「それは、いつから?」
俺のかまえってアピールに根負けした石田が俺に、質問を考えてくれたようだ。苦笑してた。
別に会話がしたいわけじゃないけど、石田の意識がようやく俺を一番にしてくれた。それがけっこう嬉しかったりする。
「一番最初」
最初っから。
別に、お前いつも存在感ないから、教室に居てもずっと気付かなかった。もともとあんまり人覚えんの得意じゃない方だけど、それにしても顔すら記憶になかった。
いつも霊圧を限界まで抑えて暮らしてるんだってさ。霊圧は霊感一切無くても、存在感として認識できるもんらしいとか薀蓄聞いた事ある。霊圧のコントロールが上手い石田には、霊圧消して気配を薄めるだなんて朝飯前なんだろう。だから、俺はずっと気付けなかった。
石田の事知ってから、何で石田を認識してなかったのかワケわかんねえくらい、石田が気になった。
喧嘩吹っ掛けられるまで石田の存在把握してなかったけどさ。
「何でだよ。あれで?」
あれから、気になって仕方なかった。
きっと、あの顔見たから……。あの、泣きそうな顔見た時から、気になって、どうしようもなくなった。
あん時俺に見せた石田の泣きそうな顔が、追い払っても消えなくなった。
「なんか、ほっとけなかったんだ」
「……」
石田は俯いた。
白い頬に、艶やかな黒い髪がさらりとかかった。
「お前の事護りたいって思った」
あんな辛そうな顔、二度と俺に向けて欲しくなかった。
護りたいだなんて、変な事言ってる自覚あるけど……実際、こいつ、強いし。
死神化した時だったら負けねえと思うけど、石田はずっとガキの頃から生身で虚と闘う修行してきてんだ。
石田は俺より一回り細いから、腕相撲とか腕力じゃ負けないと思うけど、殴り合いだったら勝てる気がしない程度には石田は強くて、その辺は認めざるを得ない。
でも、護りたいって思った。
あんな顔、二度とさせねえって思った。
世界人類が幸せですようにって博愛主義掲げる気なんてさっぱり無いけど、石田が笑ってくれりゃいいのにって……。
だから、誰かが石田の事を包んでやって、それで石田がもう二度と寂しくならないなら、それで良いって、そう思えればよかったんだろうけど、……そんな事、思わなかった。
それは嫌だった。
石田の事笑わせんの、俺じゃなきゃ、嫌だった。
だって、石田は、助けて欲しかったんじゃないのか?
俺に助けを求めて喧嘩吹っ掛けて来たんじゃないのか?
だったら俺が守ってやらなきゃ……だなんて、傲慢にも、そんな事思った。
石田が笑ってくれるならって、それは誰でもいいわけじゃなかった。俺じゃなきゃ駄目だ。
石田の特別になるの、俺じゃなきゃ嫌だ。
「そう? 別に僕は弱くないよ?」
「んなこと、知ってるよ」
そんな事、知ってるって。充分に承知してるって。
そうじゃなくて。
お前が、安心して俺に預けてくれたら……背中だけじゃなくて、心も預けてくれるようになったら、そしたら、俺が認められたような気がすんだ。
お前が俺を認めてくれたら、強くなれる気がする。
俺は結局俺しか見てないのかもしんないけど、でも必要なんだ、石田が。お前の為に強くなれるって、普通に思う。石田の持ってるモノ、悲しい事も辛い事も弱いとこも全部包んでやれたら、俺はまた強くなれるって思ってる。
石田が頼ってくれて、それに応えられるようになったら俺ももっと強くなれる。だから、石田に頼られるくらいには俺も強くなりたい。強くなれたらその俺をまた認めて欲しい。
石田と俺が補完し合えたら、きっと俺達は誰にも負けないって思うんだけど……。
「なんか……俺がお前を笑顔にしてやりたいと思った」
二度と、あんな顔させないから。
俺を必要としてくれんなら、二度とお前に辛い思いさせない。
だから、さ。
笑って。
「……恥ずかしい事、よく平気で言うよね」
………怒られた。
「石田、好きだ」
「だからっ! 恥ずかしいよ、君は!」
「うん。お前の事、すげえ好き」
「………」
「大好きだから」
「……………知ってるよ」
石田は、仕方ないな、と口を尖らせながら呟くと、手に持っていた編みかけのマフラーをテーブルに置いた。
邪魔者が居なくなった石田の膝の上に俺は飛び込む。
今日は、俺の勝ち。
了
20120224
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白亜の闇の一護バージョンだったら、ちょっと怖いかと思って書いてみた話。 |