「あー……ったま、いてぇ……」
何だっけ。ガンガンする。
二日酔いみたいな痛みだけど……。
二日酔いみたいな痛みだけど、俺酒飲んだんだっけ? てか、そもそもここ何処よ? 見慣れない天井。うちよか少し高いし広い、蛍光灯もそろそろ取り替え時だったはずなのに、明るい。
「銀時?」
俺の視界の中、安い蛍光灯との間に、愛しのヅラの顔が割り込んできた。
「おー……」
なんかヅラが居た。なら大丈夫か。何が大丈夫かって訊かれてもわかんねえし、実際頭痛くて大丈夫なわけじゃねえけど、まあ、ヅラが居るし大丈夫だろう。
大丈夫だとは思ったけど……ちょっと役得かも。
「銀時?」
「あ? なに?」
何? って、言ってみたけど、俺は金時だって。まだ覚えてくれてねえのかよ。冷たいのは相変わらずだよな。いい加減に素直に俺に惚れてくれりゃいいのに。
「へえ、今日はずいぶん男前な服着てるな。お出かけ?」
「……銀時?」
怪訝な表情……と言うか可哀想なモノでも見るような目付きで、ずいぶんな反応だとは思ったけど、まあ素っ気ないのはいつものことか。いつもの事だけど、いつも通りに少し傷つく。
でも実際に、ヅラはいつもの藍染の大柄の女物じゃなくて、男前な男物を着てる。珍しい……ってか初めて見たわ。男物の服もちゃんと似合ってる辺りが、やっぱり男なんだとか凹む。いや、いいんだけど。もう性別超越して惚れちゃってますから。
源氏名ヅラ子として俺の幼馴染みの高杉が営む万事屋の下のバーで働く美女(男)の、目下俺が熱烈求愛中のヅラは、俺の横で腕を組んで、正座している。
「今日は店はお休み? ヅラ子ちゃんが居ないんじゃ売上立たないんじゃないの?」
外は暗いから夜なんだろう。
んで、あの化け物……いや、西郷ママだけじゃ、新規の客は入らねえだろう。入れないってか。ヅラ目当ての客が多いけど、ママの怖さに誰も手を出せないとかママ有り難う。
「何を言っているんだ、銀時? やはり頭がおかしくなったか?」
「だから、金時だって。名前くらい覚えてるだろ? ヅラ子ちゃん」
「…………」
ヅラは、眉間のシワを深く刻み、俺を睨み付けた……いや、何?
何で睨まれなきゃなんないの?
てか、何でここで寝てんの? ここどこよ?
「あ、そういや俺を追ってた奴等は? 匿ってくれたりしてんの?」
たしか、さっきまで、うちのボスがなんやかんやで、中国マフィア的な何かに追っかけられてる最中でとりあえず、近かったからヅラに匿ってもらおうと助けを求めに……。
そっから……。
いきなり空間からオッサンのぶっとい腕が伸びてきて、俺の頭を掴んでその空間に引きずり込まれた……んだけど……どうなってんだ?
そっから、記憶飛んで、今ヅラに睨まれてる状況になってるとか、どうなってんだ?
「……銀時が何を言ってるのか、さっぱりわからん。何か夢でも見てたのか?」
ん、夢でも見てんのか?
「ここどこ?」
「お前の意識がないから、俺のうちだが……一週間前も来ただろうが」
え? ヅラんち?
初めて入ったはずなんだけど……一週間前も来たって何それ? 酔い潰れて店の奥には何度もご厄介になったけど、ヅラんちに行ったことはまだないはずなんだけど……。
「……」
「貴様が溺れたと思ったら、オッサン的な女神が湯船から突然出てきて、そしたらお前を湯船から引っ張り出してきたんだが……」
「いや、オッサン的な女神って何ソレ。オッサンなの? 女神なの?」
「それにしても瞬間的に髪を染める技はどこで習得した? 歪んだ毛根からさらに、金髪を生やすなど、余計に馬鹿に見えるぞ」
「バカは余計だ。それに地毛だっつうの」
嫌な予感。
夢見てんのか、俺。自分で頬つねってみたけど、夢って痛いっけ?
