「石田、頼む!」
って、科学のノート目の前に頭を下げてんのは、俺じゃなくて一護。
じろりと見る石田の目付きは氷点下で、俺が浴びたら凍りそうだけど、一護はそのブリザードをものともせずに頭を下げてる。
なんつーか、先を越されたてか、一護にノート借りようとしたら、一護が石田にそんな状況だった。めずらし。
「後で自分でもやってみるから、授業始まる前に答えだけ教えてくれ! 今日当たるんだ」
「……昨日、大変だったのは解ってるけど……」
「あとで昼飯奢るから!」
「別に、いいけど」
「悪いっ! 本当助かる!」
そう言いながら、一護は石田の手を握ってブンブン振ってた……のを、見て、やっぱり一護ってすげえって思うわけだ。
俺は、あれはできねえ。一護と一緒に石田にタックルかますことは今朝クリアできたけど、まだ石田にピンでツッコミ入れるほどには俺も成長できてねえ。
仲良くなったつもりだけど、石田が俺を友達と思ってくれてんのかちょっと不安だから、そこまではできない。
だって石田あからさまに不機嫌な顔してねえか?
「鬱陶しい。離せ」
ほら。やっぱ、石田怖い。一護にはよく言われるけど、石田に言われた俺きっと泣くとおもう。
っだけどそれを意に止めず、石田に手を振りほどかれるまで石田の手を握り続けられる一護すげえ。俺も大概空気読めない方だけど、石田が手を抜き取ろうと頑張ってるのに気づけよ一護。
「さんきゅ、な。ちょっとノート借りるわ」
…………一護、強い。
でも、さっき朝、石田と一護にタックルかました時の石田の反応と大分違う。
そりゃ大歓迎って笑顔で迎えられたわけじゃないけど、ここまで冷たくされなかったよな。今朝は俺にはすげ困ったように笑ってたけど、別に、放せとか言わなかったし。
俺だって今から石田にノート借りようとしてるど。
もしかして、今ものすごく何かで機嫌を損ねていて、今俺も石田からノート借りたいとかお願いしようとしたら、この反応だったりするのか?
にしても、何で石田は……
「浅野君、どうかした?」
うっかり石田の顔をガン見してた。
「あ、いや……」
なんか、地味だけど整った綺麗な顔してるよな、コイツ……とか、感慨に耽ってる訳じゃなく俺にも使命がある、石田のノートを見せてもらうと言う……!
今のブリザード的な視線見た直後だから、うっかり怖い。
怒られるんだったら泣く泣く諦めますが、でも一護が今奪って行ったノートには、俺が喉から手が出るほど欲しがっている輝かしい解答があるってのに、みすみす見過ごすわけにはいかねえ! 俺の成績がリアルにかかってる。
「あ、あのなっ、俺も宿題やったんだけど全然解けなかったんだけど、今日あたるから、少しでいいから、石田のノート見せてもらいたいんだけど……」
俺はけっこうびくついてたと思う。
石田の視線が俺に止まるのが怖かった。さっきの一護みたいに、何で僕が君に見せる必要がある? とか一蹴されたら俺泣くぞ? 俺は石田の事友達だと思ってるわけだし、いや勿論ノート見せてくれるのが友情だとか思ってるわけじゃねえけど。
「いいよ」
あれ? すんなり。
「なんだ。驚いた」
「は?」
「なんかやたらと僕の顔を見てるから、僕に真剣な話かと思った」
石田は……普通に笑ってくれた。いつも俺と話す時に笑ってるわけじゃないけど、でも頻繁に見る事が出来るようになった石田の無表情以外の顔。
「……あ、まあ……それなりに真剣だから」
それなりに、けっこう、かなり真剣だった。俺の緊張の糸がもう、緩んだって言うか、なんつうか……
「いいよ。でも授業始まる前には返してくれよ? 今黒崎が持ってるから」
あああもうっ! 何だったんだよ、さっきの一護への態度は! 怖かったじゃねえか! やっぱり石田って冷たくて怖い奴なのかとか勘違いしそうだったじゃねえか!
「悪いっ! 助かる! さすが石田大明神!」
俺も同じように石田の手握った! やってみた! いいよな! 俺達友達だよな!
けど、冷たいんだけど、こいつ血液通ってんのか? 男で冷え性とかってあんまりナシだぜ? とか思ったのは口にしなかったけど。
俺も一護みたいに怒って振り払われんのかと思ったけど、石田は気にした風もなく、俺に握られたまま……少しだけ困ったような顔をしたけど、振りほどくような事も無くて。
「放課後で良かったら、解らなかったところ教えようか?」
ピカーッて後光が射してた……。
……一護ってもしかして嫌われてんのか?
いや、でも……今朝も一緒に登校してきたし。後ろから見た感じじゃ、仲良さそうだったし。
もしかして、逆か?
石田がすごく慣れたら、一護みたいな反応なんだろうか。
俺とは仲良くなってくれてても、まだちょっと立ち入り禁止区域がちゃんとあって、それ以上は入れないようになってる気がする。
もしかして石田が素で接してると、あんな感じなのかな。
遠慮とかしない石田は一護みたいに接してくれんのかな。
いや、優しい石田は大好きだけど、素で接してくれてんのはわかるし、時々石田の天然目の当たりにする事だってあるけど、やっぱり全力じゃなくてどっかよそよそしい感じだから……。
「なあ一護」
「あ?」
石田の整然としたノートを必死で書き写してる一護に声をかけると、一護は顔も上げずに返事した。
授業始まるまであと5分。
俺も隣の席の椅子に無許可で座ってノートを広げて、一緒にノートを写す。俺も必死で、喋ってる余裕なんてあんまりないけど。
「石田ってもしかして、かなり一護の事好きなのかな?」
結局一護とよく一緒にいるし。
石田って一見冷たそうに見えるけど、仲良くなれば優しい奴だけど、ちょっと俺とはまだマブダチまでは仲良くなってない気がする。
でも意外と一護には言いたいこと言ってるし。
線とかそういうの取っ払って、遠慮をなくした石田は一護にするように接するんだろうか。
ちょっと怖い気もするけど、そんな石田にも慣れてみたいとか……遠慮とかされたくないし、俺はどっちかって言うと、ちゃんと心と心でぶつかり合う友情とか憧れるタイプなんで、少しだけ……本当に一ミリにも満たないくらい少しだけ、一護が羨ましいような気がした。
「…………そっか?」
一護の手が止まった。
「ああ、なんか気兼ねないってか、一護にだけは遠慮してないのって、やっぱり石田が一護に心開いてるからかな」
なんか、いや、石田は大好きだけど、怖い石田はやっぱり怖いけど、なんかちょっとだけ、羨ましい。
「……そう、見えるか?」
ふと、俺は顔を上げた。
一護の顔は、珍しく笑顔だった。
花のツボミが綻んだような笑顔じゃなくて、例えて言うなら、チューリップが全力で開ききっているような……顔中の筋肉が全部緩みきってて。
一護は男の俺から見てもカッコイイ奴だから、あんま言いたくないけど、ちょっと……
………カッコ悪。
「えと、たぶん」
こんなだらしない一護の笑顔見たの、初めてだ。
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20120425
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