デート 04











 んで…………結局、やっちゃいました……。







 俺のなけなしのプライドは何処に行ったんでしょうか。




 最初の三十分くらいは、まあ、楽しくお話ししてたんだけどさ。ヅラと話すの意外と嫌いじゃないし。時々地球の重力が十倍になったような試練を与えてくれるような発言してくれるけど、基本的にこいつと話してるの面白いし。ゆっくり喋るだなんて最近なかったし。

 最近何やったとか、あれ食ったとか、そう言えばって昔もって、昔の話題になって。喧嘩したことやら、何やら……思出話と一緒にあの頃の感情思い出して……。


 全部がお前だけしかなかった頃の自分、思い出して……。




 ふと、会話が途切れた時に、目が合った。

 ヅラの視線に何故か引力が発生した気がした。俺の頑強な意志はどこに行ってしまったのでしょうか。

 ゆっくり、近付いて、そうするとヅラの目蓋が静かに伏せられた。そんなヅラの表情が綺麗だなんて思いながら見てた気がする。




 唇が、自然に重なって……。






 で、やっちまいました……猛省。

 キスしたら止まんなくなった。

 …………………はい。いや、やっぱ、ね。ヅラとすんの気持ち良いです。もし惚れてなくたって、結局気持ちよかったの忘れらんなかったくらいには、やっぱ気持ち良かったです。理性というブレーキの発生条件を誰か教えてくれ。あの時は一ミリたりとも止めようだなんて思わなかったけど、後悔はしてない。気持ちよかった。
 久しぶりに見たイク時のヅラの顔とか目に焼き付けといたんで、後で思い出して自分ですんのに使えそ。
 仕方ねえだろうが、惚れてんだし、健康なんだし。




 風呂入ってさっぱりして、んで、物足りないまま……時間になったから延長しないで、出てきたんだけど……ちょっと、気まずい。


 いや、かつては「恋人」とかやってたけど、今は「幼馴染み」だからね。幼馴染って別にやったりしないでしょうが。
 気まずい……て以上に、実はやり足んない。もの足んない。全然足んない。あと三時間ぐらい腰振ってたかったって。



 でも、結局、ヅラが時間来たら出ようって言うし。用があるんだと。俺以上に何が用だってんだ。まあヅラの事だから攘夷のナントカがナントカなんでしょうが。どうせそれしか見えてない奴だから。
 でも、少しは俺見てくれたっていいと思うけどな。今ぐらいは、全部を俺にしてくれたって良くねえ? 用事なんて忘れちまえよ。そっちは無かった事にしましょう。んで、俺ともう一回一つになりませんか? って思ってるわけですが。
 気まずいまま……自然と、手、繋いで歩いてた。外の風は火照った身体には少し気持ちよかったけど、冷ますのが勿体無い気もした。

 ヅラは、何となく、下向いてるし。

 何か、言おうと、思って……その代わりに強く握った手が、同じ力で握り返された。

 手が、熱い。

 お前も、あの頃の気持ち、思い出しちゃったりしてる?

 俺はお前だけしか見えてなかったし、お前も全部が俺の方に向いてて、二人でいれば他に何も必要としてないぐらいに……あの頃の気持ち、思い出した?

 俺は、変わんねえよ。俺は何も変わっちゃねえよ。
 真っ直ぐ前見て歩けてる。
 お前を真っ直ぐ見つめてる。




 言葉になんない気持ちが溢れて、ただ二人で並んで歩いた。





「前に来た、って言ってたけど、誰と来たの?」

 なんか、すんなり言葉が出た。
 誰と、来たの? お前は、俺じゃなくて良いの? 嫉妬してますが、何か?


「お前には関係の無いことだ」

「本当に?」


 なんかさ、気付いちゃったんですけど……。




 俺と関係ないって。
 お前だって、まだ俺の事、過去の事、綺麗さっぱり忘れたわけじゃねえだろ?
 無かった事にしてるわけでもねえし、思い出として、過去にあった出来事の一つとして、昇華できてるわけでもねえだろ?

