黒崎が、僕を好きだと伝えて、僕に気持ちをくれたから、僕達は付き合ってもう半年ぐらいになる。
「石田……」
黒崎が目を伏せて近づいてくるから、僕は目蓋を伏せたふりをしながら、黒崎と唇を重ね、髪の毛と同じ色をしたオレンジの睫毛を見る。髪の毛と同じように、オレンジ色の明るい睫毛は、意外と、長い。
何度か柔らかく触れては離れるキスを繰り返すと、身体はじんわりと溶けて行く……キスしている時の黒崎の顔を見ていようと思ったのに、いつの間にか僕は目を閉じてしまっていたようだった。
「石田……いい?」
額をくっつけて、了承を求められる。照れた黒崎の顔が、少し赤く染まっている。
「いちいち訊くな」
素直に答えたくなくて、横を向くと、黒崎が僕の顔を追いかけきて、僕の頬に唇が追い付く。
そうするの、知ってるんだ。少し逃げれば黒崎は追いかけてきてくれる。全力では逃げられないから、僕のわずかな抵抗で、僕はいつも通りの台詞を言う。いちいち聞くな。どうせ、聞かなくても、解ってるくせに……だから毎回僕は素直に肯定してあげない。
「んでも、訊かないと怒るだろうが」
怒るけどね。
怒ってないけど、怒るよ。僕にだって心の準備が必要なんだ。
こうやって黒崎が僕に触れているだけでも……心臓が痛いくらいに動いてる。もういい加減に気付かれてしまっていると思う。恥ずかしいけれど、これは自分の意志ではどうにもならない。
ちゃんと、これから黒崎が僕に触るって覚悟しないと、僕は溺れて我を忘れてしまうかもしれない。僕が僕だって忘れて黒崎に溶けてしまうかもしれない。
だから、ちゃんと確認して。
「石田……」
黒崎と、僕の唇が、重なる。もう、何度触れ合わせたか解らない唇は、慣れることはなく、いつまでも溶かされる。
僕の唇をなぞるように舌が動く。その感覚を追いかけながら、僕は流されないように黒崎の首に腕を回す。
黒崎の手が、優しい動きでシャツのファスナーを下ろして、素肌に触れた。
「………っ」
胸を、触られると、じんと痺れる。変な感じ。
「お前、胸弱いよな」
僕は男で……そんな場所なんか、何の役にも立たないのに、皮膚の薄い場所だから仕方ないんだ。
「っ……るさい……っあ」
きっと、僕は、黒崎に触れてもらうためにある。
だからこんなに気持ちがいいんだ。
そう、できているんだ、きっと。
黒崎のキスが、僕の首筋を降りて行く。ぞくぞくする。鳥肌が立つのに、寒くなくて熱い。
僕の中で熱が、膨張する。
身体を触られる度に、僕の中の温度が一度ずつ上がって行くような気がする……そしていつも最後には沸騰して意識は気体になる。
ズボンのファスナーを下ろす音は、毎回慣れない。
聞こえると、恥ずかしくて目を閉じたくなる。それでも、期待して熱が中心に集まって来る。
下着ごとズボンを脱がされて、ベッドにそっと寝かされる。その行為一つをとっても、黒崎はとても僕を優しく扱う。壊れ物のように、大切に扱おうとしてる。
僕は、壊れないのに……。こう見えても、意外と丈夫なんだよ、僕は。君が触ったぐらいで壊れたりしないのに、
何で、そんなに優しくするんだろう………僕に、そんな価値あるの? 黒崎が僕にそんなに優しくしてくれる価値あるの?
