ヅラは、勝手知ったる如く、備え付けの茶を淹れて飲んでる。テーブルの上に置かれた湯飲みが二つあるから、一個は俺のなんだろうが……。喉が乾いているわけでもないし、備え付けの茶は白湯よりはましって程度で大して美味くないことぐらい知ってるけど、何を言ったらいいかわからねえし、言うべき言葉も見つかんないし、当然今更ヅラと俺がさあやりましょうってな雰囲気になるはずもないから、取り敢えず黄色い茶に手を伸ばした。
ヅラは、俺の隣に当たり前のごとく腰を下ろした。まあ、ソファー、別に向かい合わせであるわけじゃなくて、一つだけだし。そりゃ座るんならここだろうけど。
「やはり、不味いな」
蕎麦ばっか食ってるくせに、やたらと味覚が敏感なヅラは、当然のごとくに不味い茶に文句を付けてたけど……やはり、って、やっぱりさっき言ってたの、本当? ここには何回か来た事あるって本当? お前さ、ここが何する場所だか知ってんの?
ナニする場所なんだけど、知ってる?
そんな所に俺と来ちゃったって、そうゆう覚悟あんの? まさか最初っからそのつもり?
「ヅラ君、なんかここに詳しいじゃない?」
「ああ。前もこの部屋だったしな」
だから、誰とだよ!
誰とここ来てそうゆう事シタわけ?
俺の気持ち知ってんの? まだお前の事忘れらんねえ俺の気持ち知ってんの? それでその態度? 俺が今何考えて、どう思って、それでその態度?
………どうせ、コイツの事だから一ミリたりとも気付いてねえ方に一票。きっと、そうなんだろう。他人からの感情にいちいち動じるような奴じゃねえことぐらい、俺が一番よくわかってる。気付きもしないのだっていつもの事だ。どうせ。
ソファーに座るヅラの横に座る。うちよりも狭い部屋だし、うちのソファーより小さいし、うちのと違って柔らかいソファーだから、身体が沈み込んで密着しちまうのは仕方ねえ。ってフリをしとく。
抱き寄せて、抱きしめたいって、衝動は、堪えられた。
だって……ここで、誰かがコイツに触った。
布団が一つ、枕が二つ。
ねえ、あそこの布団で?
俺は生唾飲み込むのに、喉を鳴らすの誤魔化すために茶を飲むから、さっきから茶ばっかり飲んでる。入れてもらったばっかなのに、もうほとんど残りがない。喉が乾いてるわけじゃないのに、やたらと空気が乾燥している気がした。
ヅラが……エロい身体してんの知ってる奴、俺以外に誰がいんの?
ムシャクシャしてんのと。
布団があって……あの上で……。
昔、思い出す……。
俺の上でよがり狂うヅラの顔とか、イった後の気怠るげな表情とか……お前は、覚えてる? お前の好きな場所とか、気持ち良い時の声の出し方とか、忘れて無いの、俺だけ? 俺の事どんくらい覚えてるわけ?
昔みたいにって、結局昔みたいにお前に出来る事なんて、何一つねえんだ。ただ、指くわえてる事ぐらいしか出来ねえとか、情けないにも程があるけど、もう、そう言う関係じゃないってことぐらい解ってる。お前はお前の選んだ通りに進んでるし、俺も俺が選んだ現在に不満もない。
昔みたいにって、結局俺も何も変わったつもりもないけど、お前とは重なってないことぐらい、理解してるつもりなんだけどな。それでも、とか、本当に自分が情けないぐらい未練がましい。
変わったのって、結局、俺達の環境と、立ち位置と、あと何だろう。
だって、昔からお前の髪の毛が何にも染まらないような真っ黒で真っ直ぐで長くて……こうやって、今は何のシャンプー使ってんだか、いい匂いがする。昔から変わってない。
触れば、さらりと手触りがいいことだって、昔から………
「銀時?」
「………あ、いや」
触って、た。のは、出来心って言うか、気が付いたら手が勝手にっていうか、いや、目の前にあったら触るだろ、お前の髪!
「……枝毛発見した」
「マジでか。抜いといてくれ」
てめえの髪に枝毛なんて見たことねえよ。嘘って言う方便ぐらい真に受けんじゃねえよ。
何やってんだよ、俺。
「二時間、となると。さて何をするか。今日はUNOは持ってないぞ。テレビでもつけるか?」
「いやいやいや、この時間ろくな番組やってねえって。つけるな!」
こういう場所なんだから、ろくなチャンネルに回さない限り、お姉さん達が盛大に気持ち良くなってるような映像しか映んねえだろ! てめえ目の前に俺を興奮させてどうする気だよ! シたくなっちゃうでしょうが!
「シたいのか、銀時?」
「なっ……」
何でお前はそういつも直球なんですかっ!
ていうか、何でバレた? 俺、別にそう言う態度してねえよな? 昔は激しいスキンシップで、べったり触ったり抱きついたりで今発情してますって言わなくても伝えてたけど、今別にうっかりちょっと髪の毛触ったくらいだろ? 何でバレた?
「大きくなってるぞ」
「………デリカシー無い奴はモテねえぞ」
……バレてた。
男の子って不便。
そりゃね、してえよ。身体中でくっついて、体温感じて、頬くっつけて、指絡めて、お前にぶち込んで、突きまくって、中でイきてえよ。
出来るもんなら、お前に触りたいですよ。
「銀時? したいのならば、構わないが……どうせ2時間コースだから時間はある。のんびりはできんが」
「………」
てめえは、どうせ「かまわない」程度なんだろうが……俺はヤりたくて仕方ないって、ご存知ですか?
昔に戻れるとも戻ろうとも思わねえけど、俺のお前に対しての気持ちって、昔っから変わってないからね。
俺以外の奴に簡単に触らせる事に、無茶苦茶嫉妬してんの知ってる? 昔は俺だけだったのに、今はその辺違うんだ? なんも変わってねえつもりだけど、それは俺だけで、お前はお前なんだって……。
ハラワタ煮え返りそうなんだけど……ヅラが俺のものじゃねえって、ちゃんと理解してるつもりだけど、その辺頭で考える事で、俺の内臓は理解してないから、ハラワタが沸騰しそうだ。
けど。
「やんねえよ」
お前が俺に惚れてなきゃヤんねえよ。俺に対して別にかまわねえってんなら、シたくありません。
据え膳食わねば恥なのかも知れねえけど、俺にだって、プライドとかあんでさ。高楊枝の方で。
「そうか……残念だ」
ヅラが、少し顔を伏せた……残念なの? って事はもしかして、お前もしたかったわけ?
とか………。
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20110118
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