 気持ちの、強さなんかわかんねえけど……でも、あの頃の気持ち、思い出しただけかもしんねえけど。
 それだってさ。


 俺の事見る目の中に含まれる熱とか、キスした後の惚けた表情とか、やってる最中に俺の名前ばっか呼ぶし、しがみついた背中に回された腕の強さとか……。

 昔と、同じ、だったしさ。

 俺の勘違いですかね。
 そうじゃないって、俺がそう思いたいだけかもしんねえけど。まだお前だって俺の事忘れてねえって思いたいだけかもしんねえけど。

 あんなにさ、世界中で必要なのお前だけってくらいお前だけ見てて、お前だってそうだっただろ? 息をするのだって、心臓動かすのだってお前が必要だった気持ちの温度、同じだったって俺の独りよがりじゃないと思うんだけど。


 お前だって……まだ、俺の事……。






「銀時とは関係ないが……また共に戦ってくれるつもりなのか?」

「は?」

「お前が、再び攘夷の為に剣を持つと思っていいのか?」

 それは嫌なんですけど……え? どうゆう事?


「あの部屋は時々借りるが、密室だし、ここのオーナーが俺の党に出資してくれてるので、密談をする場合に時々借りている。だから、お前がまた共に攘夷を目指すのであれば、相手の話もできるが、さすがに志士でもないお前に相手を吹聴する事などできん」


「………………」



 えと………


 え? 俺の思い違い? ただの勘違い?
 俺、嫉妬モード全開だったの、ただの空回り?



「だから、お前が不安に思うような事は、何もない」

「あ、そ」

 さいですか。

 ……しっかりバレてるし、俺の気持ちなんて。ずっと、再会してから俺がどういう目でヅラの事見てたかバレてたらしい。
 なんだ。そう、知ってたの。お見通しですか、俺の事なんか。

 何でこうゆう事だけ鋭いのかねえ、ヅラ君は。
 ヅラのクセに。
 なんか、ムカつく。
 結局どうせお前が一番俺の事わかってて、喋らなくても俺の気持ちなんて見透かされてるって事ですか。
 昔から、俺が何考えてんのか、鈍いくせに一番良く解ってたし。イライラしてても表面に出さないようにしてても、相談した覚えもないのにどんなテレパシー使ったんだか、勝手に解決策喋ってるし。
 一番、俺の事理解してくれてて、一番俺を知ってて、一番俺を見ててくれてる。

「なあ……あんさ、ヅラ……」


 やっぱもう少し、いちゃつきませんか?

 ラブホのハシゴってどうなの? とか思うけど、まだ足りないんで。お前が。もうちょっと補充ってゆうか充電って言うか。

 今、さ、めっちゃお前の事、抱き締めたい気分なんだけど。

 もっかい抱いて、キスして、裸になって身体中全部くっつきたい気分なんだけど………。




 立ち止まって、ヅラの肩に手を置く。


 ヅラが立ち止まって、俺の顔見た。


 今日のこのデートってさ、もしかして俺の気持ち確かめる為だったりとか? 用があるって、何の用だよ。

 俺だって、そう易々と本音なんざ口にできねえ方だし……お前の真意なんざ言わなけりゃさっぱりわかんねえし。

 直情的なくせに、隠すって決めたら、誰よりも上手く嘘がつける奴だ。わかんねえって。


 もしかして、さ。





 俺達、戻れんのかな。昔みたいに。




 そりゃ、お前が目指したい世界と、俺が守りたい日常は別のもんで、向いてる前はおんなじ方向だって、進んでる道違ってるし。
 昔と全く同じにはなんねえと思うけど……それだってさ。

 一番、お前の近い場所に、俺が居んならって……。
 そうなら、良いのに。


 俺達は、見つめ合った。気持ちが、重なってる気がした。

 あの頃の気持ちと同じように、世界に俺達以外に見えなくなった。

 回りの雑踏すら耳に入ってこねえ。周囲の視線とか、なんも気になんなくなる。

 ただ、見つめ合ってさ、それだけで世界が満たされる感じ……。

 それだけじゃ足りなくなって、抱き締めたくなる感じ。

 それでも足りなくなって……




 俺達は、見つめ合って…………徐々に、距離が近くなるの、感じてた。


 そりゃさ、往来で、男同士でキスしてんの、見られたら困るけど、ここはまだそんなに人気少ないし、このへんならそういうカップルたくさん見かけるし、ヅラは今女の格好してるし……別に構わねえか……。



 そんな事、考えたのは頭のほんの片隅で、ほとんどヅラしか見ちゃいなかったけど。



 ヅラが、目を閉じて、薄く唇を開いた。



 俺も目を閉じて……近づけて………



















「ヅラ子さんっ!」








 邪魔が入った。









20110125