「お前とは、こうして再会する事はないと思っていた」
「俺だって、お前なんざ、どっかで野垂れ死んでんのかと思ってたって」
「ああ……俺もだ」
どっちが、って訊こうとしたけどやめた。どっちでも同じか。
どっちでも、俺もお前だけは生きてて欲しいって思ってたけど、あの時は自分がこうやって生きてるなんて思いもしなかった。ヅラが居ない世界でしぶとく生きてくつもりはあの時はあんまり考えてなかった。
だけど会っちゃったじゃねえか。
また、こうやって、同じ空気吸ってる。
この、江戸で、再開して……
お前がすごく、近い場所に居る。
俺のそばに居る。また、隣。触れる距離。
だから、そんな顔すんなよ。そんな表情俺に向けんなよ。
卑怯だろ?
卑怯だろうが、そんな目で見んのは。真っ直ぐ、俺を貫通させるような、その真っ直ぐの眼差しで、俺を見て、そんな顔すんなよ。
「俺も少しは丸くなったと思う」
「どこがだよ」
ガチガチじゃねえか。何にも変わらねえ。相変わらず、いつも通り。正しいって思った事以外、よそ見なんかできねえじゃねえか。
「ずっと、お前に裏切られたと思っていた」
俺だってこれが正しいって思った選択肢だった。結果、そう思われたって仕方ないけどさ。
お前もお前が正しいって思った方向にしか進めなかった。
だから、今俺とヅラに分離してる。
「お前が許せなかった。俺達はお前に棄てられたような気がしていた。だから、銀時。お前を許せなかった。お前の手を離した事に後悔を覚えた自分も許せなかった」
「それで良いよ」
俺は逃げたわけじゃない。俺が正しいと思った前に進んだだけだ。俺も、間違えてないと思ってる。お前も正しい。俺達は何も間違ってない。
だけど、結果、お前達を置いて行った。
敵も味方も解らなくなるような戦況で、俺達の仲間もどんどん居なくなって、時代に流されて、最後は人間すら俺達の敵になって、俺は何を命をかけて守ってんのかわかんなくなって、自分すらも、ワケわかんなくなって。
そんなぐちゃぐちゃの状況でも、前がどこにあるのか把握できて、前しか見てなかったお前が居た。
俺は、そんな現状に疑問を持ち、少し客観視する事で手元と回りが見えた。敵が天人って相手だから、斬れた。人間なんか、斬りたく無かった。守るものって、俺にとって違ったから。
ヅラに、一緒に来いって言った。
お前の道と俺の道が違うなんて、そんな事は俺の常識じゃあり得なかったから、俺とヅラが違う正義が見えるなんて思いも拠らなかったから、だから、俺と一緒に来いって言った。
結果は知っての通り、お前は何も棄てなかった。
もしかしたら初めから解ってた結果だったんだ。
全部背負い込んで、お前は進む道を選んだ。
「お前と再会した」
この町で、お前と再会した。
「憎しみで、殺してしまうかと思っていたが……」
「怖いな」
もし、また会えたら……何度もそう考えた。
それで俺の頭の中ではヅラにずっと恨まれてた。お前に恨まれて憎まれて、殺されてもそれでも俺は俺でしかなかったから、お前の選択だったらそれでいいって思った。
でも、再会したら、ヅラはヅラのまま何も変わっちゃなかった。
「再会したら、お前は変わって居なかった。銀時、お前はお前のままだった」
何も変わったつもりなんかない。
それにお前が気付けなかっただけだって。
……ああ、そっか。
俺もだ。
「だから、それでいい」
そう言って、俺の横に座ったヅラが俺に向き直った。
それから、俺の手に触れた。
白い肌をした白い指先が、冷たそうに見えて意外と暖かいヅラの体温が、俺の手を握った。
両手で。
握った。
あの時、お前は俺の手を選ばなかったのに……お前は……今、俺の手を取った。
何だ、そっか。
俺だって、ここにあるんだから、ただ手を伸ばせば良かっただけじゃねえか。
目の前にあるのに、こうやって掴めばよかっただけじゃねえか。
「銀時、お前がお前であれば、それでいい」
手から、温もりが伝わる。
「銀時、もうお前を離すつもりはない」
俺は、何にも変わってねえよ。
何も棄てたつもりもねえし、何かを変えたつもりもねえ。
全部、あの頃と変わんねえ。
お前の背負ってるもん、代わることはできねえけど、ふらついた時に肩貸してやるくらい、お安い御用だって。
俺は、何も変わって無い。
俺にとってのお前の価値だって、揺らいだことねえ。
お前だって、結局何も変変わってない。
ようやく、気付いた。
まだ、遅くねえよな?
「それっていつまで?」
「死ぬまでだ」
じゃあさ、せめて長生きしてくれる?
お前、いつ死んだっておかしくない生き方選んでさ。
心配してんだよ。
俺が早死にしたら、その原因は絶対お前が寿命縮めたからだって。
だから、せめて長生きしてくれよ。
「二度と、離すんじゃねえぞ」
了
20111208
7700
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