「俺ってさ、たぶんお前が言う銀時と違うと思うんだけど……」
やっぱり、なんかどっかパラレルワールドとか、そういう意味不明な状況に陥ったりしてたりする……のかも、しれない。ような気がしてきた。いや、やっぱりそんなこと考えたくないんだけどね。一応自分常識あるつもりでいるから。
でも自分自身を納得させるためにはそんくらいの理由しか思いつかない。
夢なら夢でいい。つまりパラレルワールドとかに迷い込んだ夢を見てる。
ヅラが演技派で俺をなんかの理由があって騙しているっていうよりもはるかに納得できるパラレルワールドって方で納得することにする。
だから、これはパラレルワールドでいい。
そう確信すんのは、やっぱ、俺がヅラだと思ってるヅラともこのヅラは違うと思う。気がする……のだけれども。
見た目は、同じだ。相変わらずこんな綺麗な男なんて見たことないって思うくらいに綺麗な顔して、やっぱり男物の服着てても女みたいな線の細い華奢なラインで……やっぱり見た目は俺の好きなヅラだと思うんだけど……儚げな美人で、見た目だけなら女だと間違えるような線の細さは、やっぱりヅラだけど……見た目だけなら寸分違わずに俺の惚れてる人のはずだけど。
なんか、違和感。
ちょっと、少しだけ、ごくわずかに、何かが違う気がする。
いや、何言っちゃってんの自分とか思ってるけれども。でも、やっぱり明らかに空間から生えてきた腕が怪しい。
「オッサン的な女神に相当怖い目に会わされたのか?」
やたらと、強そうなんだけど、このヅラ。いつもと服が違うだけで、見た目は別に何も変わらないんだけど、なにが違うのかって言われたら、オーラが違うとしか言えない。
守ってあげたい、よりも、守って下さい。て言いたくなるようなオーラを全身から発してるような……。
俺の知ってるヅラじゃねえ。
と、思う。
ヅラと幼馴染みじゃねえし、ヅラも基本的に普段着も女物だし、てか普段着で会ったことなんてないかもしれない……。
それに、ヅラの発してるはずの電波以上に、どうやっても話が噛み合わない。
まあ、夢でも痛いんだろうと思うことにする。きっと夢だこれは。目が覚めた瞬間ヅラが居るだなんてついてるって。喜んどこう。
きっと次起きたら元に戻ってる……はず。
となると、気になる事はヅラと俺との関係。俺はこの夢の中のこの世界で、ヅラとどんな関係なんだ?
できたら、相思相愛希望です。
もう、いい加減俺に落ちても良い頃だと思うんだけど。
片想い歴はもう大分経つ。
歌舞伎町No.1ホストのこの俺がどうやって口説いても、毎日通い詰めても、逆にちょっと引いてみても、一向にこっち見てくんない。女は俺に貢ぎたい生き物だって思って生きてきた価値観全部吹っ飛ばされて、俺が稼いだ額全部貢いでも、どんなにテク使って口説いても、ヅラは一向に俺のものになんない。
俺はバカみたいにヅラの事ばっか考えて、ヅラの笑顔見るために全身全霊でさ。
んでも、ヅラは俺のになってくんない。
でも、会った当初よりかなり、仲良くなったとは思うんだけど……でも、相変わらずヅラの態度に一方通行を痛感させられる毎日なんだけど。
他の世界だったら、どうなのよ?
夢でも、パラレルワールドだっても、やっぱり俺は俺でヅラはヅラなんだし……。
「さっき、一ヶ月前って言ってたけど……」
首筋、見せてくれた時に、一ヶ月前のは消えてるって言ってたけど……キスマークだったりする? それ、俺が付けた奴?
「ん? ああ……いや、二ヶ月? 三ヶ月ではないと思ったが」
ん? 二ヶ月? って……なに? キスマーク、とか、じゃないの? やっぱ……?
ちょっと自信なくなってみたり。
いや、ヅラ子ちゃんに会うために週六くらいで西郷ママの店に通ってたりするんだけど、俺。いや、別に酒飲みたいわけじゃなくて、ヅラに会わないで俺が毎日生きてけないだけだけどさ。
だから、二ヶ月とか会わなくて生きてられる自信あんまねえよ?
