デート 02











「では、お前と俺は幼馴染で、最近かぶき町で再会して、お付き合いしてそろそろ半年。誰もが羨むぐらいのおしどり夫婦で、将来を近いあった仲。という設定で宜しく頼む」


 何、その設定って………デートに設定とかあんの? いや、依頼って時点でやっぱり絶対何かあるのは解ってるが……その設定は一体何に使えるんだ? とか、散々頭ひねってみたけど、さっぱり検討もつかねえ。何、企んでやがる?

 でもまあ、お巡りさんに追いかけられないような事なら、別に……依頼だし。一応、お金頂きましたし。こう見えても万屋の銀ちゃんは、その筋じゃそこそこ名前の知れてる有能な万屋さんなんで、お巡りさんに追いかけられるわけじゃなさそうだし、依頼はちゃんとこなしますよ? 





 で、歩く時は肩を抱くか手を繋ぐか腕を組むか。三択……って、注文が発生した。

 昔のようにとか言ったけどさ、昔だって外歩いてる時に手なんて繋いだ事なかったよな?


 凄まじく照れるんですが、これ。手を繋ぐとか、何でできんの? その辺の仲睦まじいカップル達って、すごくない? 手を繋ぎたいか繋ぎたくないかで言ったらめっちゃ繋ぎたい。手を繋いで歩くなんてとても憧れてしまいますが……ヅラ相手に俺がそれやるのか? 無理じゃねえ? 心臓的に。


「やっぱ、手、繋ぐのやめない?」
「なら、腕を組んでた方がいいか?」
「お断りしていいですか?」
「断る。依頼料は払ったはずだが」
「少ねえよ! 危険手当が付いてねえよ」

 どこで誰に見られるかわかんねえだろうが! 俺だってここの生活長くて知り合いだって多いのよ! しかも、さっきから、人通りの多い場所ばっかり……いくら変装してたってそれはマズいんじゃねえの?
 だって、一応こんなんでも一級指名手配犯だよな、お前。わかってんの? そこんとこちゃんと理解してる? お願いだから自覚して!

 真選組の巡回とすれ違う時に、何で俺がこんなに冷や汗かかなきゃなんねえの? 今のところすれ違った真選組の方たちは知ってる顔じゃないから、まだなんか安心したりするけど、一応この町に来て長いので、顔見知りのお巡りさんとかも居るんですって!
 それに、ヅラは自分の外見に自覚はあるけど意識してないとか忘れてるとかのタチの悪い健忘症だから、道行く通行人がヅラの美女っぷりに二度見したりすんの、鼻が高いよりも、これが桂小太郎だって気付かれたんじゃねえかって思って心臓に悪い。


 まあ、そりゃ、デートコース自体は、楽しいけどさ。外歩くとかじゃなくて、別に何でもよくて、お前と一緒に居んの昔から好きだけど。頭いいんだけどズレてる奴との会話まともにできんの俺ぐらいだと思うし。

 一応、目立ちまくって二度見されまくって、そのたびに俺の俺の心臓に負担はかかってるけど、女に変装してるからヅラがあの「桂小太郎」だって気付く奴なんかやっぱ居ねえし、一応普通に仲の良さげのカップルってくらいにしか思われないだろうし。

 ヅラがもし女で、普通に出会って普通にお付き合いしてたら、こんな事してたかなって、思ったり……して、まあ、普通に楽しかったり……。

 まあ、相手がヅラだってのはわかってるけど、隣に美人連れてんのは男としてやっぱ鼻が高かったりする。いや、でも、これはヅラだ。気をしっかり持て、俺。






「銀時は何が出たんだ?」

 今日は近くの神社の縁日だったから、境内は賑わってた。出店が並んでいたから、射的で勝って、輪投げで負けて、景品はどっちも要らなかったから、ヅラにあげたけど俺が荷物持ち。景品をあげたら何が嬉しいのか、頬を少し赤くして微笑まれて有難うと言われた。こんなんで良けりゃいくらでもって、言いそうになった俺に自分でブレーキをかける。
 俺がワタアメ食いつつ、ヅラがたこ焼き食ってたり。

