金銀 04











「あー……ったま、いてぇ……」


 何だっけ。ガンガンする。
 二日酔いみたいな痛みだけど……。


 二日酔いみたいな痛みだけど、俺酒飲んだんだっけ? てか、そもそもここ何処よ? 見慣れない天井。うちよか少し高いし広い、蛍光灯もそろそろ取り替え時だったはずなのに、明るい。

「銀時?」


 俺の視界の中、安い蛍光灯との間に可愛いヅラの顔が割り込んできた。さらりとした黒髪が揺れる。


「おー……」

 なんかヅラが居た。なら大丈夫か。何が大丈夫かって訊かれてもわかんねえし、実際頭痛くて大丈夫なわけじゃねえけど、まあ、大丈夫だろう。
 大丈夫だとは思ったけど……あれ、授業……どうだっけ、もう放課後だっけ? てか何時だ今?


「銀時?」
「あ? なに?」

 何? って、言ってみたけど、なんで呼び捨てされてんでしょうか? ようやく二人の時は名前で呼んでくれるようになったわけ?
 卒業するまでは先生としか呼ばないとか言ってなかったっけ? 別に無理に名前で呼んでもらおうとか思ってないわりにやっぱり名前呼びとか、地味に嬉しかったりはする……けど。

 名前違うから! 銀八だからね、俺!




「どっから出したんだ、その和服は」

 何で俺が目を覚ましたら突然着替えてるわけ? 新しく買ったから大好きな先生に見て欲しいとか? 学校に関係ないもの持ってくるんじゃありませんて……いうか、学校……じゃねえ、よな、ここ?


「すっとんきょうな服を着ていると思ったら……またか」

 すっとんきょうって……いや、いつも着てる服でしょうが。そりゃ国語教師が白衣着てる必要はないかもしれないけど、ってことはつまりいつも俺の服見てそんな事思ってんのかこいつ? いや、でも今のヅラより普通だろうが。何で和服なんて着ちゃってんの? しかも普通の洋服よりも似合ってるとか、何なの?

 俺がワケ解んなくなってクエスチョンマーク大放出してたら、ヅラは内臓で熟成醸造された、こっちまでその色が見えるような重たい気分を、本格的に溜め息で吐き出した。




 それよか……またかって、何? 俺がまた何した?


 てか、マジで、ここどこ?

 俺の記憶が確かならばさっきまで、ヅラと学校でイケナイコトしようと、放課後学級委員長に手伝い命じて準備室で待ってた。そこまでは確実だ。楽しみにしちゃったりしてたから。

 んで、空間から生えてきた太めのゴツい妙な腕に掴まれて……ココドコ。
 俺は誰って……いや、俺の事はわかる。



「俺は銀時の幼馴染みの桂だが、お前は?」
「なにソレ」

 幼馴染みって一体何のイメクラ? 何ゴッコがしたいの? 和服で幼馴染みの設定って、一体俺はどんな立場のフリすりゃいいわけ?

 そりゃ幼馴染みとか美味しいとは思うけど。同じ年って設定なら、怖いもんなしだろうけど。
 実際、イケナイコトっても具体的にはちょっと触ったり、ぎゅってしたり、ちゅうしたり、舐めてもらったり、舐めたりする程度はするけど、卒業するまでは清い身体でってお約束だし……というか、それ前提でのおつきあい。
 最近じゃ先っぽだけならいいかなーとか思い始めたりして、気を引き締めてるところだけど。


 だからつまり幼馴染とか、俺と同じ年とかならいくらでもやり放題って設定は、涎出るほど美味しいとは思うが。



 何それは。誘ってんの?


「銀時……まだ、おかしいようだが」
「ヅラ君はどうしたの?」

 何か偉そうだし。

 腕組んで見下ろされて溜め息吐かれても、あんま可愛くねえぞ?

 あと、なんか雰囲気が少し大人びてるような……てか、偉そう。

 んで、隙がない。
 どこもかしこも触ればくすぐったがるヅラが、指一本触れちゃいけないオーラを発してんの気のせいか?

 確かに、そのまま成人させたらこんな風になんだろうなってヅラが、居る。


「あのー……俺の可愛いヅラ君はどこ行っちゃったんでしょうか?」


「可愛いっ!?」

 いや、何声裏返ってんだよ。目ン玉ひんむくなって。俺、なんか間違えたこと言った?


「だろ? 俺のこと大好きなヅラ君は可愛いでしょうが」

 そりゃ、先生大好きとか滅多に言ってくんないけど、あんだけ全身で好きですって言われてこの可愛さで落ちない男なんか居ないと思う。男なんだけど、学ラン着てなけりゃ、普段着のパーカーとデニムでポニーテールとかだと、普通に女子にしか見えない。
 おかげでお外デートの時はちょっと遠出すりゃ、周囲の視線なんて気にしないで手を繋いじゃったりできるあたりは、役に立つ外見だと思う。いや、まさか俺とこんな関係になるつもりなんてなかっただろうから、役に立つ予定もなかっただろうけど。
 本当に、見た目だけなら女子よか可愛いと思う。
 男のくせに「攘夷」とか妙な名前の男ばっかのヅラのファンクラブとかあんの知ってんのかこいつ? ヅラを触らずに愛でるって不文律には納得できるが、正直にあいつら鬱陶しい。


「銀時? やはり熱か?」
「だから、今日は先生大好きのチュウしてくんないの?」

「ちょっと待て銀時。見ろ、鳥肌だ」



 相変わらず細くて白くて折れそうな腕だったけど……いや、鳥肌って何に対してのソレでしょうか?

 まさか、可愛いって台詞にじゃねえよな?

 毎日のように可愛がってんだけどさ。授業中は言ったりしないけど二人っきりの時はちゃんと毎日言ってるよな?

 十八になって、卒業して、ようやく法律やら色々から解放される時まで、誰より一番俺が好きでいてやるから、他に目移りしちゃいけませんって意味込めて、毎日可愛いって、俺のもんだって言ってるよな?

 ヅラもヅラで顔赤くして嬉しそうにして俺に抱きついてきたりするし。相思相愛とか惚れた可愛い子に毎日会えるこの上なく幸せな職場環境ですが。

 何か、どうなってんの? 俺が何かおかしいことになってんのか、世界の方がおかしいことになってんのか……どっちだ?
 やっぱり、空間から生えてきたやけに太いオッサンの腕が怪しいと思うんだが……でも、今、これ何?













20111009