たとえ、世界中のすべてを敵に回しても、僕は君を守る 09



 






「行ったか?」


 俺が部屋に戻ると、きちんと服と姿勢を正したヅラが、飄々とした態度で言い放ちやがった……まあ、そうでしょうけどね。
 自分を自覚した上での作戦ですか。そんくらいは当然なのは解っちゃいるけど……やっぱり俺の脱力感には妥当性があるはずだ。

 いつも身なりなんか寸分も気にしてねえくせに、自分の外見自覚してやがるなんざ、本当に可愛げのない奴だと、しみじみ思う。
 昔から、ガキの頃から、朝だって用意にかかる時間お前が一番早かったし。結局鏡だってロクに見てもいねえくせに。昔から、女みたいだって言われるたびにキレてたくせに……。

 そんでも自分の容姿には自覚はちゃんとあって、有効活用してるあたりにも腹が立つ。

 そんな事今更だから、そんな事には腹を立てるつもりねえが……いや、今はそんな事でいちいち文句付けてる場合じゃねえ。

 今はそんな事じゃなくて。








「てめえ、何で逃げなかった!」

 俺は、時間稼いでやってる間に、何で逃げなかったんだよ。
 逃げの小太郎だとかの通り名どこ行った? 時間もあった。気も逸らしてやった。てめえなら、音も立てずに出てく事なんか朝飯前だろうが。
 確かに周囲は敵の陣に包囲されちゃいるが、どうせヅラの跳躍力だったら三次元使って逃げられるんだ、この程度の包囲網、隙をついて突破しろってのは難しい要求だったわけじゃねえはずだ。

 だってのに、逃げもせずに布団の中とか……こっちの心臓の心配とかしないで……

 こいつ、なに考えて……。




「実は足も挫いていて、今逃げても無事に包囲網を突破できる自信がない」



「……そう言う事は先に言っとけ!」



 気が付いたら布団に居たから気付けなかった……。その足でどうやって窓から入ったのかは解んねえが……頑張って入ったんでしたっけ?



 ……まあ、真選組の頭脳が馬鹿だったおかげで、助かったが。

 それにしたって、本当に心臓にだいぶ負担かかったんですけど。だいたい今ので三年分ぐらい短くなったと思う俺の人生。



「助かった。礼を言う、銀時」

 礼なんて……

「……別に、何もしてねえよ」

 なんも出来なかった。
 だから、礼なんて言われる筋合いねえ。俺は何にもしちゃいない。結局こいつは自分で何とかした。俺を頼ってきたってのに、俺は何もしなかった。
 誰も傷つくこともなく、穏便に一番手っ取り早い方法だったのは事実だけど、それでも……俺はヅラに何もしてない。




「だが、するつもりだっただろう? お前の殺気くらい解る」




 ………バレてたのね?
 俺があの男向けてた殺気、解ってたんですか。





 もし、あの男が動いたら、俺は刃を向ける事に躊躇いは無かった。
 きっと、あの男が腰の刀を抜いた瞬間に、ヅラは刀を投げてくれるだろうから、俺はそれを受け取って、きっと戦う。ヅラを守る事に対して迷わなかった。


 冷静に考えたら、俺の保身考えたら、すっとぼけてお巡りさんにヅラを突きださなけりゃ、俺だって攘夷浪士かくまってた事でお縄頂く羽目になってたかもしんねえ。別に俺が走ってきた道のりが後ろ暗い過去だって悲嘆して隠蔽するつもりねえがいちいち面倒な昔の事とか調べられたくねえ。


 ……それでも俺にとっては過去だ。
 過去は過去で矜持してるが、もう、俺は白夜叉じゃない。

 ヅラにとっては現在進行形で、お前は未だに生きた伝説の狂乱の貴公子様。


 俺は、もう違うのに。

 俺はただの一般市民で、ヅラはテロリストだってのに。その辺り、俺達の立ち位置はちゃんと把握してるつもりだったのに。



 自分じゃなくて、まずヅラを逃がす事考えてた。


 まず、ヅラの事考えた。





「お前の殺気、久しぶりに心地好かったぞ」


 これってつまり、お前の味方するってことは、俺の居心地良い世界敵に回さなきゃなんねえって事かよ。別に攘夷とかそう言うつもりでなく、ただ俺が個人的にヅラが好きだから守りたいってそんな単純な心境は世界中が敵になるって事ですか……やってらんねえ。


 お前の腐れ縁も、大概重すぎる。




「ったく。ヒヤヒヤさせんじゃねえって。嫌な汗かいた」




 脱力して、布団に横になった
 派手な運動したわけじゃねえけど、疲れた。マジで疲れた。

 俺は、ただ寝てただけなのに、なんでこんな目に会うんだか。今日はパチンコで勝って調子良い日だったのに……日付変更線間近でこれって何?

 突然布団の中に侵入してきて、安眠妨害したばかりか、尊大な態度で匿えだとはほざいて、嫌いな肺癌予備軍は押し掛けて来た上に、ヅラはヅラで背中だとは言え俺以外の奴に肌なんか見せやがるし。

 白い肌……どんな作戦だろうとあんな男に見せんじゃねえよ。

 そりゃ、穏便に済んだのは事実だけど。それでも、俺に許可もなく見せんじゃねえよ。



 なんでこんなの守るために俺が……。





「銀時、有り難う」



 横になった俺の頭を、ヅラが優しく撫でた。

 ちらりと見ると、ヅラは滅多に見せないような柔らかい笑顔で俺を見てた。

 ああ……なんか、すげえ、悔しい。





 昔、こんな風に俺の頭を撫でてたよな、よく。

 俺、実はけっこう好きでさ。言ったことないけど、こうやってヅラに頭撫でてもらうの、すごく落ち着く。


 起きてる時はしてくんなかったけど、寝てるとよく頭撫でてくれてたよな。ヅラが頭撫でてくれてる時は、だから寝たふりしてた。起きたらやってくんなくなりそうだったから、寝たふりしてた。知ってんだろ?

 で、今俺が起きてんのも知ってんでしょ?














20120204