誘惑 03








 拷問かどうかって聞かれたら、間違いなく天国じゃない。拷問……に、近いものがあるような気がする。

 あの、桂が俺の後ろで……自分で、シてる……って。手を出そうにも、俺の手は縛られてて……ってか、出すわけねえだろうがっ! 出そうと思っても男で、なおかつ桂だ。出るはずがない。男の自慰見て萎える事あっても、手を出したくなるだなんてあるはずがねえ! あってたまるか!


「……ぁっ……っん」

 後ろから、淫靡なくぐもった声が聞こえるとか……、落ち着け、頼むから落ち着いてくれ俺の股間! 何があって俺のはこうなってるんだ!



「あぁッ……ぅ、ンっ」

 しかもここに居んの俺だって解っててかよ。ちょっとぐらい我慢しやがれ。一応他人とは言え、しかも敵同士とは言え、顔見知り程度の仲ではあるはずだ。その俺に見られても平気だってことかよ!? 俺が居んだぞ! ここに俺がいんだから、恥ずかしがって我慢するとか何とかしてくれ頼むから。だって、俺だぞ! てめえの敵の真選組の土方だぞ! 知ってるよな? 俺に自分の自慰行為見られてもいいってのかよ!

 いや、でも別に声は聞こえちまうけど、耳ふさぐための手縛られてて使えねえし、俺、見てねえよ。
 見てねえからな。俺は潔白だからな! いや、そもそもてめえが俺の前で……


 って、何の言い訳だよ、俺は。

 桂がこうなっちまったもんは仕方ねえ。とりあえず落ち着いたら俺の手の拘束を何とかしてもらわねえと。
 俺は俺で脱出の手段を考えよう。



 桂に背を向け意識を桂から放そうとした。





「ふッ……あぁ、ん……んん」




 エロい、声。


 ちょっと……いや、かなり……クル。



 いや、桂だからこれ! 解ってるから。
 だから、静まってくれ、俺の下半身! 反応してんじゃねえよ。
 見えてねえけど聞こえてくんだよ。だから、手が動かないから耳も塞げねえんだよ。
 男のくせに、んな艶っぽい声出してる方がマズくねえか? 俺のせいじゃねえけど、でも、集中できないのは俺にも原因があると思う。

 どうにかして桂から意識を逸らさなけりゃ……。


 真選組の局中法度を口の中で復唱して心を鎮静させ、桂から意識を遠ざける。






「っ……あ……ぁ」



 っ……あ……ぁっ、じゃねえ!!!
 桂の、切なげな声と、くちゃくちゃと濡れた音。が、俺の集中力を大幅に低下させる。助けてくれ。

 俺の後ろで桂が……あの、桂が……。あの、桂が俺の背後でそんな事や、あんな事をしてる。
 見てねえ。見てねえけど、目を閉じてんのに何で瞼の裏に見えてくんだか解んねえが、仰向けに転がって足の付け根に生えてる立ち上がったものを自分で触って乱れてる。とか、想像するつもりもないのに、頭から振り払いたいのに……。





 見たいって、思った。
 いや見たくない。

 けど、少しぐらいなら……だが、男として、振り返るわけにはいかねえだろ。桂だって自分のを見られたいはずがない。俺は桂のプライドを守ってやってんだ。俺も俺の男としての尊厳を遵守したい。




 だから、振り返るわけには……いかねえってのに……。



 男のもん見て、萎えりゃいいんだが……勃起した桂の見て俺は……



 左手で胸をいじりながら、少し、膝を立てて、右手で自分の握って動かしてた。

 着ていたものは、ここに投げ込まれた時よりももっと乱れていて、桂の白い肌が暗がりに浮きあがる。

 口からは絶え間なく漏れ出す喘ぎ声。

 暗目にも、唇が唾液で濡れて艶めいていた……。


 男だって……のが、何だって思った。


 俺は、桂の痴態を目の当たりにして、動くこともできずに、生唾を飲み込んだ。
 桂が見てなけりゃ、拘束されてなけりゃ、俺は手を自然と下肢に持ってってたんだろう。股間に熱が集中して、服の中ではち切れそうになってる。





「……っ」



 やべえ。




 桂が、俺を、見た。

 目が、合った……。



「土、方……」


 濡れた瞳。



 俺が、後ろ向いてなかったのを、見られた。



「土方……の」



「あ?」


 何だ……?



