夢の中まで 






 布団の中で、石田の指が俺の手に絡んできた。
 このクソ暑い真夏だってのに、なんでコイツの手は冷たいんだろう……。冬じゃないから氷みたいって程に冷えてるわけじゃないが、それでも俺よりも冷たい手。布団の中で俺の指に絡んできた。
 だから、俺も握り返す。ぎゅって握ると、少しだけ握り返してきた。

 こうやって石田が寝る時に手を繋ぐのは初めてじゃない。少し前から、眠る前になると俺の手を握ってくる。最初は触るだけだったのに、最近はこうやって手を繋いで寝るようになった。

 何でコイツは手を繋ぐんだろう。

 寝る時だけだけど。

 外じゃ……と言うより二人で居たって、そういう気分じゃない時は指一本さえ触らせてくんねえのに……石田は石田って生き物だから、ほとんどそういう気分じゃない時なんだけど。
 いつも俺の方が先に寝るから、今まで気づいてなかったけど、寝る時だけ、石田の方から手を繋いでくる。
 別に……嬉しいけどさ。嬉しいからいいけど。むしろ大歓迎だけど。嬉しいから、繋いだ手をもっかいぎゅって握る。

「石田……」
「…ん?」
 眠そうな声。
 眠そうにしながら、俺の肩に顔をすり付けてきた。眠いと、普段からは想像できないような態度。こうやって猫みたいに甘えてきたりする。

「何で、手繋ぐの?」
「……ごめん」
 案の定、石田は俺の手を解こうとしたから、俺は石田の手を捕まえる。

「離すなよ」
「……暑いだろ?」
 暑いって、お前の手、冷えてんじゃねえかよ。
 真夏なんだし、冷房苦手だって石田のせいで冷房も入れらんなくて、扇風機が回ってるだけで同じ布団に寝てんだから、暑いに決まってんだけど、暑いに決まってんだから今更手を繋いだぐらいじゃ変わんねえだろ?

「何で?」

 石田は俺の手を解けないことが解ると、寝返りをうって俺に背を向けた。でも、手を離してやんなかった。

「………石田?」
 せっかく訊いたのに、このまま寝ちまうつもりなんじゃねえかなって……、そう思った。そうならそうでいいけど。
 そんなに、俺は理由なんて考えてなかった。
 石田が寝る時だけは俺に甘えてるんだって、そう思ったから、それは嬉しかったから。理由なんてなくても良かったんだけど……。

 しばらく経って、もう寝ちまったのかって、思ったら、石田が小さな声で言った。


「だって……夢じゃ、別々になるだろ?」



「そっか……」

 石田は眠いと、素直だ。
 朝、覚えてるかどうかわかんねえけど……でも、今の言葉は石田の本音でいいんだよな? 今のは、嘘じゃなくていいんだよな。

 自分の事を喋るのが苦手な石田は、自分の気持ちを誤魔化すのは得意だから。石田の本音なんて俺は石田の口から聞けたことなんてほとんどなくて、いつも反応を見て推測するとか、それでも石田は巧妙に隠すから、無理矢理口を割らせるとか、そんな手段じゃないと、俺は石田の気持ちなんてわかんなかった。

 でも、今の言葉は、石田の本音で、いいんだよな?



「だって、せっかく今一緒にいるのに……」

 そっか……。
 最近じゃ、ほとんどないけど、こうやって一緒に寝るようになった頃、かなり頻繁に石田は夢の中でうなされてた。どんな夢見てんのか解んなかったけど、きっと昔の辛かったり怖かった事夢の中で繰り返し見てんのかなって、思って……俺はそんな石田が苦しそうで、揺さぶって起こすって手段でしか助けてやれなかった……。

 俺が、その夢の中に行けたら、苦しませることなんかしないのに。どんなに苦しくて悲しくて辛い夢だって、俺がその中にいたら、絶対に俺が助けてやるって、守ってやるって。
 俺も、そう思ってたんだ。

 そうだよな、でも、こうやって手を繋いでたら、そのまま一緒の夢、見ることが出来たら、もしお前が怖い夢に負けそうになったって、俺がお前のこと助けてやれるって。俺が、守ってやれるって……。

 俺は、石田の手をぎゅって握った。力を込めて握った。

「だったらさ、お前も俺の夢ん中にちゃんと来いよ」
「無理だな」
 うわ、即答しやがった。何だよ。急に現実的な話に戻すなよ。
 そりゃ夢のなか共有すんなんて無理だけどさ。お前が俺の事ちゃんと理解してくれてんなら、石田の夢ん中に出てくる俺だってちゃんと俺のはずなんだ。

「んじゃ、なんかあったら、すぐ俺を呼べよ。どこだって行ってやるから」
「夢の中でも?」
「たり前だろ? すぐに駆け付けるって」
 お前が夢の中で俺を呼んでくれたら、きっとその俺もお前の事全力で守るって信じてる。だからさ……。

「……」
「石田?」

 返事の代わりに、寝息が聞こえた。

 お前が呼んだら、どこにだって駆けつけてやる。
 夢の中だってちゃんと、お前のところに行くから。


 さっきまで冷たかった石田の手を少し強く握った。寝ても石田の手を離さないように、俺は石田の手を強く握った。寝てるはずなのに、石田は俺の手を少しだけ握り返してくれた。



 夢の中も俺と一緒に居たいんだってさ。














20130715
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あ、ちなみに、恋雨でもいけなくないか、これ? 基本的に一護と恋次は喋り方同じだよな。いや、ビミョーに違うか。やっぱり一雨か。書き分け難しいですね。
んで、書いたのちょうど三年前だ……これを以前ご覧になった方は再び申し訳ありませんって、思うけどさすがにいないだろうな。