 参拝して、一緒にオミクジ引いたら……吉と出た。

 良しも悪しも心次第だと。いいんだか悪いんだか。

「良しも悪しも心次第……吉か。俺は大吉だ! 万事上手く行く、だと。勝ったな」
「え? オミクジって勝敗関係あんの?」
「俺のが運がいい!」
「何、その勝負」



 樹にオミクジ結んで、神社を後にして。

 次は公園で散歩ですと。
 別に何するでもなく、手繋いでふらふらするだけだけど。昔みたいにって言ってたけど、昔はめまぐるし過ぎて、季節で色が変わる樹なんていちいち見てなかった。そんな余裕なかったし。

 だから、昔みたいにって言ったけど、すごく新鮮な気がした。

 ただ、公園をぶらぶらと歩いて、ちょっと風が冷たい。もうちょっと厚着してくりゃ良かったかな? ヅラが寒そうにしてたから、マフラーでも持ってりゃ貸せたのに、とか何残念に思ってんの、俺は!




 んで、その次は飯を食う。

 どっちも、人通りが多い場所で!


 人通りが多いって事は、お巡りさんの巡回も多いわけで、何度真選組の隊服に冷や汗かいたか……。俺は肝冷やしてんのに、ヅラは表情一つ変えねえし……。


 何、考えんてだ、こいつ。


 そりゃさ、デートって依頼だけど、つまりデートじゃなくて依頼なんだけど!
 ヅラと一緒に外ふらつく事もあるけど……あんまり人通りが無くて真選組の目が無い場所を気を使って歩くってのに。いつもはそうやってんのに、コイツ、何も考えてねえだろ! 黒い服来た人とヅラとの間を遮るように歩くの面倒なんだけど!



 んで、所謂普通のデートコースを堪能して、陽が暮れてきて、コース決められてその通りに歩いてるんだが……。


 ……なんか、イカガワシイ場所に向かってんのは気のせいでしょうか……。


 すれ違うのは、ベタベタしたカップルとか、いちゃついたカップルとか、世界に自分達しか居ないと信じてるカップルとか……。




 そりゃ、そうゆうホテル街だしこのへん……。



「おい……この辺って」
「デートの締めには、するもんだろう?」

「…………」



 って………別に決まってないけど。
 確かにそんなカップル多いけどさ。
 別にやんなくていいし。

 いや、やれるんならやりたいけど。そりゃね、まだアンタに惚れてるんで、やれるもんならやりたいですけどね!




 もう、何年もヅラとしてねえし。
 誰とやったって、結局お前とすんのが一番気持ち良かったし。




 一つに入って、ヅラが電光パネルで部屋選んでる。



 あれ?

 なんか、慣れてない?

 お前、こうゆうのに疎そうじゃん。凄まじく違和感なんですが。
 俺だって、健康な成人男子なんで仲良くなった女の子と来た時あるけど。俺だってシステム解ってるけど……なんでここ来てまでヅラにリードされてんの?


「ここは何度か使った事がある」
「………へえ」


 尋ねる前に解答ありがとう。

 誰と……とか、訊いていいんでしょうか。


 俺以外の誰とこんな場所にくるわけ? 俺以外の誰とこんな場所で身体触らせたの?


 なんか………凹むよりも、ムカついてきた。

 俺ばっかお前の事忘れらんねえで、いまだにお前に惚れてて、お前が好きでさ。お前はそんな俺に関係なしに男といちゃついてたわけですか……いや、女かもしんないけど。

 どっちにしろ相手が男だって女だって、俺以外って事には変わりねえし。




 ヅラが選んだ部屋は306。一番安い部屋だけど、そこそこ綺麗な部屋だった。こういう所でいろんな奴らがそう言うことしてる場所だってわかってるから、余計に白を基調とした内装が、いかがわしいような気がした。


 部屋に入って、鍵を締める。

 鍵の閉まる音が、生々しく響いた。














20110116