薬箱取ってきて、傷口に消毒液ぶっかける。
その上から脱脂綿を叩きつけるようにした、そんな手当てしてるってのに……粗雑な手当てしてんだから、痛みに顔くらいしかめてくれりゃ少しは可愛げあんのに……そんな俺の気持ちなんかどこ吹く風で、ヅラはうちに来て茶をすすってる時と同じ表情を崩しもしねえ。
「銀時」
「あ?」
「手当て、下手になったな」
……しかも、可愛くねえ。
わざとだよ、ムカついてんだこっちは!
安眠妨害と不法侵入しでかした怪我人に、俺なりの仕返しをしてるってのに、俺の嫌味にぐらい気づいて頂きたいもんですが。
「てめえと違って、大人しく生活してる一般市民なもんでね」
ムカついたから細い腕にわざとキツ目に包帯を巻きつける。
「すまないな。動いてもほどけないように、キツ目に頼む」
風呂の湯加減答えるような暢気な調子で返してんじゃねえよ!
しかも手当てしてやってる奴を目の前に、動く事前提に話してんじゃねえよ。動かすな、治るまで動くな! もういっその事、馬鹿が治るまで動くな。ずっとここに居ろ!
ぐるぐると、鬱血しちまえって思う力で包帯巻きながら………
白い肌が、やっぱり目に入る。
白いから、傷跡が生々しい。それを覆い隠すように包帯を巻き付けた。
白い、ヅラの肌。
まだ、俺の手は覚えてる。こいつの肌の、触り心地。そんで、しっとりとした肌に手を滑らした時の、ヅラの反応も俺の脳味噌は忘れさせてくれてない。
包帯に滲んだ血が、やけに赤い。
その赤さが、矢鱈に目に沁みる。
………昔と……重なる。
ヅラに聞かれないように生唾飲み込む音を押さえるのが大変だった。
いや、あの時は若気の至りだったって、ただの思い出だって! って、誰に言い訳してんだか解んねえけど、俺はとにかく今、自分を肯定してやりたかった。俺、悪くないから。別に、特に何にも考えてないから! 考えてても、ただちょっと思い出しただけだから!
確かに、あの頃は、ほぼ毎日お前の白い肌に溺れるように求めてたけどさ!
暇さえありゃお前とひっついてるのに一生懸命だったけどさ。お前が居りゃ、それだけでいいとか思うくらい、ほとんど世界ん中お前だけだったけどさ。
同じ高さで同じ温度で同じ前見据えて、世界でお前しかいなくて、お前だけがいればいいってそんな風に思ってたけど。
そりゃ、身体の相性、滅茶苦茶良かったけど!
「銀時、懐かしくないか? 初めて俺達が……」
「思い出させんなっ!」
思い出したくねえけど、ちゃんと覚えてるって!
「何だ、忘れてたのか。俺ばかりが覚えているのは何だか癪だ」
ヅラの含み笑いの中に込められた意味なんか理解したくもないから、本当に乱暴に包帯巻いた。
「っ……銀時、キツすぎだ!」
「すんませんね!」
ようやく、ヅラが少しだけ顔をしかめたから、満足した。ざまあみろ。少しはてめえから受けた俺の心の傷を思い知れ。
まったくとか、ぶつぶつ言いながら、巻かれた包帯確認してるヅラに、舌打ちする。
思い出させんじゃねえよ。
お前が覚えてなくたって、キレイさっぱり忘れたって、俺が忘れるはずねえだろ?
忘れたふりぐらいさせといてくれませんかね、気の効かない奴はモテねえぞ。
……ヅラとの初めてなんて、もう忘れたい。
覚えてたって、どうせ何一つ良いことなんかない。
あれは、きっとただの衝動だった。
……初めて、やった時も、こんなふうにヅラの手当てしてる時だった。反射に近い、衝動、だった。
あの時も背中の傷だった。
あの時も大した事無かったけど。背中、斜めに一本刀の筋つけて、届かないから手当てしてくれって何でもない顔で、言われたのは、皆寝静まってからだった。
あの時も、いつも通り、今日の月は綺麗だって言ったのと同じ口で、俺に手当を頼んできた。髪に損傷なかったから俺も気付けないくらい、飄々としやがって。
手当なんて……そんなの毎度の事だったから、俺も自分じゃやりにくい場所はヅラに頼むし。お互い様だった。
そんでも、ヅラの怪我に気付けなかった自分が、情けないやら悔しいやら、そんで、俺にも気づかせないようにふるまってたこいつが、本当に憎らしくて。
皆が寝静まった静寂聞きながら、ヅラの背中に包帯巻きながら、あの時も、ヅラの白い肌と、背中の傷の赤を見てた。
包帯を前に通す時に、腕をヅラの身体に回して……
それは、後ろから、抱き込む体勢とよく似ていて……
至近距離にあった真白いうなじに、目を奪われた。きっと、心もだろう。
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20120101
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