「悪いが、お前の、貸してくれ」


「………は?」


 桂は、ゆっくりと起きあがり、俺に近づいてきた。


 俺のって、俺のなに?





 ゆっくりと、近付いてきて……桂の手が、俺の下肢に伸びる……ちょ。








 待て待て待て!!



 こいつ、何するつもりだっっ!



 まさか、とは、思うけど……いや、思い過ごしだと思うけどやっぱ桂の手は、俺の元気になった部分めがけて伸びてきた。
 そして、無断で俺のベルトを外し始めた。
 いや、待て、頼むから待て! そして待て! マジで頼むから待て!

 てめえだって自分の自慰行為なんて見られたく無かっただろうが、それ見てたことに対しては謝るけど、俺だって桂の自慰見て、興奮してでかくしてんのばれたくねえんだよ!



「おい、桂っ!」


 桂は、俺のを取り出す。取り出して、問答無用で扱き始めた。

 ってっ!!!!
 今、俺の身に何が起こってんだ!?


 桂が、俺の、触ってる? あの、桂が、俺のを触ってるって……何だ?




「もう、こんな大きくなってる」


 触ってるどころか、桂の端正な美貌があからさまに欲情してますって、そんな潤ませた目で微笑まれながら、俺のを頬ずりしてる? 桂の顔に、俺のが……って、何の夢見てんだ? 夢にしたっていい夢見てんだか悪夢なのかすら判別つかねえ淫夢見て興奮してんじゃねえよ俺!

 触られてる感覚よりも、今は桂がって部分の比重の方がはるかに重い。これ、本当、どうやって回避できてイベントだったんだ?




「っっおい! 待てよ! 桂」
「黙れ」

「黙れるか!」

 何する気だっ! こっちにも尊厳ってもんがあるんだからな! 男のプライドだってそれなりに持ち合わせてんだ。



「お前は動かずにただ寝ていればいい。俺が勝手にやるから」


 いや、そう言われたって、抵抗したくとも、手を縛られてんだ、動かすことも出来ねえんだって!

 俺から先に手を出してたりとか……そんな事態にはならなかっただろうな……?



「だから、かつ……んっ」


 突然、桂が、俺のを口にくわえた。

 ぬるついた暖かさに包まれて……俺の下半身に急激に血が集まっていくのが解った。


「なっ……何すんだっ!」
「うるはい」

 口に俺の咥えたまま喋んじゃねえっっ! 頼むから俺の口に入れたまま舌とか動かすんじゃねえ。


「土方、気持ち良くないのか?」


 気持ちいいから問題なんだろうが!
 しかも桂は顔を上げて、俺を見て、少し首を傾いだ……いや、可愛いとか、思うはずねえから! 桂だから! 知ってるから! だからそんな上目使いされたって……。


「てめえなんかにヤられて気持良いワケねえだろうが!」
「ここは、そう言ってないようだが……そんなに俺が嫌か?」



 嫌……ってか、我慢汁出してまで我慢しなけりゃいけない状況を、頼むからどうにかしてくれ!

 良かった。本当に、手が縛られてて良かった。手が動いたら、きっと桂の頭掴んで、喉の奥まで咥えさせる所だった……と……いや、思ってねえ。もし思って、手が動いたって俺がそんなことするはずねえ!



「土方、これならどうだ? 気持ちいい?」



 俺の先端にちゅと音を立ててキスを落とす。
 ぺろりと裏筋をなぞられて、背筋に熱いものが駆け上がった。

 気持ちよくねえかって……だから気持ち良いのが問題なんだって!!


