僕の瞳にはもう君しか映らない 01



 





 好きとか、そんなんじゃない。
 そんな中途半端で曖昧な言葉でくくられたくねえし。
 ずっと……ずっと一緒だったから。一番長い時間一番近くに居たから……だからって事もないつもりだけど、でもきっと、だからなんだろう。



 別に、ヅラがどんな性癖でどこの誰と付き合ってたって俺には関係ねえし、俺だって男の子ですしそれなりに年食ってるから、自慢できるほどでもねえけど女の柔らかい肉が恋しくて発情して色々と経験あるって。
 とりわけ大した面構えでもないけど、俺自身もそれなりに不自由はしてないんでさ。


 そんくらい俺だって当たり前だし、ヅラにイチイチ言わないし、その辺りのことはわざわざ口に出すような仲でもねえけど……どうせ、ただの幼馴染ってか腐れ縁なんだけどさ。


 だけどさ!








「で、今度はどこの肉食の熟女だ?」

 なんだか、首筋にキスマークとか恥ずかしいから。髪で隠れるから良いとか思ってんじゃねえって。いい年してどこの発情期真っ盛りな高校生ですか?


 散歩してたらヅラと遭遇して、金も無くて腹が減ってたから、ヅラにたかったらヅラの今のところの家に連れて来てもらって、蕎麦食って、そのまま畳でごろごろしてた。

 外は晴れ。
 今日は大好きな攘夷はそんなに忙しくやること無いのか、ヅラは呑気に布団干してた。あと、でかいサイズのトランクス……は中のオッサンのモノだろうか、おっさんのくせにピンクのチェックとか、ひまわり柄とかナシだろ?

 洗濯モノが一段落ついたのか、ヅラが俺の近くに座ろうと屈んだ時に、髪がさらりと動いて白く細い首筋が見えてソレを見つけた。



 俺がヅラの首筋見て指摘すると、ヅラはその視線に気付いて、顔をしかめた。





「ああ……ちょっとな、虫に食われた」

「食われたって……男かよ」



 また、男かよ。
 ヅラは、顔をしかめたふりして笑ってやがった……肯定ですか。


 清廉潔白って文字を体現してるような清潔で潔癖そうな外見と裏腹に、コイツの戦歴は呆れたもので、俺が初体験済ませたあたりには、すでに片手の指じゃ足りなかった。

 その頃、既に守備範囲には男も入ってた。高杉が知ったら泣くぞ、きっと。俺も知ったの最近だけど。

 初体験はさすがに女だったらしいが……どっかの既婚者。しかも酒の席なんかでうっかり漏らした話を繋げた限りじゃ、強姦スレスレでどっかのお姉様だかに初めて奪われてから、どうにも妙な自覚しちゃったかなんかで……あまり具体的には聞きたくない。


 具体的な事は知らねえけど、可愛くて若くてピチピチの女の子には向かないらしい、その妙な性癖は。



 勝手な俺の分析じゃ、ヅラは一人で片意地張って、肩の力抜かないでずっと生きてるから、やる時くらいは甘えたいとかなのかもとか考えらんなくもねえけど……具体的にどんな行為をたしなんでいるのかなんざ、見たことねえし、聞きたくもねえし、勿論そんな悪趣味も持ち合わせてない。
 幼馴染みの具体的な性癖なんざ、悪いけど知りたくもねえって。



「五歳下で、なかなか一途で可愛げのある奴だった」

「へえ。そ」



 別に聞きたかねえし。


 しかも「だった」って過去形かよ……終わったんですか。まだ付けられて赤みの残る痕は、昨日今日の話だろ?

 それで、いつもと何にも変わらないって……。もともとあまり感情を外に出すタイプじゃねえけど、別れた直後ってもっと凹んでるもんじゃねえか? 飄々としやがって……。


 ……俺が、慰めてやる余地すらねえし。

 もともとそんな事で付け入らせてくれる隙なんか作らねえ奴だけどさ。






「何で男なんかね。俺は絶対やだけどな」


 男なんてさ。
 触ったって硬いし、おんなじモンぶら下げて、何の面白味もない。
 女は柔らかくていい匂いがして良いのにって俺の提言には同意されたが、水を弾くピチピチした肌よりも、熟成醸造された色気を力説されてぶっちゃけ、萎えた。



 本人の趣味趣向は尊重して大事にしようと心に決めた。別の言い方すれば、俺はあんまり関わりたくない。

 だからヅラのお相手が男が多いってのも、具体的に考えると気持ち悪いが、まあその辺りは俺の精神衛生上、立ち入り禁止区域。

 しかも使うのケツの穴だろ? 女だってそこ使ってすんの好きな人いるらしいけど、やっぱ、俺はちょっとSっ気が強いって自覚はあるけど、基本的には正統派だから、ちょっと生理的に嫌だし、やっぱり可愛いって思った女の子としっぽりすんのが男の子として産まれた醍醐味だと思うけど。





「文句を言う前に銀時も一度試してみるといい。なかなか良いものだ」

「……遠慮します」

 マジで勘弁して下さいって。普通に男の裸見たら萎えるから。欲情しねえって。




「ちゃんと将来考えられる女の子にしたら?」

「銀時、俺にそれを言うか?」

「………別に、いいんじゃねえ?」

 そりゃ、さ。ヅラが何やってて、今どんな立場にあんのか、ヅラが自覚してる程度には俺だって認識してるけどさ。


「俺は、子を為そうとは思えん。だとすれば、後が無い方がいい」

「そんなもんですかねえ……」



 それってさ、心、寂しいよな。とか、同情してるつもりもねえけど。こいつに同情なんかしてやったら結局かわいそうな目に合うの俺だって知ってるから、絶対同情なんかしてやんねえけど。
 だって、いくら俺が心配してたって、気になったって、こっちの気持ちなんか一切無視して、それどころか自分のの感情すら一切無視して、正しいか正しくないかばっか優先させてんだから、俺が同情なんてしてやったところで、俺の同情が勿体ねえ。
 だから、特定の一人、誰かを懐に入れることができないヅラを、可哀想だとか思って同情してやるつもりはねえけど。



 でもさ、両想いって予想以上に幸せだけどな。


 そのくらい、知ってる?











20120803