「へえ、そうなっちゃいましたか!」
これは愉快。
と、言いたげに浦原さんは扇子を大げさに広げて笑った。
浦原商店に乗り込んだら、浦原さんは黒崎を見てまず吹き出した。まあ、つまり、きっと何の問題もないのだろう。
「てめえ、知ってて石田に渡したのかよ!」
「いや、解りませんでしたよ。ただ別に本当に毒じゃないので、どうせ黒崎サンが飲むんだろうから別にいいかなって思いましてね」
「石田が飲んだらどうする気だったんだよ!」
「いや、だから別に毒じゃありませんて。それに石田サンなら元々の霊圧に相殺されて耳やら尻尾やら出ないはずですし。いやあ、これは愉快」
結局、やっぱり浦原さんにとっては愉快な事態なようだ。ともかく、毒じゃないらしい。
「なんで俺にこんな……一体俺に何を飲ませたんだよ!」
黒崎は眉間にしわを寄せて、黒崎にもうだいぶ馴染んだ僕ですら少し怖いと思うような顔をして、浦原さんに詰め寄った。
けど……耳と尻尾がついてるから、その威力は半減する。黒崎には見えないようだけれど……尻尾がぶわっと広がっているなんて、黒崎には見えていないんだろうな。
「いやだなあ、飲ませたんじゃなくて自分で飲んだんじゃないですか。飲ませるんだったらもっと飲んでもらいたい薬が他にもたくさんありますって」
どうやら浦原さんには黒崎の顔面はなんの効力もないらしい。飲ませたと言うなら、僕が原因なのだけれど……。
「だから知ってて止めなかったんだろうが、同じだ! 一体何を飲ませたんだよ」
「ええと、元になる霊圧がありまして、それを採取して培養して、他の人に与えられるような飲み薬にしたワケなんですけどね」
浦原さんは否定しなかった。ということは、ある程度は黒崎に犬に似た耳や尻尾が生えるかもしれないと期待していたのかもしれない。
「結局何なんだよ」
「採取した霊力……核となる霊圧が、狛村サンのなんですよ」
「………」
黒崎は、額を手で覆って、しゃがみ込んだ。
僕は、死神と多少は仲良くなったけれど、全員の名前を把握するほどではないし、それが誰だか解らない。何で犬なのかも良くわからないけれど……。
「ああ、でも元のサンプルはまだありますから、もっと欲しいというなら量産して……」
「要るかっ!」
「浦原さん、もしかしてもっとたくさん黒崎にあげたら……」
「いえ、一時的なものなんですよ。人体の細胞だって二年くらいで全部入れ替わってしまうじゃないですか。霊圧もそう考えて頂ければいいかと。もっとも、もっと早いですが。それに黒崎サンみたいに馬鹿デカい器を持つ人に、果たしてどれだけの量を飲ませれば元通りに回復するかも解りませんし、結局それだって一時的なものですよ」
そうか……だから、浦原さんは止めたりしなかったんだ。
「……何とかしろよ!」
「何とかしろと言われましても、別に黒崎サンには見えてもいないんでしょうが。いいじゃないですか。可愛いですよ」
「ふざけんな!」
「あの……放っておいても、黒崎はもとに戻るって事でか?」
「ええ。黒崎サンのことだから、もって一日って所でしょうかねえ」
黒崎の霊圧が戻るかもって、そう思った……元通りにならなくても、少しでもって……。
悪いこと、しちゃったかな……。
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20131002
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