僕を横たえると黒崎は、自分の服を乱暴に脱いで、床に投げ捨てた。
暗がりでもわかる……黒崎の引き締まった身体のライン。
すごく、綺麗だと、思う。
同性にそんな事思う僕が変なのかもしれないけど、黒崎の均整のとれた引き締まった身体は、何故か僕を抱く。
何で、僕なんだろう。
面白味のない身体をしていると思うのに。女の子みたいに柔らかいわけでもないし、女の子と違って自分で濡れるわけでもないから、簡単に身体を繋げることもできない、つまらないはずなのに、僕は男なのに……何でだろう? いつも、疑問に思う。でもその疑問の答えは、きっと僕は知っている。知っているし、それ以外のはずがない。
だから、訊けない。
もし僕が知っている以外の答えを黒崎が僕にくれたらって、そう思ったら、怖くて聞けるはずがない。
でも、なんで僕だったんだろう。
枕元に黒崎が手を伸ばしている。いつも、ハンドクリームとコンドームを枕元にあるケースにしまってある。
「……黒崎」
「ちゃんとゴムつけるから」
そうだけど………そうじゃない。
黒崎がゴムを付けている間、僕はただその様子を見ている。初めはだいぶ手間取ってたのに……馴れた手付き。もう、何回もしてるし。多分、二箱目が今回で無くなってしまうだろう。
「黒崎………」
「ん?」
黒崎が僕を抱く理由は、黒崎が僕を好きだと言ってくれたから。僕もその気持ちが嬉しくて受け入れたから。今僕達は恋人だから。だから黒崎は僕を抱く。
何で、黒崎は僕を選んだんだ?
君ならもっと優しくて可愛い女の子だって好きになってくれるだろう。
君なら、君が選んだんだ人なら、君が好意を向けてそれに応えない人なんて居ないと思うのに……。
「………何でもない」
そんな事、やっぱり訊けない。
そんな事で悩んで、考え直されて、黒崎の気持ちが僕から離れるのを、僕は許せない。
黒崎の指が、僕の中に入って来る……ハンドクリームがついて、ぬるりとして滑りがよくなっているから、黒崎の長い指が中まですんなり入った。
初めての時は、それだけで痛かったのに……もう、指だけでも感覚が鋭敏になる。
「あ……ん、はぁっ」
黒崎の指は、僕の感じる場所を覚えていて、そこを重点的に刺激してくる。
「あっ……ふ……」
それだけで、僕の感覚はどんどん登って行く。どんどん温度が上がって行く。
「入れていい?」
「…………」
入れて欲しい、だなんて、言えない。自分からなんて……僕がこんなに黒崎を求めて居るだなんて……言えない。
横を向いた僕の足を黒崎が抱えた………。
「入れる、ぞ」
「うん」
入り口に宛がわれた黒崎の……熱い……
少しずつ、入って来る。
「あ……あぁ…あ…」
黒崎の熱くて大きなのが、僕の中に埋め込まれて行く……。
体温が上がる。
僕が昇る。
黒崎の腰が動く……動いて僕の中を擦り上げる。
そうされる度に、僕の中の温度が上昇する。
「あ……ん、あ……やっ……黒崎っ!」
腰を打ち付けられて、どんどん僕の熱は上がる。
耐えきれなくなって、僕は黒崎に手を伸ばす、黒崎に助けを求めて、僕はしがみつく場所を探して、黒崎に手を伸ばした。
黒崎の首にしがみついて、突き上げて来る温度に耐える。流されてしまう、僕が何処かに行ってしまう。
「あっ……黒崎っ! ……黒崎」
熱が臨界点に達して、僕が沸騰する。
僕の中の温度が膨張する。沸騰して気体になる。気体になって膨れて、僕という器に一杯になって充満する
「石田っ……も、イク」
弾け、た。
「ひぁ……あぁあっ!」
僕の中を一際強く抉って、黒崎が僕の中で膨張して弾けた。
その、熱で……僕も………
破裂、する………ような
僕の器から弾け飛んだ意識が、気体になってふわふわと部屋中に散布されたような、そんな感覚……それが……。
僕は、堪らなく好きだ。
→
20130430
初出20100713以前 |