 桂の口の中で唾液が絡まって、舌が絡み付いてきて、くちゃくちゃと卑猥な音を立てて、長い髪が顔にかかって……その顔が……桂だって、知ってんのに、何度も見た事あるのに……熱くなる。俺の食べてる表情がもっと見たくなる。

 顔が見たいのに……髪、邪魔。手が使えてたら、こいつの表情見るために、髪の毛退かしてたんだろうけど……手が縛られてて良かったって、何でだよ。もう、本当勘弁してくれ。



「んっ、ん……ふぅ、ん」

 俺のを喉の奥の方まで迎え入れると、苦しそうな呻き声を上げたが……その声すらいやらしく聞こえた。
 桂は俺のを握って上下に動かしながら、俺の股間に顔を埋めて口での愛撫を続ける……これ、本当にあの桂か。桂だって間違いないのは解ってるが……それだって、今俺の身に起きてる事実が信じらんねえ。

 桂が……あの、桂が……





「ちょっ! 桂、やばい。マジでやばい、かつっ!?」


 あまりの気持ち良さに、熱が集中してきた。
 意識が上ってって、遙か上空の方で凝縮される。

 まずい。

 このままじゃ、桂の口ん中に……。




「桂っ……!」



 イきそうになった





 瞬間……ようやく、解放された。



 もう少しでイくとこだった……。男の、しかも敵である桂の口の中でイくところだった……けど、俺、このままか?

 俺のは、もう本当にわずかな刺激だけで爆発すんだろうって可哀想なぐらいに腫れ上がってる。このままかよ、俺。

 桂の口でイくのも情けない話だが、そろそろイけそうな状態ほっとかれたって、かなり辛いんですけどイかせてくれとか、桂に頼めるはずもねえし、手はこの通り融通が利かない。





「桂! てめ……」

 お願いだから、せめて手を外してくれ。さすがにこのままじゃ、俺が辛い。
 って、どうやって頼んだらいいんだよ。

 もう桂にイかされそうになるだなんて……情けねえ。


 大きく溜息を吐こうとしたら、目の前に、桂の顔があった。少し首を横に傾けて、俺を覗き込むようにして……。






 潤んで充血した瞳。睫はやたらと長かった。

 赤く濡れた唇は薄く開き、そっから湿った吐息が漏れてるんだろう。



 その、桂が伸び上がってきて、桂は俺の顔をのぞき込むようにして微笑んだ。


 時間、止まったんだろうか……この顔から、俺は目が離せない。


 綺麗な顔、だって、思った。そんなことは初めから知ってた。だから何だ。桂は桂だ、敵だ。それでも、綺麗な顔だって思った。

 やけに、妖艶な顔つきだった。妖艶だなんて言葉を意味くらいは知ってたが、その言葉を実感すんのは初めてだった。






 俺は、桂を知っていたと思ってたが、敵としか認識してなかったからか、その一面しか知らなかったからか……こんな桂は知らねえ……こんな奴だったのか?




 桂は軽く俺の肩を押す。起こしていた上体は肩を押されて、俺はそのまま床に仰向けに倒れた。




「おい、何する気だ」

 桂は、俺の上に馬乗りになる。魅入られそうな微笑みを浮かべながら、俺の上に馬乗りになった。
 
 俺の頬にそっと触れた。白く細く、作り物みたいな指先は、それでも暖かかった。





「土方……借りるぞ」

「な、に……?」


「俺は、前だけじゃ……イけない…から……土方」


 桂が俺を興奮させたせいで、今にも弾けそうな俺のを、片手で押さえながら、ゆっくりと桂は自分の中に俺のを埋めていく。

 桂の白い首筋が仰け反って、思わず食いつきたくなる。



「ぁ、ああ、ぁあぁ……ッン…ぅ」


 桂の中に俺のが食われていく……火傷しそうなぐらい熱くて、キツくて食い千切られそうなのに、柔らかい桂の肉の中に埋まっていく……。


「あっ、あっ、ぁぁあ……っ」




 灼熱に包まれる……っ!


「……くっ」


 意識と下半身が破裂するような、激しい快感を伴い、俺は桂の中に吐き出した。








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