【加圧型ラバーズ】 13








 …………一護は、石田の肩にジャケットをかけたけど……



 いや、そりゃ、無理だろ?
 お前、ジャケット脱いだらそのTシャツ一枚だろ?
 ジャケット石田に渡したら、お前のが断然寒そうじゃねえかっ!

 さすがに俺も、もう貸すもんねえぞ!

「黒崎、いいよ。君が着てろよ。僕は浅野君にマフラー借りたし」
「るせ。暑いんだよ!」

 …………嘘だっ!
 だってこんなに寒いんだから、寒いに決まってる。
 暑いはずねえよ! こんなに風が冷たくて強いんだぜ!

 Tシャツ一枚だろっ?


「でもさ……」
「んじゃ、これ借りる」

 って一護が石田の首に巻いてあった俺のマフラーを抜き取って、自分の首に巻いた。




 ……いやね、別にどっちにだっていいけど、貸すの。一護でも石田でも構わないけど……。
 それだってお前、マフラーじゃ寒いだろ? 雪の日でも短パンランニングが標準装備の一昔前にクラスに一人はいたと言われている小学校じゃねえだろ? 寒いって、絶対!

 それにお前、そんなに優しかったか?

 いや、怖い顔と違って、意外と優しい奴だって知ってるけど、寒いからって服貸してくれるような奴だっけ?
 俺が薄着で寒がってたらジャケットを肩にかけてくれたりするか? いや、しない! 想像もできねえ。マフラーくらいなら貸してくれるかもしんねえけど、ジャケットはねえ!

 って、思う。


 女子が寒がってたら俺だって俺が寒かったら肩にジャケット羽織らせる、そんな素敵なシチュエーション夢にみたことあるけど……。

 石田にそれをやってのけた一護……って、一体。

 いや、一護が石田と仲いいのは解ってるけど。



 好意レベルが高すぎないか?



 一護はさっさとチャドの所に行ってチャドと話してる。平気そうなふりしてるけど、マジで寒そうだ。近くで見たら、鳥肌くらいは立ってんだろう。




 石田は俺の方を少し見て、気まずそうに視線を逸らした。


「あ、マフラーありがとう。黒崎が持ってっちゃったけど……月曜日には返すから」
「いや、いつでもいいって。石田が今寒くないならいいからさ」

 別に一護も石田も風邪ひかなきゃ、それでいいけど……。


 にしても、

「石田って一護と仲いいよな」

 仲いいよな。異常に


 石田が女子だったりしたら、間違いなく付き合ってるんだと思うくらいには仲いいよな。
 いつの間にそんなに仲良かった?



「どっちか女だったら、一護と付き合ってただろ」


 ちょっと、茶化して言ってみたけど、本当にこいつら、そんくらい仲いいよな。

 まあ、友達が仲いいのはいいけどさ。
 いいけど、ちょっと、なんつーか……。


「まさか、そんなはず……!?」


 って、突然石田が声を荒くした。から、びびった。何? 俺なんか地雷踏んだ?

「石田?」

「黒崎なんか頑固だし、早食いで大食いだし、風呂だってちゃんと洗ってんのかわかんないくらい早いし、寝相良くないし、強引で人の話聞かないし、僕がそんな奴と付き合うわけないだろ!」


 ……えと。



 なんか怒られた。
 怒られたけど、俺は、ちゃんとどっちかが女だったらってあり得ない前提を言ってみたよな?
 そんなにムキになることなくねえ?

 しかも、俺は、そんなに詳細な一護情報を求めたつもりねえんだけど。その一護情報って、一護が一緒に暮らしてないとわかんねえけど。

 石田は、顔赤くしてた。
 赤い顔。耳まで真っ赤になってる……。



 あ、なんか。




 石田と仲良くなって、初めて石田が照れてるの見た気がする。


 いつも、照れてるのって、眼鏡のブリッジ中指で押し上げて、眼鏡をキラーンてさせて、冷たい態度で照れ隠ししてたのは解ってたけど、こんな必死に誤魔化してる石田、初めて見た。

 あ、何だ。誤魔化してんのか。


 なんだ、そっか。

 いや、ありえねえって普通はそう思うけど、そっか。




 納得した、ような。




「あー……、まあ、いいんじゃねえ?」

 心は自由だと思ってますから。他人の性癖や趣味嗜好には俺は別に文句言う気ねえから。


「浅野君、あのさ……別に僕は……」

「いや、一護、優しいし、いいんじゃねえ?」

 ちょっと、意外だったけどさ。
 まあ、一護の態度にも、少し納得したり。俺も付き合って間もない可愛い女の子が居たら、他の男が優しくしてんの見て、心穏やかじゃ居らんねえよな。
 ただ、可愛い女の子じゃなくて、石田ってところで、かなり想定外の展開だけど。

 でも、いいと思うよ。

 石田や一護みたいに、興味ないクセに女にモテる奴らが減れば、対象女子の全体図がすこしはこっちに流れるかもしんないって淡い期待を込める以上に、石田は石田で本当にいい奴だし、一護だってすげ大事な友達だし。

 お前らがいいってなら、俺はそれがいいんだけど。




「だって……変だろ?」

 意外だったけど、変だって思うよりも納得しただけで、変だって思ったりはしなかった。
 彼女ってステータスが欲しいだけで、好きじゃない女の子と無理して付き合ってる方が、俺にはよっぽど変だって思うけどな。

「そっか? だって一護かっこいいじゃん」
「………」

 石田が、黙り込んだ。反論しないってことは、肯定って意味なんだろうか。そっか、石田って一護のことかっこいいとか思ってるのか。それは意外。
 石田は顔を赤くしたまま、チャドと喋ってる一護をちらりと見た。

 石田の視線に目ざとく気付いたのか、満面の笑顔で一護が手を振ってる。そっか……そうだったんだ。今まで気付かなかったけど、結構解りやすかったんだ、一護って。



「それに、ほら石田だって優しいし……笑うと可愛いしさ」

「…………」


 石田は、耳まで真っ赤にしてうつむいた。

 やっぱ、確かに可愛いって、さっき思ったのは間違いじゃない。
 女子みたいとかは一度も思ったことないし、顔は整った顔をしているけど可愛いって思うわけじゃない。性格だって仲良くなって優しい所を見つけたけど、基本的にキツいと思う事の方が多いし。
 でも、こうやって顔を赤くして、困ったような顔で下を見てる石田は、男の俺から見ても、可愛いって思った。



「それに、俺一護の事好きだから、一護が選んだってなら、絶対信頼できるって思うし」

 一護って本当に人の顔覚えない奴だけど、人を見る目はあると思う。うるさそうにしておきながら、けっこうちゃんと話聞いててくれるし、相手のこと一切見てなくて気にしてないような感じがするけど、意外と見てる。一護が選んだ相手なら、絶対に一護が不幸にならないって勝手に信頼してる。
 だから、一護が石田を選んだったら、それがいいんだと思う。


「それに俺、石田も好きだしさ」

「………」


 だから、一護と石田が仲いいお友達でも、付き合ってても、俺は二人が居ればそれでいいって、ニュアンスをちゃんと伝えようと口を開いたのは、

 知らないうちに背後まで来ていた一護に、俺が殴られる数秒前。


















20120828
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