番いいって思ってる。




 だけどさ、俺が、居んのに。

 俺がここに居んのに。


 手、伸ばしたら触れんだろ。
 一番近い所にずっと居るのにさ、お前はずっとスルーですか?
 俺の視線の角度が鈍角だから気づいてくんねえの? もっと痛いくらい鋭角に見ないとお前鈍感だから気付ねえか?

 お前が誰かと疑似恋愛楽しんでる間、俺が毎回毎回嫉妬してんのスルーですか? 今までのヅラの相手と比べたって、俺も見劣りしない程度にはいい男だと思うんだけどね。自分で言うのもなんだけど、けっこう一途だし。



 ……いいけどさ、慣れたし。



「両想いっていいもんだけどな」


 そんな事言う俺は、ヅラが好きだなんて思った事一度も無い。嫉妬するけど、俺のがヅラに似合ってるって毎回ヅラの相手に憎しみ覚えるけど、でもこれは恋なんかじゃない。って思ってるし、きっとそんな御大層なもんじゃない。


 ただ一番近くに居ただけ。
 本当にそんだけ。それ以上じゃない。


 でも以下はあり得ない。


 それって、けっこうすごいことじゃねえ?





「失う事が前提の関係では、無理だな」




 俺は、ずっと側に居たけど。

 お前の前から消えたって、結局またこうして会った。
 お前は、運命かもとか思ったりねえの? しないんだろうけど。
 ヅラなんか自分に見えてるものしか見えなくて、ロマンの片鱗すら持ち合わせてねえ奴だけどさ。




「それに、心までを要求しているわけではない。身体が満たされれば、気もそれなりに満たされる」
「万年欲求不満男」
「仕方がないだろう、健康なのだから」


 健康すぎやしませんかね。俺が知ってる限りじゃ、相手が居ない時期のが少ないって思う。
 そりゃその美貌だからね。ヅラから迫らなくても引く手数多なんでしょうけど、どうせ。だから、俺はその数多の中に入ってない。ヅラの中では俺は俺のポジションなんだろう。まあ、言ってみりゃ特別って事だろうけど。




 ヅラとヤりたいとか思ってた時期はとっくに過ぎた。一時は考えた事だってあったけど。毎日毎日戦争で女なんか周りに居なくて、俺も欲求不満だったんだろう。あの頃は本当にヅラ見るたびに頭ん中でヅラの服脱がせてた。


 でも、今は別にそんなのどうだっていいって思ってる。枯れたんじゃなくて、どっちでもいい。


 俺だってやっぱ男の子ですから、やっぱり女の方が好きだし。身体は正直だから。ヅラとヤりたいって欲求が募って勢い余って押し倒したくなる時が無いわけでもないけど、それは昔通った道で、今はどっちでもいい。

 そりゃヅラとなら、この半端ない女顔の幼馴染みなら、いくらヅラが男だって勃つとは思うけど、そんな欲求じゃなくてさ……もっと深い、本能の部分で、さ。








 そろそろ落ち着いたら?


 って、俺は思うんだけど。そう言ってやりたいんだけど。

 俺が誰を好きになって誰と恋愛したって、結局お前が一番近くにいて、気が付けば最後に見てんのヅラの事だし。
 ヅラだって結局、特定の誰が何人いようと、今になっても俺の隣、手を伸ばせば触れる距離に居んだろ?


「それに、身体は生理現象なのでやむ無くとも、気持ちなら片想いでも満たされる。俺はそれで満足している」


「……えへ?」









「もうずっと想う奴が居てな。そいつが健在なら、あとは別にいい」




 ゆったりとした、口調だった。


 言いたくないことは隠すことはあっても、嘘だけは吐いた事ねえのは知ってる。





「……ナニソレ、初耳」


「ああ。生まれて初めて口にした」




「意外。お前にもそんな人間らしい部分あったんだ?」




 知らない。

 そんなん、聞いたことねえ。
 気付きもしなかった。


 気付けなかった。

 俺がヅラの事で知らない事があった。


 意外……ていうよりむしろ心外。


 そりゃ攘夷のなんたらとか、ヅラが今やってる事とか特に知りたくねえけど、そうじゃなくて、ヅラの中に誰か居たなんて、初耳。てか寝耳に水。

 俺は、そんなの聞いたことない。

 一番近くにいたから、ガキの頃からずっと俺達の距離が一番近かったから、俺はお前の事で解らないことなんか何一つないって自信あった。

 誰よりもお前の事を知ってるって、そんな誰にも自慢できないようなプライド持ってたんだけど。



 確かに、その心の中にあった事実を初めて伝えたの、俺だって意味は、嬉しかった。
 結局一番近くに居たから、って事だよな? それに俺を選んだって事だけは認めてやれたけど……でも、何だよ、それ。


 俺は、知らねえ。





「それ、誰?」


 声が震えないように言えたと思うけど、あんま自信無い。








20120804