【ラジカル】 03 








 土曜日、俺が昼ちょっと前に石田んちに行った。ちょっと早かったようで、石田が掃除機かけてたから、ついでに手伝うことで好感度アップをはかる。もともとそのつもりで早く行ったんだけどさ。
 うちが母親居ないから、料理とかはどうにも向き不向きがあって無理だけど、掃除の手伝いくらいならできる。平均的な家庭よりは、家の手伝いをしている方だと思う。テーブル拭いたり、なんかそのへん手伝うと、石田は少し笑いながら、有難うって言った……のが、嬉しかった。

 昼きっかりに水色とケイゴが来て、四時まで休憩三十分挟んで勉強会。さすがに男4人が入るには狭い空間だったけど……おかげで隣にいた石田がやけに近く感じた。

 昔、まだ石田と仲良くなる前に、ケイゴんちで、勉強会と称した泊まりをしたことあった。結局、どこからかくすねてきた酒飲みはじめて、気付いたら寝てたりしたこともあるけど……今回は石田がいるからそんなことにはならないだろうし、それに今回は一番ハメを外しそうな敬語に石田がみっちり着いてるから……しかもけっこうスパルタ……だけど……

「石田ぁ……ここわかんね」
「どこ?」
「関数のとこ……」
 スパルタだけど、羨ましいとか……
 なんだかんだ言いながらくっつくなよ! 顔寄せ合ったりすんな。石田も石田だ! わざわざそっち行くなよ。頭ぶつかりそうになりながら、参考書二人で覗き込むな! 狭い部屋で小さなテーブル男4人が座ってんだ、そのくらい仕方ねえってのはわかってるけど、それにしたって、だな!
 悔しいことを言えば、ケイゴだって喋りさえしなけりゃ、けっこうまともなんだし。喋らなけりゃ念願の彼女だって夢じゃねえとは思うけど、喋るから色々な弊害があるって程度には見た目だけはまともだと思う。
 石田も派手じゃないけど綺麗な涼しげな整った顔してるし……そんなのが並ばれたら、やっぱ普通にムカつくわけで……気が付いたら睨み付けてた。

 ら、水色と目が合った。

 水色がペン握った手を口元に当てて、俺が石田を観察する様子をじっと観察されていた。のに、気がついたのはきっと一分ぐらいしてからだろう。

「な、何?」
 疚しい事があって、声が上ずる。
「んー、大変だなあって思って」

 大変……大変だよ。石田の事で今俺の中は大変な事になってる! けど、そんな事気付かれたくもえねし、こんな所でばらされたくもねえ。石田の目の前だ! 勘のいい水色だ、確かめたわけじゃねえが、俺が石田に良からぬ感情抱いてる事を見抜いてるんだろうとは思うが。
 いや、水色のことだから、俺の気持ちがバレてたとしても、今ここで俺をからかったりすることはあっても、石田にばらすようなことにはならねえだろう、と、なけなしの信頼を寄せてみる。
 頼むから言わないでくれ! 石田と気まずい関係になりたくねえ。
 まだ下準備が整ってねえんだ。もうちょっと友情を厚くして、もうちょっと仲良くなって、それからとか、考えてるんだ。

「な、何がだよ?」
「今回の数学、範囲広いよね」

 ………数学、そうだな。

「石田君、僕も数学教えてよ」
「いいよ。今回の数学の範囲、僕けっこう得意なんだ」
 お前に苦手な教科なんてあんのかよ……毎回毎回ダントツ1位を叩き出しやがって。入試のときだけ18位とかで、それ訊いたら、1位取ったら新入生代表の挨拶しなきゃならないから、数学だけ最初の何問かを空欄にしたって、口滑らせたことあるよな?

「一護は今回数学大丈夫?」
「……いや、まあ、大丈夫ほど大丈夫じゃねえけど」
 普通に、応用が苦手。

「一護も教えてもらいなよ。石田君の教え方すごくわかりやすいよ」
「………」

 そんなこと知ってる。最初ッから、そのつもりでしたが……確かに今、ケイゴにみっちりついてるから、割り込める感じじゃなかったけど。それに、一応俺もそこそこ順位は取ってるから、それなりのプライドがあって、下手な質問したくないとか……も、あって。

「黒崎は解らないところあるのか?」
 ケイゴが、石田に教えてもらった所の練習問題を解いているから、今ようやく石田が空いた。
「えっと……58ページの応用問題」
「ああ、あれ難しいよね。あれはね……」

 って……石田が身体を俺に近づけて……なんか、石鹸の匂いがした。









20121122