不貞腐れた顔をして俺から視線を外した銀時の横顔は、俺の好きな銀時の顔だ。銀時の困った顔が好きだ。もっと困らせてみたくなる。勿論笑っている顔も好きだし、怒った時の顔も好き。そんな言葉は俺の口から出ることなどはないだろう。
言わなくてもいい。
通じていなくても構わない。理解されたいと思わないわけではないが、そう願うよりも俺と銀時であるというそれだけで、俺達の絆は正しく強固であり、透明度の高く手触りのないものだ。
願う事もない。
言葉にする必要はない。
それでも、時として、伝えたい想いもある。
気持ちが膨らみすぎて、容量が限界になって破裂してしまう前に、少しでも吐き出さなくてはならない感情もある。
「銀時、お前と再び巡り在ったのは、運命かと思う事もある」
運命……だ、なんて。
ずっと嫌いな言葉だった。
『運命』など、弱者の言い訳でしかないと思っていた。
自分の力が及ばないのは、努力が足りないだけで、都合よく自分以外の何かが、世界には自分の及ばない大きな歯車があると勝手に設定し、自己を保持したいがために自らの非力さを肯定する言い訳と責任転嫁の為に用いられる『諦め』と類似した言葉だと思っていた。
銀時が抜けて……二度と会わないと思っていたが、偶然にこの町で再会しただけだ。ただの偶然だ。そこに何らかの意思も介在しない、ただ、偶然だ。
再会し、俺は銀時の隣を選び、銀時も再び俺を求めてくれた。
ただ偶然に重なっただけだ。運命などではなく、偶然であり、それはただ確率の問題だ。
「……馬鹿じゃねえ?」
「ああ、そう思う……お前を憎むことすら出来ないなど」
赦せないと、憎いと……その感情ならば、銀時を心に喚ぶ事を許容していただけだった。
憎しみならば銀時を思い出してもいいと、心に銀時を留めておいても良いと、勝手に自分自身に規則など作っていた。
再会して思い知る。
ただ、俺は銀時で占められていたと。その思いに名前をつける必要すらないくらいに、ただ俺は、銀時だっただけだ。
結局、離れた所で何も変わらない。
「………お前さあ」
「俺は一人でも攘夷を完遂させる気は変わらない。お前も守るべきものを抱え込んだ……。戻って来てくれるならば嬉しいが」
「……攘夷はお断りします」
「だとしたら、重ならなくとも良かったのにな」
……道が。
俺達は違う道を歩んでいるはずなのに、何故今隣に在るのはお前なのだろう。
何故、見据えている直線上の未来は同じなのだろう。
銀時の顔が俺の胸に押し当てられた。腕の力を抜いた銀時が俺の上に落ちてきて、俺の身体に体重が乗った。銀時の全部の体重が俺の身体を潰し、呼吸が圧迫される、その重さが嬉しいだなんで……。
肌にかかる銀時の吐息が熱い。
銀時の顔を見なくとも分かる。
本音を晒すことに慣れていない銀時の顔は、赤くなってるだなんて、わかる。銀時がどんな表情しているのか解る。
きっと俺に見せたくないような、だらしなく締まりのない緩んだ顔をしているに違いない。
「……そっか」
ぎゅと抱き締められた腕の力は、とても強かった。
馬鹿力なのだから加減しろ、とそう思ったが……その苦しさすら愛しいから、困る。
「ああ……とても困る」
「そっか」
汗ばんだ皮膚同士、それでもその皮膚の境界すら心地好い。
お前が愛しくて、放したくなくて、離れがたくて、とても困る。
銀時……お前と離れたくない。
だから俺の気持ちを伝えるために、銀時のふわふわの髪をくしゃくしゃに撫でた。
「銀時、それで続きはしないのか?」
まだ、身体は熱を持つ。先ほどの行為で熱くなった身体の芯は冷める事もなく疼いている。
仕方がない。心は常にお前を求めているのだから。
「……てめ……わざとかよ」
俺の上にべったりと脱力して、重い。
「さあ?」
俺が、行為を続けたくて、お前の機嫌を取るために嘘を吐いたと思うのであれば、それでいい。
今、本当は俺がこれからの計画を思案していて行為に身を入れていなかった。そして銀時の機嫌を取るために軽口を叩いたと思われているなら、それがいい。
実際、初めは、それを考えていた。
これから……
明日から、俺は江戸を離れる。
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20120310
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