君は僕の運命の人だ 02



 

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 覗き込まれた少し赤味を帯びた瞳には、苛立ちが混ざる。その色に気付かないわけにはいかなかった。



「……こんな時に、何考えてんの?」

 中にある銀時が、ずるりと抜かれた。
 急に身体から体積が減り、潮が引くように満ちていた熱が失われる。



「ん……銀、時?」


 銀時が在った場所が、冷えて疼く。
 中に感じていた灼熱が急に奪われ、寂しく冷えてくる。

 身体はまだ放出されないままの熱が行き場を失い暴れている……こんな、状態で。



「お前、なに考えてんだって? こんな時に」


 どうやら、考え事をしていたせいで、銀時の機嫌を損ねてしまったようだ。

 そう言えば昔から、嫉妬深い奴だった。
 普段の態度から、時々忘れそうになるが、昔からこの時だけは心を逸らすことをとても嫌がっていた。こうして二人きりの濃密の時間、互いの熱を共有する行為の最中は、ここだけに集中しないと、こんな風に機嫌を損ねる事があった。
 嫉妬だと気付くまでには色々と悩まされたものだが、銀時の感情の色に気付いてしまい、それが俺に向けられていると思えば愛おしさが増した。
 ただ、機嫌を直してもらうためには未だに苦心する。


 本当に、銀時は昔から変わらない。



 今など生活が違うのだし、お互い暇が重なる事もあまりない。こうして銀時と身体を重ねる事すら稀だと言うのに。


 銀時が、ここに居るのに、こうして久しぶりに二人の体温を分つ時間が持てたというのに、目の前にある銀時以外の事を考えて居たのは、確かに俺の落ち度だ。



 だが、だからこそ……言わなくて良いこともある。
 俺が、それを口に出す必要はない。



「……お前は知らなくて良いことだ」

「……またかよ」


「銀時?」


 上に被さるようにして顔を覗かれた。直に瞳を見つめられるのも、俺の中に銀時が入って来るような気がして、嫌ではない。

 黒よりも赤い色合いの瞳が俺を見ていた。



「……」

 銀時の瞳が、すと細められた。
 銀時の血を映すような瞳の奥に、怒りが隠った事くらいは解っていた。



 また、俺が今後の活動を考えていると思ったのだろうか。

 昔は俺もお前も視野が重なっていたから。銀時が何を考えて居ても解った。俺が考えていた事も理解されていた。銀時が考えていることを解っても困らなかった。互いの全部を把握していた。心の向きは些細な事で、歯車はすべてが噛合っていた。何もかも、俺達の間に気にするほどの事はなかった。


 だが今は守るべきものが違う。すべき事も違う。生活も置かれた状況も立ち位置すら違う。





 俺と銀時は、何もかも、違う。色も形も匂いも違う。





 ……俺もお前も何も変わってなどいないのに。

 ずれてしまった歯車は、もう戻らない。
 それでも、まだ動き続けている。


 俺は止まれない。


 俺達は別の存在を自覚しなければならなかった。魂は一つではなかった。


 俺達はもう重なっていない。
 魂は、俺のものであり、銀時の物ではない。


 だからこそ、こうして少しでも重なる時間は大切にしなくてはならないと、そう銀時が考えているとしたら、俺も賛同する。






「お前、こんな時ぐらいさ……」



 互いに違う存在を自覚していたとしても、銀時の気持ちくらい理解している。
 俺の心など、どうせ理解されている。






 俺達は二度と会わないと思っていた。そうやって別離した。
 もし再会する事があっても、他人として扱う事が正しいと思っていた。

 そして、きっと銀時を赦す事など無いと思っていた。






 俺達を捨てたんだ……。







 俺を捨てた。






 だから、許さないと思っていた。


 それなのに……







「何故、こんなにもお前が愛しいのかと考えていた」


 俺は、正直に伝えた。

 元々嘘を吐くための二枚舌の構造はしていない。



 本来ならば、俺の心など言わなくても良いことだ。

 理解など、しているし、されている自覚もある。



 ただ、時として伝えたくなる事もある。





「お前と、再会できて、良かった」

「……」

「離れた所で忘れられない。許さないと意地を張ってみた所で、結局お前が何より愛おしい」

「……っ、お前さあ」




 俺を覗いていた銀時の視線が、横に流れた。わざとではなく零れた笑顔は、上手くできていると思ったのだが。




「……ムード作る甘い言葉を吐ける甲斐性ないからって、直球はやめろって」



 銀時の視線が逸れてしまったのが惜しくて、こちらを向いて欲しくて、銀時の頬に手を伸ばす。
 頬が赤く染まって居るのは、先程までの行為で上気しただけではないはずだ。














20120229