まだうっすらと噂は残るけど……かなり沈静化した。たぶん飽きたんだろう。人間なんて他人の事にそんなに興味ねえ、実際自分の事だけで手いっぱいなんだ、噂は知らないうちに消えた。
消えたけど……亡くなったってわけじゃなくて、どうやら、定着したようだ。
そんなのにも、そろそろ慣れてきた。時々俺と石田が話してるとこっち見ながら通り過ぎてく女子は居るには居るが、そんなのはどうでも良くなった。なんか付き合ったら、俺自身が浮かれすぎて周りの視線なんか本当にどうでも良くなっちまって、流石に学校で石田とベタベタするわけにはいかねえが、それでもいつも通りにしてるうちに、これがいつもだってのを見せつけてるうちに、周囲も飽きたらしい。んで、そのうちに俺達も気になんなくなったようだ。
それでいい。
つまり俺達は公認の仲って事だ。誰も俺の石田に手を出すんじゃねえっていちいち言わなくていいって事だ。
噂が落ち着いて、俺と石田が付き合ったって事実をのぞけば、完全に前と同じ環境に戻った。
昼飯を石田と食っても誰からも見られないってのは……本当に落ち着く。誰もこの平穏は崩すんじゃねえぞって、今幸せ噛み締めながら、石田が作ってくれた弁当の味を幸せだって噛み締めてるところ。
だけど……、
「そういえば、この前まで大変だったよね」
「……水色」
昼休みに屋上で、いつものごとく飯を食いながら晴れ晴れとした笑顔で、そう言い放ちやがったのは水色。
今、屋上には他のグループもいくつか居るけど、でも俺達を見たりはしてなくて、普通に皆弁当食ってる。
「お前なあ……」
結局一番楽しんでたのお前だろ? 真偽を糾したわけじゃねえが、でもどうせお前が噂流した張本人だろうが!
「でも良かったね。石田君と一護がいつ落ち着くのか、心配してたんだよ。一護もなんかおかしかったから、僕もどうにかしたいなって思ってたんだ」
悪気なんてものは一切持ってないような笑顔で、水色はぬけぬけとそう言いやがった。
「小島君……心配してくれて有り難う。もう大丈夫だよ」
……石田、ちょっと待て。良く今の言葉を考えてみろ! 嬉しそうに笑ってる場合じゃねえ! 今は友情噛み締めるところじゃねえぞ、絶対!
水色に言ったはずねえのに、付き合ってんのバレてるぞ! しかも、噂流したの自分だって、今白状しやがったよな?
俺が石田のこと好きだって気が付いたの、悪いけどそんなに前じゃない。意識しちまってからは確かに挙動不審な部分があったことは認めるけど、すぐにバレたからって……。
「でも本当にすごかったよね。こんなに凄い事になるなんて思わなくて、驚いちゃった」
だからやっぱり水色、お前の仕業だよな? で、流した本人が流石に驚いてたってのは、事実だったらしいけど……反省の色が見えねえぞ! うまく行ったからいいけど、もしかしたら俺は告白する前に振られるかも知んなかったんだからな!
「本当にね。だって僕と黒崎だよ。噂になる方がおかしいんだ」
いや、石田、それ違うから。噂は治まったからって、別に撤回されたわけじゃなくて、実際のところ、定着したんだって……。もう噂では俺達は公認の仲って事で、週刊誌で芸能人の結婚や不和の話には食いついてくるけど、仲良くしてる時は特に何も報道されないのと同じだって。
でも、石田はみんなにバレてないと思ってる。石田は、俺と石田が付き合ってんの、誰にもばれてないと思ってる。
まあ、そっちの方が良いけど。
公言したくて仕方ねえ俺を必死に止めてる石田が、誰にもバレてないって思ってんなら、それでいいんだけど。
「でも、収まる所に収まって良かったよ。もうじれったくてさ」
「まったく、本当に大変だったよ。小島君にも心配かけて悪かったね」
……いや、石田、気を付けろ! 今の言葉よく考えてみろ!
今ここに、悪魔がいただろ?
全部、コイツの仕業だって、今言ってただろ!?
「水色……お前さ」
「一護、良かったね」
水色の笑顔の前に、俺は黙り込むしかなかった。
水色が、本気で俺を嫌いで俺を陥れようってんなら、俺はこいつには敵わないだろうって思ってるし、実際そうだろう。
んでも俺は水色が俺と友達だって、俺の事を友達として信頼してくれてるって信頼があるから、俺は水色の事を信頼してる。
だから、水色に悪意があったって感じた事は無いけど…… そりゃ結果としちゃ、良かったとしか、言いようがないけど。
石田も噂があったから俺の事意識してくれたわけで。
俺は、ずっとこのままでもいいって思いかけてたわけで、石田と一緒に入れるんなら、それが友情だっていいって、そう思うくらい、石田との絆を失いたくないって思ってたから……、石田と離されたくなかったから。
「僕も一護と石田君の事、大事な友達だから、仲良くしてくれてると嬉しいからさ。役に立てたら良かったよ」
「小島君……! 小島君が心配してくれて、嬉しかったよ」
ちょっと待て!
石田っ!
やっぱり今まで友達居なかったのか! 大事な友達とか言われてこの笑顔に騙されんじゃねえぞ!
こいつの可愛いげのある顔に騙されんじゃねえぞ!
良く見ろ腹の中は真っ黒な悪魔だからな!
「良かったね。一護」
「……まあ」
だから、まとまったわけで。
あんな噂が無かったら、こんなカタブツ俺にどうこうできたか。
噂がなきゃ、石田はずっと俺の事友達って思ってくれてたってわけで……それでも俺は石田に惚れてもらうつもりではいたけど、いつになるかわかんねえ長期戦だったってことは、石田の言葉からわかった。
もし、石田とうまくまとまる事ができたとしても……多分、半端ない苦労が待ち構えてた事は目に見えてる。
ケイゴは曖昧な笑顔のまま俺達を見ながら、ケイゴのくせに達観した表情で俺達の会話を見守ってる。
石田は今までホンッッと友達が居なかったのか、今友情の嬉しさについて噛み締めてる所なんだろう。
水色は、楽しそうだった。
つまり、今日も俺達は平和だ。
「まあ……」
いいか。
なんて思ったりして。
了
20130112 |