たとえ、世界中のすべてを敵に回しても、僕は君を守る 10



 






「……苺大福一ヶ月分」
「では、手を打とう」

「あー、やっぱりイチゴパフェと苺大福」
「仕方がない」

「それとも老舗丼村屋の栗羊羮にしようかな。一本二千五百円のやつ」
「どんどん要求が高くなるな。まあ、今回は本当に助かったから、何でも構わん。それに今なら多少の融通は効く」

 へえ……何でも良いんだ?



 俺、欲しいものがあんだけどな。




 すげえ、欲しいモノがあんだけどな。ずっと、手に入れたかった。本当に、どうしようもなく欲しくて、本当は手を伸ばしたかった。









「……やっぱり、お前」


 やっぱりお前がいいわ。
 だって、今すぐにでも抱きしめたい。

 も一度、俺のモノになってくんないですか?


「………」


 心配させやがって。
 こいつが居なくなると思ったら、今でも指先震えてやがる。気付かれたくないから、手の平を握ると、汗がじとりと湿ってた。


 情けねえ……そう思うけど。



 俺の目の届く所に居てよ。

 やっぱり俺ので居てよ。そうじゃなきゃ、俺がこうやって怖い思いすんじゃねえか。





「それは、困ったな……約束できん」

「………」

 ヅラを見ると、本気で困惑した表情していた。さっきまでの笑顔、曇らした。


 知ってますよ。んな困った顔すんなって。悪かった。



「冗談だって。通じねえ奴だな。だからお前は昔からモテねえんだよ」

 冗談だって。


 ただ弱音吐きたかっただけだって。

 だから、そんな顔すんなよ。




「羊羮だったな」
「丼村屋だぞ」
「ああ」
「栗羊羮だかんな」
「解った」


 仕方ないから、それで手を打ってやる。

 1ヶ月分だけど、一気に持ってくんじゃねえぞ。さすがの俺でも一か月分の羊羹は一気に食いきれねえから、最低でも三回に分けて持ってこいよ。




「朝まで布団借りるぞ」


 ヅラは布団の中に身を滑り込ませた。


 あれ、ソファー行かないんだ? 別に、いいけどさ。
 もう、布団から追い出す気力も沸いてこねえ。


 布団は普通のサイズで、男が二人もはみ出さねえように寝るためには、やっぱ少しくらいくっつくのは仕方ない。
 だからこんな風にヅラと接触してんのは仕方ない。


 相変わらず体温高いな、コイツ。体温感じさせないような白い肌して、見た目に反して体温高いし……肌寒くなってきた時期だから、ちょうどいいわ。だから、布団の中に居ても、今日くらい、文句言わないでやるよ。




「足治るまで……治ってから帰れよ」


 俺も本気で今度こそ寝るから、布団かけなおした。

 ヅラがこっち側に顔を向けた気配がした。こっち見んじゃねえよ。今、俺、絶対変な顔してる。



「いや、朝には帰る。こう見えても忙しいんでな」
「………朝までに治せ」


 治ったら帰っていいから。
 それまでは、ここにいてよ。

 足もぎ取ってやるから、生えてくるまでここで大人しくしてろって言っても、どうせお前は行きたい場所あったら這いずってでも行っちまうだろ?
 具体的に縛り付けておいたって、ヅラはヅラの決めた方向に何があったって行く。だったら、下手な約束の方がヅラの行動を規制できる。小さな約束積み重ねて、ヅラが俺でがんじがらめになるくらいの、小さな約束。それでも積もり積もってまた俺の所に戻ってくればいい。
 きっとすぐにこいつは羊羹もって俺に会いに来る。だって今約束した。




「銀時……さっきの」

「あ?」


 怪我してんだから、傷に触れないように、こっち向いて寝りゃいいのに。天井見てないで、俺を見てよ。


「冗談でなければ……と、思うこと、良くあるぞ」





 ………そっか。






「……怪我人はとっとと寝ろ。てかいい加減、俺を寝かせろ」


 顔だけ俺の肩に押し付けるようにすり寄せて、そんな事言うんじゃねえよ。
 よく思ったって、思ってるだけじゃねえか。どうせ駄目なんだろ?

 結局俺のになんねえんだろ?





 悔しくて、布団の中でヅラを抱き締めた。
 傷口も触ってたけど、痛かったかもしんないけど、知らねえ。お前のこと気にしてやれる余裕なんてねえよ。


 相変わらず、細い身体。
 力入れたら折れちまいそう。

 昔から、変わらねえ。

 昔からお前は何にも変わらねえ。



「銀時、苦しい」

「るせえ。寝てろ。んで、俺はもう寝てんだ」




 昔、あの頃、お前が俺の背に居て、戦って。

 広野に動くものが無くなるまで剣を振ってた。そうやって戦ってた。
 まるで、世界中が敵で、お前しか味方が居ないような気がした。そんな世界に居た。

 世界が俺達を殺そうとしても、俺はすべて敵に回したって、お前の背中守るって、そう思って剣を握ってた。


 ヅラは、何も変わらず、

 俺だってどうせ何にも変わっちゃいねえのに。






 あの時の気持ちは忘れた事なんかない。

 その時のお前への気持ちは、同じ熱で、同じ強さで、同じ硬度で、同じ色をしたまま、多分死ぬまで変わらねえ。



 だから、結局俺は世界を敵に回したって、コイツの事助けちまうんだろうな……とか思うと悔しかった。





「銀時?」


 だからせめて。


「だから、俺はもう寝てんだって!」


 もう、寝てんだよ。俺は寝てるんだから、お前も今すぐ、この瞬間に眠ってろ。




 だから、これはただの寝言だ。






「…………あんま、心配させんな」


















20120218
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