たとえ、世界中のすべてを敵に回しても、僕は君を守る 03



 






 布団に押し付けたヅラは物凄く不貞腐れた顔して、俺から視線逸らして横を向いたけど……都合悪くなると、視線合わせなくするとか、いい大人なんだからやめろって。
 別に頬膨らませたって可愛くねえって!



「仕方ないだろう、俺だって人間だ。ヘマする時ぐらいある」

 ……いや、馬鹿にしてんじゃなくて、咎めてんだって! 怪我なんてしやがって情けねえ奴だって意味じゃなくて、怪我なんかしてんじゃねえって怒ってんだって。心配してんだって、一応、これでも!

 てめえの性格から逆算した俺の性格を加味するとこんな言い方になるだけだって! そんくらい、解ってんだろうが。
 わざとか? その発言はわざとかっ!?



「で?」


 わざとだとしても、反論と黙秘権を与えるつもりなんか無い俺は、端的な発音と視線でで圧力をかけた。
 はぐらかそうってったって、そうは行かねえからな。ちゃんと匿ってやろうってんだから、怪我の理由ぐらいは話してもらう。


 ちらりと、ヅラは俺を見た。
 それで、俺の怒りを含んだ視線を確認すると、またすぐに視線を逸らしやがった。




「……さっきバズーカ撃たれた……から」



 ……あのお巡りさん達か、やっぱり。

 いや、ヅラがどこの誰にやられようと、怪我負わされたって……もし殺されたって、仇討ちなんかしてやる義理すらねえけど。
 そんな関係はもうとっくに解除されてるけど。

 今は、こうやってヅラが俺に頼るだなんて事すら違反してるって、無関係が義務の関係なんだけど。



 にしたってバズーカ標準装備って、市民の安全破壊してんじゃねえよケーサツの人も。



「だが直撃じゃないぞ! 倒れてきた木材に腕を擦りむいただけだ。明日には治る」


 いや、そんな言い訳は別に求めてないから。
 何のプライドだか知んねえけど、生身で重火器相手にすんじゃねえよ。相変わらず化け物並みの戦闘力は衰えて無いって主張したいんだろうけど。



 ……何で、俺が言いたい事、コイツには上手く伝わんねえかな……。


 上手く、伝える事が出来ない自分だって歯痒い。




「はいはい。診せなさい」

「………いいだろう」

「………」




 何で偉そうなんだよこいつは!
 しかも、何でまだ不貞腐れてんだよ!

 今機嫌悪いの、俺だからねっ!
 お前が怪我してんの、お前以上に俺の方が腹立ってんだからな!

 とか……言わないけど。言ってやるつもりもないけど。



 ヅラが渋々袖を捲り……肩を見せる。





 かなり……。


 出血は酷くねえが、縫うほどじゃねえが、そりゃ、放って置いたってヅラはかなりの回復力があるから……特に顔、顔にだって何度も傷を受けたのに、相変わらず化け物みたいに綺麗な肌……。

 肌は白くて本当に綺麗だったけど……その分、傷が生々しい。どうせこのくらいなら、半年もすりゃ痕も残さずにすっきり治るんだろうけど……。

 広範囲に痣と裂傷。擦り傷だってこう範囲が広いと、なかなかえぐい。

 さすがに、見て見ぬ振り出来るような傷じゃない。


 着物も、破れて、木材の破片がこびりついてる……あー、布団、汚れたな。布団カバーとシーツ洗わないと。




「脱げ」
「……しないぞ」

 上目遣いに俺を見たヅラ……を思わず本気で殴りたくなった。

「するかっ! 馬鹿かっ!」

 この状態で、なんでその発想に行くんだ? やっぱりバカなの?
 手当てする部分以上に俺が殴って痛みを与えたら、少しは大人しくなりゃいいのに。その実験結果は既に実証済みで、ヅラはヅラにしかなり得ないって結論が出てる。どうやったって、何したって、俺がどうだって関係なく、ヅラはヅラなんだ。



「服が邪魔で手当てしにくいんだよ! 布団も汚れただろうが! とっとと脱げ!」
「俺の命と布団とどっちが大事なんだ!」
「布団と俺の安眠に決まってんだろ!」
「お前は、なんて友達甲斐のない奴なんだろうか……」
「はぁ? お前に友達なんか居ましたっけ?」
「殴られたいか」
「てめえがな」


 俺とそう言い合いながらヅラは躊躇いもせずに、男気溢れる脱ぎっぷりで、袷を緩めて、片側の腕を出した………。


「ほら、脱いだぞ! これで文句は無いのだろう?」
「……はいはい、ありがと」


 疲れた。
 こんだけで何でこんなに疲れるんだ? 深夜にいきなり不法侵入の上に布団にもぐりこんできた果てに、偉そうとか……本当に、何様だ、こいつ。見たくもない血を見せて、俺に手当までさせやがって。




 俺は、怪我をしてる部分を見る。

 怪我をしてない部分も見る。



 ……相変わらず………。


 コイツ、綺麗なの、本当に顔だけじゃねえし。


 細くて薄い身体なのに、綺麗に無駄の無い筋肉つけて……思わず、触れそうになって慌てて止める。




 いや、今更だけど。何度も手当てし合った仲だ。長い戦いの中で、自分じゃ負けない包帯とか巻いて貰った事もあるし逆もある。背中なんて俺がするのが当然だった。
 ガキの頃なんて、全裸で川で遊んだことだってあるし、ヅラの肌なんて、別に今更珍しいもんじゃない……

 それ以上に、やる事やってんだ!
 コイツの肌なんか、俺は見慣れてんだって!










20111227