石田に惚れてる。
てか気が付いたら惚れてた現状。
てのに、気付いたのは、つい最近。
石田が笑うと心拍数上がって、隣で歩いてて肩が触れたりすると心臓跳ねて、他にもなんやかんやあって……この症状が恋だって気付いたのは、本当に最近。
思い立ったら即行動の俺が……予測不可能だった事態に、何もできないでいる。
だって、好きなんだけど……それでも、だってこいつ、石田だろ?
貧乏性で所帯染みてるクセに、今までろくに謳歌した青春もなくて、高校に入っても、初恋すらまだだって箱入りで……。
前に、ケイゴがまた誰かに惚れた時に、恋の素晴らしさについて語ってたけど、石田は苦笑しながら、好きになった事ないから解らないとか言い放ちやがった……けど、つまり石田は初恋すら、まだらしい。
それに惚れた俺は……どうすりゃいいかわかんねえ。
俺らしくもねえから思い切って何らかのアクションを起こしたり、具体的に手を出そうにも、男同士とかその前に、この理性の塊のような奴に、まず恋愛感情が搭載されているかどうかの判断が必要かもしれねえ。
そりゃ俺だって、似たようなもんで、彼女が居たことないけど。
ただ、初恋は幼稚園の時に済ませたし、小学生の時だって、三年生の時に引っ越した女の子が好きだった時期もあった。なんとなく気になる女子が今までの人生で居なかったわけじゃねえが、なんとなく気になる以上の感情にはならなかったから、そのまま終わった。実際に誰かが好きだって思ったことくらいはあるけど、それで困ったとか悩んだりした経験は、ない。
そんな俺が、恋愛感情すら持ち合わせて無いようなあのカタブツの石田が好きだって……この現状どうすりゃいいんだか、もう……勘弁してもらいたい。
でも……まあ、なかなか、それほど、悪くはないと、信じてる現状。
「石田さ、土曜日泊まりに行っていい?」
昼飯は屋上。今日はチャドは居ねえけど、水色とケイゴと……誘えばついて来るようになって、最近では当たり前になってきた石田は、俺が声をかけるとちょっとだけ考えてから俺を見た。
「明日? 良いけど、中間近いから、勉強するよ?」
「お、やった。英語教えて」
ちょうど虚が出て、英語が二回分抜けてる事を知ってるだろ?
「……そっか。なら、いいよ」
反応は……悪くないと、思う。誰よりも、俺が石田にとって一番近いところにいると思ってる。
今だって笑顔付きだったし。反応は、悪くないと思う。
こんな感じで泊まったり、もう何度かしてる。大抵勉強したまま夜になって、帰るの面倒になって、遅くなった時間にに家に電話入れる感じだけど。いつもは渋い顔する親父も石田ん家だって言うと、特に何も言わないから、実際には何度かのレベルじゃなくて、頻繁になってきてる。
それに、石田の作った料理だって食ったし……美味いって言ったら、素直に喜んでたし……素直に喜んでた石田は、半端なく可愛かった……とか。
思い出してにやけそうになる。
石田見たら、俺の視線に気付いて笑ってくれたし……悪く、ねえんじゃねえかな。
「石田あぁあ! 俺もっ! 俺も俺もっ!」
そんな俺達の視線を遮るように、邪魔者が出現した。
「浅野君も? いいよ」
………ケイゴ、空気読めよ。
今、滅茶苦茶いい雰囲気だっただろうがっ!
いや、こいつにそんなん読まれたって困るけど。
俺が石田に惚れてるだなんて気付かれたって困るけど。けど!
「浅野君は今回苦手な教科あるの?」
「俺、数学と現国と古文と英語と生物と政経と……」
「要するに全部だね」
だけど! 離れろ、ケイゴ! 誰に断って石田に飛び付いてんだ!
馬鹿丸出しの大型犬によく見る光景だぞ!
犬ならまだ許せるけど……俺だってそんな密着した事ねえよ!
とりあえず、ケイゴの後ろ襟掴んで、思い切り引き剥がした。喉がつまったらしく、グエッて変な音がしたけど、気にせずに放り投げる。
「どうしたの、一護、なんか凄い怖い顔してるけど」
水色が、そんな俺を見て驚いた顔を作った……のを、見て……
今、ちょっと悪寒がした。けど、気のせいか?
今の水色の表情、したんじゃない………作った。ような、気がしたんだけど。気のせい?
「いや、ほら、石田が迷惑してんだろうが」
「別に僕は構わないよ」
「石田もこんなデカイ男くっ付けて喜ぶなよ!」
「喜んでないけど、構わないって言ってるだろ?」
俺が構うんだよ!
俺以外の奴が石田に不用意に触るの嫌なんだって!
……なんて、言えるわけねえ。
「一護っ! まさか石田に嫉妬したのか? 大丈夫、俺も一護が大好きだぁ!」
などと飛び付いて来たケイゴを片足で防御しつつ。
「違うっ!」
一喝しつつ……実際、違わない。
今嫉妬した。俺は、ケイゴに。
ケイゴなんか、好意向けた相手なら、老若男女問わず抱き付く習性があるの誰だって知ってんのに、ケイゴに、滅茶苦茶嫉妬した。
俺だって石田に触りてえんだって。あんな風に抱きついてみたいとか思ってるんだって!
「一護って、そっか……」
後ろで、水色の声がした。気がした。
そんでまた、悪寒がした、気が、する。
「……水色?」
「何?」
「今何か言ったか?」
「何も言ってないよ?」
「………」
ニコニコと……歳上キラーと名高い純真無垢な笑顔を浮かべて……俺は知ってる。コイツのこの笑顔の裏側が、常にとんでもない事を。
草食の極みのような顔して、誰よりも肉食なコイツが、何を考えてんのか、俺は解らなかった。
今は、まだ。
20121117
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