デート 01

 











 目の前に……。


「何コレ?」


 金の入った袋………と、女装したヅラ。

 ………何コレ? 何この状況? 

 しかも何こいつ、藍色の綺麗な女の服着込んで、薄く紅なんかさして………。何ソレ? 何その格好。
 ヅラの声聞くまで、初めて見たヅラの女装を見た新八なんか、目ぇ丸くして見てたぞ。



 いくら変装の名人だからって女装はやめなさいって、言ったよね? 本物にしか見えなくて洒落になんねえよ。黙ってりゃただの迫力美女にしか見えねえって。変装って結局お前の場合姿くらますためにしてんだろ? 目立ってどうすんだよ。何なの、一体。

 しかも、気合い入ってない? お前、その女物の着物、何よ。新しいの? 見たこと無いんだけど。


 それに手土産は普通、饅頭じゃねえの? 何コレ? 買いに行く暇なかったとか? にしたって多くね? 袋の中にまさかの三万円。お金がないのはお互い様だけど、別に俺だって一応働いてるので、施しを受ける義理はありませんが? 何これ?


「依頼料だ」
「お断りします」


 ああああ、そう来たか。依頼ですか。

 アレだろ? いつもの攘夷のなんちゃらだろ?
 俺はもう関係ねえっつの。堅気で真面目に仕事して税金納めてるんだから、そうゆうお巡りさんに追いかけられるような事に巻き込まないでお願い。

「どうせ暇なのだろう?」
「いや、悪いな、さっきお前が来る直前に急に仕事入っちゃってさ、忙しいのよ。いやぁ、本っ当、残念」


 やだやだ絶対に面倒な事だって。俺は一般市民なんだよ、法律に触れること厳禁ね。お巡りさんに追いかけられる羽目になるのだけは勘弁ね。お前となんか繋がりあるだなんて思われたら仕事し辛いって。


「それで、依頼なのだが」
「人の話聞けよバカヅラ」

「バカでもヅラでもない、桂だ! お前はいつまで経っても覚えない。バカなのか?」
「てめえがな」

「今から今日一日デートしてくれないか?」

「おーい、新八、耳掻き取ってくれ」

「で、デートコースなのだが……」

「人の話聞けってんだろうが!」


 何なんだ、それは一体。


 デートって何ですか?

 それってば、恋人同士の男女が一緒に遊ぶ事じゃないの?

 恋人同士の男女って………だから女装ってわけ? にしたって、何その依頼。


 新八が、ヅラの前に茶を置いた……いつも飲んでる番茶じゃなくて、緑茶の方………こいつに依頼人扱いすることなんかねえよ。


「銀さん。俺は今日は上がりますからね」
「え、ちょっと、ナニソレ?」

 さっき、来たばっかだよな、新八。まだ昼にもなってねえけど。ってか、起きてすぐ朝御飯食べたばっかだけど。
 八時に新八が来て、俺が起きて、神楽が起きて、飯食って、神楽が出てって、ヅラが来て、今九時。


「帰るって、お前、今日何かあったんだっけ?」
「あれ、お通ちゃんの限定アルバム発売日だって言いませんでしたっけ? そろそろCD屋が開くから俺は行きますね」

 あ、職務放棄する気か?

 ………いや、新八はコレさえ与えれば無害で地味でいい子なんで、逆にコレを与えないと豹変するから。逆らいませんよ、銀さんは。

 神楽は、どこの誰とも知れない友達という名の被害者かもしれない何かと遊ぶ予定とかで勢い良く卵かけご飯丼を流し込んで出ていった……三杯。

「じゃあ、依頼頑張ってくださいね」



 新八がしまりのない顔で、イソイソと出ていった……。


 部屋の空気が重くなった。

 ヅラが茶を啜る音が聞こえる。



 何だ、この気まずい空間。






「いや、ほらせっかくだけど、俺これから用事があるし…」

 とにかく、そんな面倒な……何か裏がありそうな事……新八が居るなら新八に押し付けてやろうと思ったんだけど……そう、仕事よりCDですか。


「今日は一日暇だから、遊びに来ても良いって言ってたのそっちだろう?」

「…………」



 はい、言いましたとも。悪かったな。言いましたよ。覚えてるよ。

 最近は俺が仕事で居なくて、帰ってくるとヅラの置き土産のいつもの饅頭が玄関に置いてあったり、ヅラもお仕事の何やらで最近来てなかったし、来ても顔見せてさっさと帰ったり、すれ違いが続いてましたからね。

 たまにはのんびり茶でも如何? とかね。


 思ったわけですよ!