今俺は何からツッこめばいい? 俺はどうなっちゃってんの?
「俺ってさ……」
「また記憶でも落としてきたか? だらしのない奴め」
「は?」
またって何だよ? 俺は生まれてこのかた金時だって。大丈夫だよな? ちゃんと覚えてるよな? 生まれてきてこの方金時だった記憶はちゃんとぬかりないが、それ以外だった覚えはねえんだけど……ヅラがおかしいんだよな?
「お前は俺の幼馴染みの銀時だろうが」
「……」
ヅラに嘘つけるような器量が無いことくらいは知ってるけど……幼馴染みって何? その嬉しい設定どっから出した?
「えと、ヅラ子ちゃんはオカマバーで働いてるヅラ子ちゃんだよね?」
「そんな事もあったな、パー子」
パー子……パー子って何? 俺の事じゃねえだろうな? 頭がパーみたいな言われ方してますが、俺じゃねえよな?
「え? 現役だよな? 一昨日とか、仕事後に行って酔い潰れたら、店の奥で朝まで介抱してくれたよな?」
「いや、一昨日は、後援者のオッサンと会合していたが……銀時と酒を飲んだところで、俺がお前を介抱してやる義理などないと思うが」
何この冷たいヅラ。
いやいや、ちゃんと介抱してもらったって、膝枕で。ツンデレ五割クーデレ一割天然……もとい電波四割で構成されてるだろうが、ヅラ子ちゃんは。
なのに、一応枕に座布団貸してくれてるようだけど、腕を組んで偉そうな態度で上から見下ろしてるだけとか……。
ん?
「なあ、ちょっと首見せて?」
一昨日酔っ払ってふざけて付けた右首筋のキスマークが、あったはず……?
ヅラの肌白くて、皮膚薄いから、キスマーク着けるとくっきり赤くなって、一週間くらい消えないんだけど……。
「構わないが……何だ?」
ヅラは、髪を後ろに流した。
白い肌も細い首も、確かに、ヅラだった。
けど……消えてる?
ない。んだけど……真っ白。
「キスマーク、何で消えてんの?」
「……一ヶ月以上も立てば残ってるはず無いだろう?」
え……いや、酔っぱらったふりしてヅラの首にキスしたの昨日だ……。一ヶ月って、何?
「なあ、今日って何日?」
「十月七日だが?」
日付は、間違いなく今日だ。
「俺が何か怪我とかで一年以上意識不明だった事実とか……」
あったりしちゃ、やけに元気だ。いや、ちょっとやっぱり頭が痛いような気はするけど、今そんなこと忘れてるし、頭が痛いような気がするぐらいでいつも通りなんだけど……。
……。
「パラレルワールドって知ってる?」
「ああ。この前お前が貸してくれた漫画にあったな」
貸してねえですが……もしかして、今の俺はそれ?
明らかに、やはり空間から生えてきた腕が怪しいんですが、ヅラの話にあったオッサン的な女神もなかなか怪しいですけど、やっぱりここどこ?
「俺は、No.1ホストやってるはずなんだけど……」
「万事屋はどうした?」
「高杉がやってるだろ?」
「高杉とはもう会うこともないと思うが? 会ったら斬らねばならん。お前も、約束は違えるな」
「………」
斬るって……何。
何物騒なこと言ってんの、この人。そして、俺が殺人教唆されてんのは何故でしょうか? いや、高杉のこと昔から根暗な奴だって思ったりしてるけど、でも別に殺したいほどウザいわけじゃないし、俺人殺しとかになりたくないですけど。
やっぱり、そう言う事なんでしょうか。あんま、考えたくないけど……
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20111007
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