デート 05











 ……ヅラ子さん、とな?






 急に入った邪魔に、俺達はそっちに視線を送った。
 いや、完全に二人だけの世界に浸り込んでたから、マジで驚いた。いきなり引き戻された現実に、せっかくのイイトコ邪魔されて、俺のテンションは急降下して氷点下なんですが、どうしてくれんの?

 って、今の見られてたの、まずは恥ずかしいよね? そもそもヅラ相手に、何やっちゃってんの、俺は。サカってた自覚はあるけど、ここがどこだかすらも失念してた……。



 にしても、誰だ?


 って、睨み付けようとして……お巡りさんだったことに気付く。
 そんでもって、まさかの顔見知りだった事に気付く………瞳孔開いた真選組のマヨラー。


 何で、よりによってこんな時にこんな場所でこんな奴とっ!


 ちょっと、まずいんじゃねえ?
 だってこの人達が追っかけてる桂小太郎さん、ここに居ますが……って、今ヅラの名前呼んだっけ? え? 何?




「ああ、偶然だな、土方」

 ヅラが、爽やかな笑顔で笑いかけてやがった……。

 ……偶然?

 偶然?


 え?


 何? 知り合い?

 いや、月1ペースで江戸の町破壊しながら派手に鬼ごっこしてんだ。知り合いっちゃ知り合いで、顔見知っちゃ顔見知りだろうが……。

 えと、逃げなくて良いの? 距離感まずおかしくねえ? 近付いてきてますが、警察の人。で、何でヅラが逃げないの?



「ヅラ子さん、まさかその男が……っ!」

「ああ、そうだ。この男が俺と幼馴染みで、かつての恋人で、最近バイト先で再会し、惹かれ合い、お付き合いして半年、将来を誓い合い、毎晩チョメチョメをするほどにラブラブな男だ。紹介しよう。坂田銀時君だ」



 ……えと、そんな設定だとか言ってましたっけ? マジで、その設定使うわけ?


「どもー。今紹介に与りました坂田銀時ですー」


 って、何乗せられてんの、俺はっ!

 いや、紹介とかしてんじゃねえよ!
 てめえの敵だろうが。俺もコイツは敵だと認識してっけど!

 悠長に何してんのアンタ?




「で、こっちが、カマっ娘倶楽部で常連の土方」





「…………………」
「…………………」





 ………事態が、飲み込めて無いの、俺だけ?


「ヅラ子さんっ! 何でコイツなんだ! 他の奴ならともかく、よりによってこの男は駄目だ。有り得ねえ!」

「駄目って……てめっ! 何でてめえの許可が必要なんだよっ!」

 何、コイツ。何言ってんの、この男。マジでワケわかんねえけど、激しくムカつく。てよりも、今どんな状況なワケ?

「ヅラ子さん、アンタは幸せになんなきゃ駄目なんだ。他のどんな男でも、アンタが幸せになんなら俺は諦めようと思ったが、コイツだけは駄目だ! アンタが不幸になるのを指をくわえて見てるなんか出来ねえよ」

 現状を把握は出来てねえが、ものすごくムカつく事くらいは解った。

 存在自体がムカつくのは仕方ねえとしても、今俺に対してすげえムカつく事言ってるよな、この男。何言ってんの?

「てめっ! 何で俺がヅラを幸せに出来ねえとか決め込んでんだよ」

 逆だろ? 俺以外の誰がヅラを幸せに出来るかってんだ!

「ったりめえだろうが! てめえごときがヅラ子さんと釣り合うとでも思ってんのかよ。ヅラ子さんが月ならてめえはスッポン以下のミジンコ程度だろ?」
「ミジンコだと? てめえなんざ煙草吸いすぎて存在自体がニコチンだろうが」
「喫煙者舐めんじゃねえ! 糖分取りすぎて糖尿病の奴にヅラ子さんを任せられるわきゃねえだろ」
「少なくとも肺ガン直前の奴よりはまともじゃねえの? 加えてマヨネーズ摂取過多で痛風予備軍だろ?」
「ざけんな。そもそもヅラ子さんとてめえじゃどう見ても釣り合わねえって自覚しろ」
「釣り合わねえって言うけど、自分はどうなんだよ。てめえよかヅラと相性良いぜ。心も身体も」
「てめえなんかにヅラ子さんを幸せにする資格も触る資格もねえよ」
「触る資格って、残念でしたー。俺とヅラは暇さえありゃハメてるような仲なんですぅ。残念ながら誰も入り込む余地なんかねえな」
「まさか……貴様もヅラ子さんと……」


「銀時っ!」



 ヅラが……土方突き飛ばして、俺に抱きついてきた!

 俺も勢いに押されて、二、三歩よろけた。


「ヅラ、何だよ!」

 今はコイツに身の程解らしてやってる最中なんだから邪魔すんなっ!

 って、言おうてしたら、公衆の面前、衆人環視のもとで、俺にキスしやがった。ちょっと、何すんだ。人様が見てるでしょうが!


「嬉しいぞ、銀時! まさかそこまでお前が俺の事を想ってくれているとは!」
「いや、だから!」

 今はそうじゃないって! 今は、どっちがヅラに相応しいかって場合だろうが。

「銀時! 俺もお前を何より誰よりも愛しているぞ!」
「いや、だから……」
「銀時! もう俺は二度とお前から離れない!」


 だから、今お前の取り合いで忙しいんだって……事は、これでいいのか?



「ヅラ子さん……」

 声に涙が混じってるような、湿度九十%位の淀んだ声が俺達の横から聞こえた……。

「ああ、土方。悪いな。俺には幼馴染みで昔の恋人で最近バイト先で再会してお付き合いして半年の将来を誓い合った恋人が居るから、申し訳ないが、指環などは受け取れない」

 指輪……って。まさか結婚前提で付き合うつもりだったのか、この男……。


「ヅラ子さん……」
「本当に申し訳ないが……俺は俺の心を偽れない。確かに銀時は三度の飯よりも糖分が好きで糖尿予備軍で腹の脂肪も摘めるくらいだが……」

 おい、何暴露してんだよ。


「ヅラ子さん……アンタの気持ちはわかった。今は、諦めるけど、俺はこんな死んだ魚みたいな目をした奴にアンタを任せられる度量はねえからな」
「それは土方が銀時を知らないからだ」

 まあ、知られたくもねえけど。というか、まず惚れた相手も誰だか把握できねえような奴に、俺の事理解されたくありませんから。


「……また、店に行ってもいいか?」

「済まないが……」

「また、行くよ」

「土方……」

「またな」




 土方はタバコを取り出して、火をつけてから、後ろを向いた。

 歩いて行く男の背中は泣いてた……。

 ヅラは、土方の背中が雑踏に消えて見えなくなるまで、見つめていた……背中が泣いているようだった。

 けど、マジで泣いてんじゃねえの、アイツ。












「さて、銀時……」












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