たとえ、世界中のすべてを敵に回しても、僕は君を守る 06



 






 なんでこう、ヅラはヅラ自身が台風みたいなくせに、厄介事引き連れてくるかな。ああ、だからか。……面倒臭ェ。
 今何時だって思ってんの? いつになったら俺の安眠は保証されるんでしょうかねっ!
 とか文句言ったって、元凶をここに置いとくって決めた俺にも非があるのは解ってるし、全部放棄して寝たところでこの状態じゃ眠れねえ。
 仕方ねえ。ため息をついて、頭を掻きむしりながら立ち上がる。


「銀時……」

 ヅラが夜目でも解る程に蒼白な顔して、俺の足を掴んだ。

 ……いや、そんな顔されなくても、わざわざお前突き出したりしねえって。その程度の信頼もないんでしょうかね、俺は。確かにヅラより今俺は布団が恋しいけどさ。

 そんな顔すんじゃねえよ。似合わねえから。不安そうな表情なんか、お前には似合わねえ。
 どんな窮地に居たって、飄々とこっちの神経逆撫でるような傲岸不遜な表情してんのがお前だって。

 だから、そんな顔、すんなよ。
 俺だって、そんな顔見たくねえよ。


 見たくないから、布団をヅラの頭から被せた。



「っ、何だ!」

「てめえは大人しくしてろ! ったく。追い払って来りゃ良いんだろ」


 とりあえずヅラの為じゃなくて、玄関の邪魔者追っ払わないと、布団の中の邪魔者がどっかに……ソファーにすら行くどころじゃねえし。

 俺だって、今の生活あんま仕事選んでる場合じゃねえから、今日は安い料金で色々こき使われて、疲れて眠いし。明日は明日でまた面倒な奴が入ってるし……。



 安眠の為だって。だからつまり俺の為だって。

 わざとドカドカと外まで聞こえるような足音立てて玄関まで歩いて、扉を思いっきり開けて怒鳴る。





「んだよ! 時間考えろっ!」

 玄関鍵開けて怒鳴って、そのまま閉めようとしたら、

 俺が苦手なマヨネーズ臭がいた。

 ……なんで寝る前にこの顔見なきゃなんねえかな。

 今まで存在してるだけで疲れさせる奴の相手してたってのに、その上尚且つさらに何で目に入れただけで不快になる肺癌予備軍が目の前に居るかな? どうなってんだよ、今日の俺の運勢。ラッキーアイテムはピンクのミニスカートとかハードル高かったんじゃねえのか?


「安眠妨害たぁ、この町の治安どうなってんの、お巡りさん呼んできて。ちゃんとした人」

「るせえ、桂がこの辺に逃げ込んでんだよ、かくまってんじゃねえよな? だったら貴様も幇助罪でぶちこめるぜ?」


 うっさいから扉閉めたいのに、閉まんねえように、足で押さえやがって。この男の足ぐらい潰してやってもいいような気がするけど、気合入れて閉めようとしてんのに、そっちも必死なんですね。

 早く帰ってくんないかなあ。




 ……中に、ヅラがいんだ。


 ……まずい、な。




「あのさ、困るんだけど……マジで」
「捜査に協力すんのが市民の義務だ。大人しく中見せやがれ」

「実は今日は神楽ちゃん居ないから、美人連れ込んでイイコトしてた最中なのよねー…」


 わざとらしく、小指立ててニヤリと笑ってみた。この男の怒りを煽ってんのはわざとだ。

 土方は額に青筋が立ってるような全力で不機嫌を剥き出しにした顔したから、少し気分が良かったが……実際、立場悪いのは俺の方だ。立場も悪けりゃ機嫌も俺の方が最悪だ。


 こんな夜中にこのツラ見ただけだって、気分悪いのに。


 ヅラが、怪我した。
 てめえらが、ヅラに傷付けた。
 どうせこの男も関わってんだろう。大したことねえ隊員風情にヅラが手傷負わされるわきゃねえんだ。

 こいつ、か? さっきヅラに怪我負わせたの……。

 この包囲網……またどっかの天人と揉めてんのは知ってたけど、そんで警備が強化されてて、町歩いてるだけでも黒い制服の人達よく見かけるここ数日だったから、ヅラはヅラで何かやってんだろう。
 んで、ヅラが怪我してたって事で活気づいて、一網打尽にする作戦でも取ってんだろうか、鬱陶しいことこの上ない。




 ……まだアイツが居んだ。
 ヅラが、俺を頼ってきたんだ。

 誰にも頼らないで、自分一人でなんでもできるのに……俺を頼ってきたんだ。







「……確認させてもらう」

 土方はそう言うと、無理矢理玄関の中に入り込んで、靴を脱ぎ始めた。


「おい、てめえ!」


 俺が制止してんのに、勝手に上がり込んで来やがった。
 マジでどうなってんの?
 お巡りさん、まず常識勉強しやがれ!


 いや、そりゃ俺とヅラが関係してんのコイツらは勘づいてやがるだろうが……。

 だから、そっちとしちゃ、徹底的に調べたいんだろうが。
 普段だったら、清廉潔白の俺んちを見たところで何も出て来やしねえが……今は……



「てめえっ! 勝手に入んじゃねえよ!」


 奥に居るヅラにまで聞こえるようなでかい声で引き留める。いや、うち別に立て付け良くないから、小声で話してたって丸聞こえだけど。でも、わざとでかい声を出す。


「てめえが嘘吐いてねえか、確認したらすぐ出てってやるよ!」


 せめてお邪魔しますぐらい言ったらどうだ! 躾がなってねえ!

 それに趣味悪いって!
 俺が言った嘘、マジだったらどうする気だって! マジだったら他人の情事覗こうとしてんの解ってんのか? いや、嘘だけど。そんな素敵な展開にはなってねえけど。
 見た目だけなら美人は居るけど、連れ込んだわけでもなく、押し掛けてきてるけど。


 てか、まずいって。




 冷や汗が吹き出る。
 いやな汗が背中を伝った……けど、


「だから! 勝手に人んち上がり込むんじゃねえよ!」

 でかい声は、わざと出す。何か物音が聞こえたら、俺の声で相殺出来りゃ有難いから、とにかくでかい声で引き留めたけど、勝手に俺んちにずかずかと入り込んで……。

 心臓が嫌な速さで動いてる。


 でも……大丈夫だ。きっと大丈夫。
 こんだけ騒いで時間稼いだんだ。ヅラだって馬鹿じゃねえ。

 きっと上手いこと逃げてくれて、今頃はきっと屋根の上とかだろう。
















20120106
本日のラッキーアイテムが「瓦」って事があって困った。