一ヶ月前の消えたのが、このヅラが言う俺が付けたキスマークだといいとか思ったんだけど……違ったか? もし両想いになれちゃったりしてて、えっちとかできちゃう状況で、一か月もお預けとか、考えただけでも無理だったりするんだけど。
「たぶん、今パラレルワールドとかで、俺はアンタが知ってる俺じゃないと思うし、アンタも俺が知ってるヅラじゃないんだけど……」
ヅラは、正座して腕を組んだまま、寝っ転がってる俺をただ見下ろしてる。あからさまに可哀想な人を見る目は傷つきますけどね。
ちょっと、やっぱりヅラはいつものヅラじゃないと思うけど……それでもやっぱりヅラはヅラだから。
こんなに俺がヅラが好きなんだから、どの世界の俺でも俺は俺なんだったら、ヅラを嫌いなわけねえと思うんだけど。
「俺は俺の世界でお前が大好きなんだけど、お前は?」
訊いてみた。
どんな関係だってさ、幼馴染みだろうと敵同士だろうと、ご主人様と使用人だろうと、俺はヅラの事、好きになるはずなんだけど……きっとそれ、ただの重力の法則と同じくらいの真理だと思うんだけど。
そしたら突然……ヅラが。
真っ赤になった。
真っ赤って、本当に、真っ赤だ。顔も赤いし、耳まで赤い。
落ち着いてて、慌てる事なんて世の中に一つもないっていう、いつも涼しげな表情してるヅラが。
どんなに俺が好きだって言っても、顔色一つ変えなくて、しつこく言い続けると少し鬱陶しそうにするだけなのに……そのヅラの顔が。
真っ赤。
何……この反応。
「……ヅラ?」
「………………」
え?
今までどんなに好きだとか愛してるだとか挨拶よりも多く繰り返してきても、華麗にスルーされてた俺の魂込めた言葉は……今ここで、この反応とか……この反応って……何?
もしかして……
「ヅラ……愛してる」
もっかい、試しに言ってみる。
ヅラが顔を赤くしたまま固まってる。
目なんて落ちちゃいそうに丸く開いたまま、瞬きとか忘れてんじゃないかってくらい、俺を見て、固まってる。
さっきまで、腕組んで微動だにしてなかったのに、そんでも何処にも隙がなかったってのに……。
ちょっ……もしかして今、絶好のチャンス到来?
夢の中でもパラレルワールドでも、ヅラはヅラだし。
ずっと好きで、何度諦めようと思ったかわからないくらいの態度で、信用されてんのかされてないのか、俺のことなんてどうでもいいのか、そう思ってたのに……。
もしかして、今、絶好の機会だったりする? 今が千載一遇だったら乗っかっちゃっていいですか?
「なあ、ヅラ……」
そっと、手を伸ばして……。
白い頬に触れる。
白くてさらりとした肌が柔らかいとか思った。
ちょ、何コレ? 役得? チュウできちゃうよ? いいの? しちゃうぜ?
いや、さっき、一ヶ月前の消えたのがキスマークかなーとか思ったけど、こんなウブい反応じゃあり得ないかもしんない……。俺が幼馴染で昔からずっと知ってるヅラを放置できるほど寛容なのも意味わかんねえし、もし両想いだったりしたら、一か月とかオアズケきついです。
でも……この反応。
好きだって言葉だけですが、それでこの反応って……つまり、俺の事意識してくれてた反応だよな? 好きだってその言葉が、ヅラの中に届いたってことだよな?
俺がしつこくて面倒だったら、いつものヅラ子ちゃんみたいに、呆れたようにスルーするだろうし、嫌だったら嫌ってはっきり言うだろうけど……つまり、この反応……は。
好きだって何回言っても、気持ちをモノに変えても、愛情を解りやすい態度にしても一切表情すら変えないヅラに……今、キスできる。
して、いいってことだよな?
唇に、キスできる。
このヅラは俺の知ってる俺が惚れたヅラなのかってちらっと考えてみたけど……。
でも、ヅラはヅラだろ?
たぶんどこに行っても、どんな世界で育っても、俺は俺だしヅラはヅラだと思う。きっとこの世界で俺が生きてたら、このヅラのこと好きになると思うし……だから、何も、間違いじゃない。
長い髪に指を絡めて引き寄せる。ゆっくり、距離が近付く。
あと、数センチから、数ミリへ……。
「……っ!」
がいん、と頭が鳴った。
頭突きされた……何この石頭?
額に鉄板仕込んでんのかコイツ。
頭……割れた………かも
「貴様は銀時ではないなっ!」
だから、金時だって。とか、言い訳できる余裕もないくらい、俺がくらくらして、世界が暗くなる……。
そっから、覚えてない。
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20111008
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