 この前ヅラが来た時に、今日空いてるか訊いてみただけだけど。特に予定がないって言うから、俺もって言っただけだけど。
 遊びに来て下さいとまでは言えなかったけど、とりあえず伝わってた事だけは、ほっとしたけど。


 ………裏目に出た。


 別に、一応幼馴染なんだし、のんびり茶でも飲んだりとか、もういい加減俺達オッサンなんだし落ち着いて話したりとか、たまにはいいんじゃないんでしょうかとか、思っても罰は当たらないと思うし、お前は勝手に来るけど、俺からだって誘ったって問題ないと思うし。



 お前は俺の事ただの幼なじみとか腐れ縁とかにしか思ってなくても、俺はだいぶ長いことお前に惚れてるんでさ。

 そりゃね、一緒に前線で命かけて戦ってた頃は、お互いしか目に入ってないくらい、世界に俺達だけでいいってくらいのラブラブだったけどさ。毎日毎晩エッチな事しちゃってるような誰もが羨むぐらいの仲でしたけどさ。




 今はただの俺の片想い……ってのはわかってる。理解してる。


 俺も大概ねちっこい性格だと思うけど、未だにお前の事好きだからさ、できれば一緒に居たいとか思ってたりするんで、久しぶりに俺んちにお招きしたわけだけど……。

 裏目に出た。


 依頼でデートって、何ソレ?

 何で金貰うの、俺が?



 別にお前が散歩しようって言えば行くし、蕎麦食いたいって言えば行くし、欲しい物があるって言えば行くし……って言って、白いのと出会った記念日とかに白いののエプロンをプレゼントしたいから一緒に選んでくれと言われた時は困ったけど。
 困ったけど、一緒に行ったよな? ちゃんとついて行ったよな?

 基本的に、仕事じゃない時はお前の誘い、攘夷とかじゃなけりゃ、そうそう断ったことねえよな?



 ……何だ?



「そう勘繰るな。ただお前は一日俺とデートをして、一日俺の恋人になればいいだけだ」

「何ソレ?」

 何で?

 それ、絶対確実に裏があるよな? 絶対何か企んでるよな? 勘繰るなって、難易度高過ぎなんですが。

「最近予想外に収入を得たので……たまには銀時と昔のように……と。不服か?」


 ヅラが、少し困った顔で、寂しそうな表情で、上目遣いに俺を見た。
 紅を差した唇が、艶めいて……長い睫毛が少し、震えてた。

 昔から……本当に、昔から。何でお前は外見だけはそんなに完璧なんだか。ただでさえ女顔なのに。本当に綺麗な顔してて。

 うっかり、手が伸びそうだった自分、すごく反省。いや、別に今は俺とヅラの関係は、ただの幼馴染だから。

 だから! 昔のようにって………気持ちは今も昔も相変わらず俺はお前にゾッコンなんですがね。いっそ、もっかい真剣に告ったろか?


 不服なんかあるわけねえ。そりゃお前からのデートのお誘いならば、喜んで一時間前から待ち合わせ場所で待っちゃえるくらいの意気込みで挑むけどさ。

 ……いや、でも、一応、建前上は腐れ縁だから。




「……そんなに嫌ならば無理にとは言わない」
「んー、あんまり気乗りしねえなあ」


 何か、嫌な感じがすんだよな……依頼ってとこが。

 普通に外に行こうって言われたら何も考えずに外に行っただろうけど、依頼って、言ったよな、こいつ。






「わかった。他を当たる」



 他?



「………っ、てめ、ちょっと待て! 他を当たるって、つまり俺じゃなくてもいいって事か?」


 他って……。

 つまり、目的は俺じゃなくてデートって事か? そっちメイン!?


「その為の依頼だ」


「……………」




 嫌なんですけど何ソレ嫌なんですけど。別に俺とデートしたいわけじゃなくて、お前はデートしたくて、その相手は誰でもいいって事か?


「他の奴に頼むのも、俺と釣り合う奴を探さねばならんので、面倒なんだ。何故か俺の部下はむさ苦しいオッサンが多くてな。その点お前は気心も知れているし……」



 えっと……つまりさ、俺が断ったら、お前はその格好でどっかの若いイケメンとデートしちゃうってわけ、か?



 冗談じゃねえっ!




「わあったよ! すりゃいいんだろ、デート」


 半ば投げ遣りになって答えた。



「そうか。良かった」




 にこりと、微笑んだヅラは……まあもともと生まれつきの美貌と女顔で……、一番長いこと一緒にいた幼なじみの俺でさえ見とれるぐらいで……。


 俺、今鼻の下伸びてなかったよな?











20110104