【迷走台風】 10








 もう、本当に無理。
 絶対何を言われたって無理! 次なんか絶対無い!

「だから、本当に悪かったって!」
「………」

 僕はベッドの上から阿散井を見下ろす。そして、再び阿散井はベッドの下で土下座をしている。

「な。悪かったから、機嫌直せよ」
「…………」

 阿散井なんて猪突猛進で直情的で解りやすい性格だと思うんだけど……この性格を御せないなんて、僕が未熟なだけか? それともこれが年の功ってやつか?



 ああ、でも……本当に。

「阿散井、君は黒崎と似てるな」

 前に、阿散井に同じ台詞を言ったような気がする。
 本当によく似てると思う。いい意味でも悪い意味でも。
 真っ直ぐに前しか見れなくて、目の前の事に全力投球で、こっちがその力に流されてしまうんだ。全部力押しで、僕が何を考えていたって、それ以上の大きな力で来るんだ。


「褒められて気がしねえ……」
 憮然とした声で凄く不機嫌そうな顔をしたけど。

「褒めてるよ。半分はね」




















 そして、僕は流された……また。



 また、だ!

 もう本当に何回目だ?
 初めてを経験してから二ヶ月。
 ほとんど毎週のように来るから、ほとんど毎週……つまり、数えたくない。

 キスまで許すと、そのまま流れて結局及んでしまうから、本当に細心の注意を払っているはずなのに……おかしい。

 昨日は、何でだ?
 どこで間違えたんだ?
 昨日はテーブル押して広いスペースを作って二人でなんとなくテレビ見ていた。ら、なんだか後ろから抱き抱えられた。

「何考えてるんだ!」
「いや、ただの背もたれだと思えばいいって。楽だろ?」

 とか、言われたら僕ばかり意識してるみたいで、なんとなくそれ以上何も言えなくなってしまった。こうしているだけだって言われて……それ以上しないんだったら、確かに背もたれにちょうど良かったからそのままにしてた。

 そのうちに首筋にキスされて、さすがに怒った。

「何? 感じちゃった? 敏感過ぎねえ?」
「そんなわけないだろ?」

 とか……ムキになって否定して……ああ、多分あれからだ。
 いや、そもそも背もたれの時点でおかしい。僕は阿散井とは友達の付き合いをしたいんだ。友達はそんな事しないだろ? いや、死神相手にまず何でこんな事になっているのかもう何だかわからないけれど、最低限友達の範疇なら心を許せる相手だと思う……それだけでいいのに。
 と言うか、スペースを広げようと思った時に間違えたのか?



 隣で気持ち良さそうに枕に顔埋めて寝てる阿散井の片腕は太くて、固くて丸太のように僕に乗っかっていて重い。

 さっさと起きて帰ってくれないだろうか。


 と思いながら、最近は阿散井の好物把握しはじめてる僕がいる。
 だいたい洋食系のファミレス定番メニュー。


 それで毎週金曜日か土曜日に泊まり。日曜日に帰る。

 来ない時も二、三回あったけど……現世ってそんなに忙しいのか?


 だとしたら手伝おうか?
 死神は仕事でやってるけど、滅却師はボランティアなんだから、死神が頑張ってくれてるなら手出ししない方が余計な確執も無くて済むんだ。
 ドラマとかで良くある県を跨いでの警察の確執と同じようなものだと思う。こっちの立場の方がだいぶ弱いけど……というかどうせ滅却師なんか絶滅危惧種なんだろうけど。死神はこっちが絶滅したって構わないんだろうけど。

 まさか、あれか?

 僕が子孫を残さずに滅却師を途絶えさせるために、阿散井がそんな長期計画の仕事を受けて、僕を監視しているのか?
 とか、一瞬疑ってみたけど……まあ、阿散井には無理だろう。嘘なんか吐けなそうだし、阿散井の嘘ぐらい見破れる自信ある。





 赤い髪を布団に散らして暢気な顔で寝てて……せめて腕、外してくれないかな。重いし動けない。
 平和そうな顔。
 安定した寝息。

 昨日だって、最後はあんまり覚えていない。阿散井が中で出したのが最後の記憶で、その後夢うつつでシャワーの音が聞こえたから、僕も入らないとって思いながら……身体がベトベトしてないから、拭いてくれたようだけど……。

 それにしたって鼾混じりの寝息が腹立たしい。




 鼻を摘まんで口を塞いでみる。

 すぐに眉間にシワが寄せられて……三十秒後ぐらいして。




「ぶはぁっ!」

 飛び起きた。

「お早う」

「てめっ、殺す気か?」
「どうせ義骸だろ? それが死んだらどうなるの?」
「やめろよ、義骸は高いんだぞ!」
「なんだ、死なないのか」


「…………」


「お早う」
「オハヨウゴザイマス」

「他には?」
「昨日は調子に乗りすぎてスミマセンでした」

「昨日は?」
「……昨日も」


 とりあえず、謝って貰ったから、一応は機嫌を直してやろう。

 ようやく阿散井の腕から解放されて、朝食を簡単に済ませてから掃除を始める。とにかくこのこもった空気はまずい。空気が澱んでる。

「今日はどうするの?」
「んー……」
「今日は友達来るから、早く帰ってくれる?」
「へー、何? 誰が来んの?」

「勉強。試験が近いんだ。浅野君と小島くん……」

 小島君は勉強は出来る方だと思うけど、出席日数が限界で点数の下限があって、今回はピンチらしい。最近お付き合いしている彼女が平日休みなんだって言ってたから、病欠じゃないんだろうけど。出てない授業はさすがに解らないだろうし。
 浅野君は、勉強すればいいと思う。

 だから、その二人と……。

「あと黒崎」

 も、ついでに。
 って言うか、黒崎に二人が頭下げてる時に、側を通りかかったら僕も捕まった。結局僕もそれになし崩し的に参加が決まって……。
 だから、今日は三人来るんだ。




「……帰らねえ」

 だから、黒崎の事は伏せておこうかと思ったけど、嘘を吐くのはあまり気分が良くないし……バレたら後で面倒かも知れないし。いや、僕がそんな事でわざわざ気を使う必要なんてないんじゃないだろうかと、思わなくはないけど、一応言っておくと、阿散井は案の定の返事をくれた。


「だって、狭いから無理だ」

 だってこの部屋は8畳のワンルームだ。
 阿散井が居るだけでも狭い気がするのに、それに浅野君と黒崎だろ? 入らないって。小島君が三人来るなら大丈夫だと思うけど。浅野君もけっこう体格がいい方だし、黒崎は体格がいい。それに阿散井が入ったら……

「絶対帰らねえから!」
「………」

 そんな宣言されたって……。

「だって阿散井が居ても、何もする事無いよ?」

 阿散井がのんびりできる日曜日は、日用品の買い物とか模様替えとか、時間があれば散歩とか一緒にしてたけど、今日は本当に、悪いけど邪魔。
 せめて阿散井の体格が平均サイズならまだしも……自分が規格外なのを自覚してくれないだろうか。180を越えた部分は戦闘以外の日常生活じゃ邪魔にしかならない。


「あ、ほら来た」
 黒崎の馬鹿でかい霊圧が近付いてきてたのを感じた。あと二つ。小島君と浅野君。


 それから一分もしないうちにチャイムが鳴る。









20121014