「何でまた来るのかなあ……」
近くに来れば霊圧で解るのに、チャイムを連打された。僕が居るのは霊圧でわかるだろうけど……僕だって人間なんだからトイレに入ってたりする事だってあるんだ。
しつこいチャイム連打に慌てて出ると、阿散井は満面の笑みで肉やら野菜やら食材がぎっしり詰まった袋を僕の前に突き出した。
「カレー食いたいんだけど」
「……いいけど」
いいけど……
前にカレー作ったのがだいぶ気に入ったらしくて、最近カレーをよく食べてる気がする。材料は一般的にはニンジン玉ねぎジャガイモと肉って言ったの覚えてたみたいだけど、キャベツはあまりカレーに入れないのに……別に、いいけど。
僕は阿散井が材料買ってくれると、その一週間はその残りで間に合うから、家計は助かるから、正直なところ有難いけれど。
助かるんだけど……昨日ニンジン買ったばっかりだし、ジャガイモもまだあるのに、冷蔵庫に入らないよ。こんなに牛肉買ってきて、僕は鶏肉が好きなのに。いや、別にいいけどさ。別に牛肉嫌いなわけじゃないし。一人分作るのも三人分作るのも大して手間は変わらないからいいけど……。
僕は、いいけど………。
一週間しか経ってないよね?
一週間で気持ちの整理がついたのか、阿散井は?
一度だけ、僕を抱いた。それで忘れるって……それは、もう良くなったって事か?
いや、別に僕の事なんかで悶々としてる阿散井なんか見てらんないから、阿散井がもう大丈夫ならいいけどさ。
いいけど……もう、気持ちの整理がついたのか? 阿散井の気持ちって一週間程度だって事か?
つまり僕は一週間で忘れる程度か?
僕だったら、もうしばらくは落ち込んでいると思うけれど……いや、でも脳味噌の構造自体阿散井とは出来が違うのかもしれないから、一週間あれば、もう気持ちの整理なんて終わってるのかもしれない。
……とか、思うと少し気分が良くない……ような……いや、いいけど。
うん。カレーも美味しく出来たから……別に僕にはなんの不満もない。
相変わらず、流し込むような勢いでカレーを平らげていく阿散井の食欲は辟易しつつも微笑ましい気がする。美味しいって食べてくれるのは嬉しい。けど、もう少しちゃんと噛んで飲み込めばいいのに。
「カレー好きだね」
「ああ。あっちじゃ食えねえし。あとハンバーグだっけ、あれも好き」
「解った次はハンバーグね」
………なんだ僕は。
いや、いいけど、何で僕が阿散井の好物を把握してなきゃならないんだ?
好きな人の……黒崎の好物だって知らないのに……別に、知ってどうなる事でもないけど。
「ごっそーさまっ!」
僕の倍は食べた阿散井は、僕より先に食べ終わって手を合わせた。明日のカレーの方が美味しいから多目に作ったはずなのに、鍋は綺麗に空っぽだ。
「まだ入るよね?」
「いや、さすがに食い過ぎた」
「君がバナナ買ってきただろ? 僕あまり果物食べないから、食べて行ってもらわないと困るんだよ」
さっき阿散井が買ってきたスーパーのビニール袋には大きな房のバナナも入っていた。朝食にすればいいけど……でもそんなに好きじゃないから、きっと悪くなるまでに食べ終われないと思う。少しでも消化していってもらわないと困る。
食器を片付けた後、テーブルの上に冷えた麦茶とバナナを置く。
阿散井が食べられないなら、これ、本当にどうしよう。嫌いってほどでもないけど、そんなに好きじゃないし……。
「流石に、ちょっと今満腹で食えねえ……」
「加減して食べろよ。だいたい、よく噛んで食べれば消化にもいいし……」
「はいはい、気を付けますって」
……聞く気、無いな。
義骸の構造がどうなってるのかは良く解らないけれど、基本的に人間と同じでいいんじゃないだろうか。だったら、やっぱりちゃんとよく噛んで食べた方が……
「これ、浦原さんからもらったバナナで、けっこう旨かったぜ」
言う気も、無くした。
仕方ないから、僕は一本むしり取って剥く。
バナナなんて、最近食べてないな。バナナ以前に果物もあまり食べない。嫌いじゃないけど、高いし……食べたくないわけじゃないけど、やっぱり生活費を考えて取捨選択すれば、まず切り捨てる部分だ。
皮をむくと、ふんわりと甘い香りが広がった。
美味しそうだけど……さすがに僕もお腹一杯だし、ちょっとキツい。
けど、剥いたから食べない訳にはいかない。
意を決して、バナナを口に含んだ時。
「ぶ……っ!」
突然、阿散井が茶を吹いた。
「ああっ、もう! 何やってんだよ」
阿散井は麦茶を口からボタボタ垂らして、僕を見ている。
「てめ、何て顔して食ってんだ!」
食べる時の顔になんでいちいち注文つけられなくちゃならないんだろう。
「お腹一杯なんだから、そんなに美味しそうに食べられなくて悪かったね。だからって吹く事無いだろ」
慌ててタオルで阿散井がこぼした所を拭いた。Tシャツにもかかってるし、ジーンズも濡らしてるし……今日の午前中に洗濯機回したばっかりだったのに……洗わないと駄目かな。いや、なんで阿散井がうちに泊まることを前提に僕は考えているんだろう……だってあんな事をしてから一週間しか経ってない。僕は一週間流石に色々と思い出して、時々挙動不審だったのかもしれない。小島君だけじゃなくて、浅野君にまで、どうしたのかって訊かれた……どうかしてたらしい
あんな事をしてから、まだ七日も経ってないのに……泊まるか、普通?
いや、でも阿散井のことだ。きっと、いつも通りに泊まる可能性もある。
とりあえず、阿散井の着替えは、置いていったLLサイズのパジャマくらいしか無い。今下着になってもらっても困るから、タオルで拭いて……る、うちに。
阿散井のが大きくなってる……事にようやく気付いた………。
「…………!」
これは……。
今、僕が触ったから? いや、触ってない、そんなに。少しは触っちゃったかもしれないけど、かすった程度だ。いや、でもやっぱりあんまり触ってない。
何でっ! 股間をっ、膨らませてるんだ、この男はっ!
明らかに、ジーンズを押し上げて大きくなって……
つい……見て、しまう。
これ……阿散井のここが……僕の中に入ったんだよな……。
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20120921
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