金銀 07











 最初に見てた夢は、ヅラが女装していた。


 たぶん、夢。きっと夢だったんだと思う。
 そう、やけにリアルな夢だった。俺も自分がおかしくなっただなんて思えないし、スタンドはあっても幽霊とか非科学的なこと信じない主義だから、俺は夢を見たことにした。




 頭がやけに痛かった。酒飲んだはずもないけど、なにやら今の状況が混濁しててちょっと把握できない意識の中で、まずヅラの顔が見えた。
 んで、まあヅラが居るから大丈夫かなんて、思ったけど……。



「金時? 大丈夫か?」


 ヅラが俺を覗き込んで心配そうに俺の額に触れた……とか。

 そんで、目が覚めたのは女装したヅラの膝枕……とか。


 ナニコレ?

 目を開いたら、ヅラが居たのはいいけど。なんか非常に違和感。
 ただでさえ女顔で昔からそれを気にして女みたいだって言った奴を半殺しにして生きてきたくせに……なんか、ちゃんと化粧してるし。がっつりじゃないけど、目元に藍色を刺してて唇に紅を引いてる。素でキメもあるんだか無いんだかで綺麗な肌で白いから、白粉をつけてんのかは解んねえけど。前に青剃りのオネエサン達の中で一緒に仕事した時よりも格段に化粧のレベルが上がってるとか……いつの間にそんな技術学んだよお前。

 てか、化粧やめろよ。本物にしか見えないって。ギャグになんねえから。似合いすぎてて本物に見えるから、笑ってやれる自信ねえから。


「……なにやってんの?」

 女装もだけど、膝枕。夢見た事はあってもこんな事された記憶無いんですが。
 想像通りに骨ばった太股は、あんまり寝心地のいいものじゃないけど、のぞき込んでくる綺麗な顔が微笑みを作ると馴染んだはずの顔なのに癒される気がするのは、きっと何かの気の迷いだと思う。いや、女装の効果かこれが?


「何がだ?」

 何がって……全てが違和感。

 珍しく心配そうな顔で、なんか膝枕なんかされちゃってて俺……。しかも、こんな優しげな笑顔見たの久しぶりだと思う。いやもう、多分年単位とかで久しぶり。笑顔見てもこっちの神経逆撫でするような高笑いばっかだったから……なんか、非常に違和感。

 何がって言われたら、全部だって言いたいけど具体的に何がって、すぐに思いつかない。

 いや、何で俺さっきまでの記憶無いの?

 さっきはアレだったよな? ヅラと銭湯に行って、ヅラが俺のこと投げ飛ばして………で、





「ここ、どこ?」

 そもそも何でここ? 銭湯から移動したの? で、ここどこ? 服のまま投げ飛ばされたけど、なんか乾いてるんだけど、そんなに時間経ったってわけ? 色々訊きたいこと山積みすぎて何から聞いていいのか解んねえ。


「外が騒がしいから出てみたら、お前が落ちていた。黒い服を着た男共が居たから、追いかけられているのかと思い、匿おうとしたのだが……余計だったか」


 ……いや、落ちてる? って、ここどこ?

 んで、追いかけられてるって……何それは。追いかけっこで追いかけられんのはお前の日常かもしれないけど、俺は悪いこと何にもしてませんよ?



「一夜にして髪がこんなに白くなってしまうとは、よほど怖い目にあったのか?」

「……生まれつきですが」

 何それは?

 いや、ちょっと待て。本当、ここどこだ?
 何となく見たことある気がするけど……下のババァの飲み屋で潰れた時に転がされたばばあの部屋の天井によく似てる……気がする。けど……どこ?




「大丈夫か、金時」

 金時? お前まで黒モジャの手先気取りか? 黒モジャに何かの洗礼でも受けたのか? 俺は銀時だって!



