結局お前は正しい。間違えない。正しいからどんなに辛くても汚くてもそんな現実でも直視しても目を反らさないし、真っ直ぐ目的まで迷わないし、正しさを正しいままに受け取れるから嘘も要らない。
だからお前は強い。
だからこそ、その強さは時々痛みを伴う。
ぐちゃぐちゃ迷って何処に行って良いのか分かんなくなる事なんか無いし、痛い現実から身を守ろうと自己保身の為に嘘で武装する事もない。
だから、時々、お前が痛い。だって、お前そのままだから。
ヅラだって痛みを感じてるんだろ、どうせ。俺が感じてるお前の痛みは、きっと一方的な感情移入じゃないと思う。一番痛がってるのお前だろ?
それだって、お前は強いから、我慢しちまうんだ。普通だったら重くて痛くて耐えられなくなるところを、我慢できちまうから、それがどんどん蓄積して、それでも溜め込んだ重圧にだって耐えきれなくなりそうになったら、また強くなって、もっと重なったらそれも耐えられるほど強くなるんだろ、どうせ。
そうやって、ずっと強くなって……。
泣き言を言う度に弱くなるんだってさ。
昔、俺がそんなヅラを知らずに弱音吐く事を強要した。
俺ならお前の全部受け止めてやれるからって。だから、重かったら俺によっかかって良いから。俺にならぶつけて良いからって、そう言った事があった……それはすごく古い赤い頃の記憶。
それでもヅラは弱音なんか吐かなかった。
泣き言言うと弱くなるんだと。
なんでそう言う所も昔から変わらないんだろう。それがヅラだって知ってるけどさ。
だから、ヅラだから、可愛くねえ。
長い付き合いだから、ヅラが泣いたのを見たことだってある。
大事な人が目の前で死んで、立ち直れないくらい憔悴しきったヅラだって見たことある。
ボロボロになって、死にそうな目に合いながら、辛い現実突きつけられて、
それでも、コイツは、泣き言を言わなかった。
もし、もっと強かったら。もし、別の人間だったら。そんな過去仮定をしてる暇があるなら、一歩でも前に進むんだろ、どうせ。
目標に全力で目指してるから、いつもお前にこれ以上なんて無いんだろ?
「俺が後悔したのは、人生で一度きりだ」
「………へえ」
お前でも?
お前もその言葉の意味知ってたんだ?
お前の中には、後悔だなんて概念なんか無いって思ってたけどな。
だから意外な言葉に、俺は目が丸くなった。
それは、素直に驚いた。
ヅラは後悔しない生き物だって思ってたから。
俺なんか日々後悔してんのに。昨日、何でアソコで飲むのやめとかなかったんだ、とか毎日何かしら悔やむことはあるけどね。俺は後悔して後見てから前見るから。
後悔なんて、何度でもする。
何であの時、俺の手を掴まなかったヅラの手を掴まなかったのだろうか……とか。
「あの時、お前の手を取っていたら、また違う世界だったかもしれない」
「………そっか」
俺達は、二人なら、世界すら変えられるって信じてた。
俺にヅラが在ることが、俺にとっての第一条件だった。
お前だって、俺に依存して、それで強さを手にしていた所だって多分にあった。
「お前が居ない世界を、呪ったこともある。何故あの時、お前の手を取らなかったのかと、何度も思い出す」
思い出した事もあった、じゃなかった。今過去形じゃなかった。
「それって、今でもって事?」
「ああ……今でも」
ヅラは、軽く笑った。でもその中に少しの自嘲すら含まれて居なかった。だから、本当に綺麗な笑顔は無垢とも言えるほどで……
だって……違うから。
俺達は、もう違うから。
俺だって、今でも考える。
あの時、俺の手を掴まなかったお前の手を捕まえて、かっ拐って、引っ張って連れてきて、無理矢理俺から離さないで、ずっと一緒にいることが出来てたら……。
そんな事を考える。その世界はどんな世界だったんだろうって、今でも考える。
「だが俺にはこれしか選べなかった」
「知ってるよ」
それがお前だよ。
そうやって、全部背負い込んで、死んでいった奴の分まで全部自分のものにして、そうやって何も棄てないで、どんだけ重くなっても自分の二本の足で背筋伸ばして立って、真っ直ぐに進んで行くのが、お前だよ。
知ってるって。
誰より、そんなお前を俺が知ってる。
そんなんだから、お前なんだよ。
どうせ俺の後悔なんか、どうしようもない現状を打破するきっかけにすらなんない。悔やんだってどうしようもない事、もう遅い事、二度と繰り返すこともない事……でも思い返して何度もその場面を頭ん中に再生させて、でも結局どうにもなんない。
もう、違うって……それなのに昔と同じお前がこんな近くに居て、それでもお前に触る事できないって……
やっぱ拷問かな。
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20111205
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