「さっきのお前によると、お前はパラレルワールドの住人らしい。さっきの金髪の銀時がそんな事を言っていた」
「……いや、帰っておいで」
お願いだから、俺に帰ってきて、ヅラ君。
にしても……本当に、一体、今、何?
確かに土曜日は時々お泊りに来てくれるから、合い鍵渡してあるけど。俺の部屋来て、俺を待ってる間に読んでた漫画とかそんなんだったけ? 何がしたいんだ? 実際、意味不明な状況だとは思うけど……世界がヅラの電波に飲み込まれてしまったんでしょうか助けて。
「お前は?」
「いや、何よ?」
「お前はいったいどんな世界の住人で何をしていた?」
純粋と無垢と馬鹿を絶妙にブレンドした電波のヅラに、嘘吐けるような器量ないことくらいは把握してるけど……この有無を言わせない圧巻の迫力ってどっから出してんだ?
「いや、俺が先生でお前が生徒でしょうが。んで、お前が俺の事好き」
「…………………………」
なにかを言いかけたヅラの言葉を待ってみたが、結局口から出てきたのは、ずしりと沈殿するような溜め息だった。
「俺はの知っているお前とは、幼馴染の仲だが……そうか」
なんか……。
「ヅラ、今何歳?」
「お前と同じだ」
さっきのヅラの言うように、やっぱりパラレルワールドとか来ちゃってんでしょうか俺……俺キてないか? 大丈夫か? 「教えてくれここが精神病院の鉄格子の内側か外側か」て昔読んだ本でなんかあった台詞を思い出しちゃったりして……いや、本当に俺大丈夫か?
「なんか、納得できねえ」
「安心しろ。俺もだ」
「……」
「…………」
ヅラが、また溜息を吐いた。今度は俺も一緒だったけど。やけに重たい空間。溜息って沈む気体だったようです。
「たぶん。俺がお前を再び銭湯に沈めればいいんだろう」
「ちょっと待って。それ、誰が得すんの?」
なに怖いこと言ってんのこの人? 湯船に沈められるの俺? 殺す気?
「ちょっと待て。お前ホントにヅラか?」
「ヅラじゃない、桂だ」
「……そっか、ヅラか」
この返しはヅラに間違いないんだけど。
一応、俺の知ってるヅラかどうか、俺が知ってる判断できる部分が、ちょっとあって……。
「なあ、ちょっと確認していいか?」
一応、確認。昨日、あんま時間なかったけど、誰も居ないの見計らって、鎖骨にキスマークつけといた。暑いからとか言って、いつもはきっちり上まで止めてるボタン三つも開けやがってたから。
とりあえず、俺のだって主張した後が、まだ消えてないはず……。
「何を……っ!」
着物の袷から手を入れて、昨日の痕を確認してみたんだけど……。
真っ白だった。
……ヅラは肌が白いから、鬱血の痕はよく残るし、昨日の今日で消えるような痕じゃなかった。
やっぱり。別人……の、ヅラ。
「何をするっ!」
「ぐぁっ!」
ヅラの拳が俺の顎を直撃した。俺は再び床に転がった。
いてえっ!
いや、ちょっ……なにそれ? 先生殴って良いと思ってんの?
床っても畳だけど、座布団は枕になってたけど、けっこうなダメージがかなり……。
「落ち着け、銀時。混乱しているのは解る。同情もするが、俺の服を剥いたところでどうにもならんぞ。おとなしく銭湯に沈められればいい」
「ちょっと待てやコラ!」
どういう理屈だよ。
確かに今ひどく混乱してるけど。
突然服を脱がせようとしたわけだけど、ちょっと確認しようと思ったって言うか、んで確認しちまって、結局ヅラはヅラじゃなかったって言うか……えと。
ヅラは、今激しい勢いで俺を殴ったくせに、もうさっき俺が割った襟元もきちんと正して、きちんと正座して腕組んで俺を見ていた。
まあ、今俺は痛覚のある夢見てんだか何だか。見たこと無い部屋だし、ヅラが少し老けてる気がするし、俺が知ってる現実にいるわけじゃない事は確かだろう。
パラレルワールドに迷い込んだっていう、やけにリアルな夢を見てるって、説明されたら、それで納得するしかない。いや、もうそれでいい……ような、気がする。
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20111010
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