 って、言おうと思ったら、そっとヅラの手が伸びてきて、俺の額に触れた。
 見た目通りの、ちょっと冷たい手をしてた……って、具合でも悪いのか? いつも見た目と違って手はほかほかしてるんだけど……ヅラは代謝が良すぎるし血管も太いみたいだから、末端冷え症とは無縁の生き物だと思ってたんだけど……なんか冷たい。




「気が付いて良かった……心配した」

 ………てめえに心配されるほど落ちぶれたつもりなんてねえよ。普段から危ないことばっかしやがって、てめえにゃこっちの心臓何個も潰されるぐらいには心配かけられてますが……。

 それで、額に置いてあった手がそのまま、俺の髪を撫でた。
 ……何これ? 何かのサービス? 優しくされてたりするのって、なんか企んでたりすんの?

 いや、常日頃から俺の頭の手触りを楽しもうと虎視眈々と狙っていることぐらいは知ってるけど、こんな風に、俺の自慢の髪の毛の触り心地を楽しもうとするわけでもなくて、頭を撫でてくれるとか……何か、すごく違和感なんですけど。




「熱はなさそうだな。水は飲むか?」
「……頂きます」


 そう、水でも飲んで落ち着こう。別に慌ててるつもりはないけど、なんか普段通りじゃないヅラの態度に確かにちょっとなんか妙な気分。


 ヅラは立ち上がり、グラスに水を汲んで持ってきた。中にちゃんと氷まで入ってるとか……気が利きすぎてねえか? 水道を捻る音じゃなくて、冷蔵庫を開ける音がしたから……水道水じゃなくてミネラルウォーターかもしんない……とか、何だこれ?
 いつもヅラだったら、水飲むか、じゃなくて、水を被るか? ってバケツで持ってくるような奴じゃなかったけ? 俺は何か夢見てんの?



 ヅラから受け取ったグラスに入った水を一気に飲み干すと、一気に現実感が沸いてきた。
 いや、だから、本当ここどこ?



「俺、何で膝枕なんてされてたわけ?」
「倒れていたからな」
「……」

 いや、倒れてたってヅラのことだから放置するだろう? 先日ヅラが追いかけられてて、傷負っててマズかった時は、さすがに救出してやったが、逆の立場だったら、ヅラなら間違いなく冷たい視線を浴びせる事はしても、持って帰るとかはしないと思う。

 てか、そもそも俺がそんな危ない状況なのが思いつかねえ。




「何でお前、女装なんてしてんの?」

 女装とか、いや、似合うけどさ。変装が大好きで、その中の一つだろうけど……てことは。

「仕事中?」

 また潜入して情報収集とか危ない仕事とかしてる最中だった?


「いや、今日はお前が具合が悪そうだから、ママがもう良いと言ってくれた」
「………は?」

 いや、ママって何? ちょい待て、どんな仕事してる最中だ? 当たり前のようにママとか言われてもそれ誰よ。


「……何やってんの?」

 別に攘夷の何たらかんたらについてヅラが俺に教えてくれたことはないし聞きたくもねえけど、ここ最近は落ち着いてたはずだよな? 特に過激派の動きもないし、天人が妙な政策を押しつけてきたりすることもないし、ヅラもヅラでのんきに客引きのバイトとかしてたよな?
 そのバイトついでにクラブとかで働いてたりしたっけ?
 いや、俺が許しませんが。許さないっても勝手にバイトはじめてるから、実際こいつが何やってんのかなんて把握できねえけど……でも、女装はやめろ。世の中紳士な男性ばかりじゃねえんだ! ってヅラに説教くれたくなるからやめろ。




「……金時?」

「ん?」

「いや、横にならなくてもいいのか?」


「……じゃあ、」

 お邪魔します、と一応一言おいて、再びヅラの膝の上に頭を置いた。いや、張り飛ばされるかと思ったんだけど、ヅラの膝が空いてたからいいのかなーって思って……。ちょっと調子に乗って膝枕されちゃったりしてみたけど……別にヅラは当たり前のように受け入れた……あ、いいんだ。


 膝枕なんてこんなサービスして貰ったことなんてねえけど、何企んでんのコイツ? 俺の何が狙われてんの? ドキドキしてきたけど何この恐怖。












20111023