「寒い……」
僕は、布団の中で足を擦り合わせた。自分の足なのに、氷と氷のようなきがするから、触りたくないけど、少しでもぬくもりを求めてすりあわせてしまう。
寒い……身体が暖まらない。安いアパートなんだ、すきま風でも吹いているのではないだろうか。
外は雨が降っている。夜半には雪になるって天気予報は言ってる。寒いはずだ。骨の奥まで冷たくなる。
別にまだ寝る時間じゃない。具合が悪い訳でもない。やりたいことがないわけじゃない。
ただ、寒いんだ。
珍しくバスタブにお湯を張って長いこと漬かって居たけれど、出てきて一時間もしないうちに指先から足の先から冷えてきた。
何だよ。
何でわざわざこんな日に限って黒崎は来ないんだ? いや……悪いのは僕だけど、いや、僕がじゃなくて、お互い様なんだけど……
別に、黒崎が来ないのは、いつもの喧嘩だ。珍しいことじゃない。黒崎も融通が効かないし、僕も黒崎によく何を考えてるかわからないと言われる。僕には黒崎が他人を理解しようとしていないのが原因なんじゃないかと思うが、性格の不一致や、見解の相違、ただの誤解、それがどうであろうと、昼間、学校で喧嘩した事実は変わらない。
明日は休みだから、先週の予定では今日、来るはずだったのに……来たら、いつもみたいに泊まって行けば、布団が暖かくなったの間違いないのに。何でこんな日に限って……僕の馬鹿。布団は狭くなるけど、だって布団が温かくなる。夏場だったら来なくても良いけど、何でこの寒い日に、僕は大事な湯タンポを手放すような真似をしてしまったんだろうか。
何で、来ないんだよ。
別に、黒崎が来たって僕の日常が何か変わることもない。僕は僕でいつも通りに掃除や洗濯や好きなことをしているし、黒崎も勉強をしたり音楽を聴いたり、買ってきた雑誌をめくっていたり、そんなことをしているだけで、黒崎が来たって、僕の生活は乱されない。たまには一緒に映画を見ることもあるけど、そのくらいだ。
どうせ黒崎は口数が少ないし、僕だって必要のないことはいちいち喋らない。
だから、多少は空間が狭くなって、歩くときに邪魔だったりするけど、それでも黒崎が部屋にいても、あまり僕は気にならない。
それに、黒崎が近くに居ると、温かい。
もちろん、物理的にもだけど、黒崎の霊圧は、大きくて温度なんかないはずなのに、近くに居ると包まれているような気がして……だから、黒崎が隣にいるのは、嫌いじゃない。
だから、好きだって言われて、僕もそうなのかなって思って、抱きしめられて、好きだって、そうなのかって思って……だから、付き合ってたりするわけなんだけど……。
何で、あの馬鹿、今日に限って僕の言いたい意味を理解しないんだ。
何で隣にいないんだ。
そう思ってしまっても、喧嘩をしたんだ、来ないのは当たり前……な、はずなのに。
玄関に、黒崎の霊圧が……。
「っ……馬鹿か君は!」
慌てて布団から飛び出して玄関のドアを開けたら……いた。間違えるはずのない、黒崎の、霊圧。
馬鹿か君は! だって、喧嘩したばかりなのに。今はまだ僕と話だってしたくないだろう? 僕だってお断りだ!
「何でだよ……」
何で、来るんだ?
もともと不機嫌そうな顔なのに、さらに人相が悪い黒崎は傘をたたんで、玄関に入ってくる。そっか、雨降ってたんだ。
雨降ってんのに、なんでわざわざ……。
「俺、まだ、怒ってんだからな」
僕は、何で来たんだって訊いたのに、それは僕がほしい言葉じゃなかった。
「怒ってるけど……でもさ」
そんなこと、知らないよ。僕には関係がない。
扉が閉まって、その音がしたから、僕は黒崎に抱き付いた。
まだ、僕だって君と口なんか聞きたくもない。
だから、何も言ってあげない。
黒崎の身体は濡れてた。外は雨が降っているんだ。夜から雪になるって言ってた。そろそろ雪に変わる頃だろうか。何でわざわざこんなに寒いのに、馬鹿じゃないのか?
黒崎の癖に、身体は冷たい。
「僕だってまだ君を許してないんだ」
だから、そこはお互い様だ。妥協点を見つけるか、互いに譲れない一線を守るために、馴れない会話でとことん話し合うか……これは、やめておこう。きっと誤解が深まるだけのような気がする。
それにそんな事は、いつだってできる。こんなどうでも良いことで喧嘩なんて、僕たちの日常なんだ。
だから、喧嘩してそれが今どうだって、それは黒崎の勝手だし、僕が怒ってるのも僕の自由だ。
「ただ、お前が寒がってんじゃないかと思ってさ」
寒いに決まっているだろう?
だって、こんなに冷えているんだ。こんなに冷たい黒崎にくっついているんだ、寒くないはずがないだろう?
「違うだろ?」
何で、わざわざこんなに寒いのに、僕に会いに来たかって、訊いているんだ。
だって、こんなに冷たくて、雨なのに、雪になるかもしれないのに。
「ああ。違うな……俺がお前に、会いたかっただけだ」
ようやく、黒崎は僕が欲しい言葉を言った。
僕は、それが知りたかった。
喧嘩したからとか、怒ってるとか、僕が寒がっているからとか、それはただの言い訳だろ?
僕は、君がどうなのか、何で今ここに居るのか、知りたかったのは、それだけだ。
「僕も、君に会いたかった」
だから、たまには僕も素直に心を言葉にしてみたら、僕が黒崎に回している腕の力以上の、もっと強い力で抱きしめ返された。
馬鹿力なんだから、少しは加減しろっていつも言ってるのに……これでまたひとつ喧嘩の種が増えた……もう、これが僕達なんだから仕方がない。
会いたいって、会いたかったって、こうやって抱きしめたかったって、そう思う気持ちと、僕たちが喧嘩するのは、また別の次元の問題なんだ。
「石田……」
だって僕はまだ君を、許してないからな。
了
20130222
好きなカプの左側の人に「会いたい」って言わせてみようVer.一雨でしたー。
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